36歳で早発閉経の診断を受け、不妊治療を進める中で乳がんが発覚。大きな困難を夫婦で乗り越えてきた太田可奈さん。結婚記念日には夫とある特別な時間を設けています。(全3回中の3回)

結婚記念日に「夫婦史」の時間を設けて

太田可奈
抗がん剤で髪の毛が抜けてきたころ

── 36歳で早発閉経、さらに不妊治療からの乳がん発覚。大きな困難を夫婦で乗り越えてこられました。こうした経験を経て、夫婦のカタチに変化はありましたか?

 

太田さん:どんなときも私の気持ちに寄り添って、つらいときにも前向きな言葉をかけ続けてくれた夫には、すごく感謝をしています。自分の人生にとって、彼がどれだけ大切な存在であるかを実感し、夫婦で過ごす時間をより大切に感じるようになりました。乳がんになってからは、結婚記念日に「夫婦史」の時間を設けているんです。

 

──「夫婦史」ですか?どんなことをするのでしょう?

 

太田さん:普段は仲よく過ごしているけれど、ちょっとした不満やモヤモヤを抱えることってあるじゃないですか。そんな日頃、言葉にしない思いを「実は、あのときどう思ってた?」と一緒に振り返る機会を作っています。

 

── モヤモヤを棚卸しするわけですね。たとえば、どんな振り返りを?

 

太田さん: 些細なことなのですが、乳がんで入院したとき、あまり夫が心配しているように見えず、それが私のなかでモヤモヤしていたので「なんだかそっけなく感じたけれど、本当はどう思ってたの?」と聞いたんです。そしたら、私が不安で寂しがっているだろうと思って、いろいろ考えて準備もしていたのだけれど、私が病室の人たちとすごく仲よくなって、夫そっちのけで楽しそうにおしゃべりをしている姿を見て、拍子抜けしてしまったと。「決して心配していないわけじゃない」と言われ、ホッとしました。

 

夫婦だから理解しあえていると思っていても実際、口に出してみないとわからないことって意外とあるなと思いましたね。心に引っかかっていた小さなとげが抜けることで、気持ちが晴れて、お互いの信頼感と安心感につながる気がします。

 

── 素敵な習慣ですね。小さなほころびを放置していると、のちに大きな亀裂を生むこともありますから。

 

太田さん:モヤモヤした事だけではなく、普段はなかなか言えない感謝の気持ちを言葉にする日だったりもするんです。「夫婦史」を始めて4年くらい経ちますが、以前よりも、お互いのことがよくわかるようになって心の距離が縮まった感じがしますね。

 

── 太田さんとしては、子どもが欲しいという気持ちに、折り合いはついたのでしょうか。

 

太田さん:実は、不妊治療中、里親も選択肢に入れて、いろいろと情報取集をしていたんです。でも、がんになったことで、この先、自分の身に何かあったら、夫がいろんなことをひとりで抱えて苦労するかもしれないと思い、子どもを持つという選択肢は諦めました。

 

そこから、自分は子どもを持てないけれど、子育てに参画する形ってほかにもあるのでは?と考えるようになったんです。2年前から教育事業に振りきり、子ども向けプログラミングスクールの運営に注力しているのもそうした思いからですね。もともと教員になりたかったこともあって、教育には昔から関心がありました。