スケートで身につけた「切り替え」は人生にも通じる
── 厳しい勝負の世界で28年間、つらいこともたくさんあったかと思います。
村主さん:ケガをして練習ができなくてつらい、と思ったことはありますが、基本的につらいと思ったことはありません。ケガをしてできないことを悔やんでもしかたがないので、考え方を変えて「できることをやればいい」わけです。だから、そんなに落ち込むことはありませんでした。私は悔しさをバネに頑張れるタイプだったので。
── つらいことはあまりなかった…。もともと前向きなのでしょうか?
村主さん:気持ちの切り替えの早さに、すごく助けられています。これこそ、スケートで培ってきたものです。スケートは時間内に決められた技をやらなければいけません。もし序盤で失敗して、その気持ちを引きずったまま滑り続けると、ガタガタと崩れます。「その次」「その次」と、気持ちを切り替えていく練習を日々行うので、切り替えの早さが徐々に身についたのだと思います。現在、子どもたちを指導していますが、最初はみんなうまく気持ちを切り替えられません。1つ目のジャンプで失敗するとそのまま崩れることも多いのですが、どこに思いを向けなければならないか、集中力をどう取り戻すか、という話をすると、少しずつできるようになります。
この経験があるので、何かあっても引きずらずに切り替えて、「必ずチャンスはまたやってくるから、その日まで頑張ろう」と思ってやってきました。
── スケートから学んだことは、人生にも通じますね。
村主さん:人生は一瞬の成功や失敗、勝ち負けで決まるわけではなく、長い道のりが続きます。いいときも悪いときもあるので、一時的には感情的になることがあっても、長い目で自分を見つめることがすごく重要だといつも思っています。
PROFILE 村主章枝さん
すぐり・ふみえ。幼少期をアラスカで過ごす。計五度に渡る全日本選手権優勝、冬季五輪2大会連続入賞、日本人初となるISUグランプリファイナル優勝、四大陸フィギュアスケート選手権三度の優勝。2014年に引退後、カナダで指導。2019年に映画制作会社を設立し、ラスベガスを拠点に映画プロデューサーとして活躍中。
取材・文/岡本聡子 写真提供/村主章枝、株式会社エアサイド