2008年、愛華みれさんに突然訪れた病、悪性リンパ腫。病との闘い、そして舞台への情熱が生きる支えとなった日々を振り返ります。(全4回中の3回)

不安を抱えながら、舞台に立ち続けて

愛華みれ
舞台に邁進する日々が続いた

── 病気が見つかったきっかけは?

 

愛華さん:それまでは宝塚の生活でも一度も休んだことがないほど、体調不良とは無縁だったんです。ある日、右の鎖骨あたりにゴルフボール状のしこりが出てきて。柔らかくて押しても痛くない。最初はたいしたことないかなと思っていたんですが、姉に見せたら姉の顔色がサッと変わるのがわかりました。

 

姉がすぐに救急センターに電話してくれて、「歯からばい菌が入っているかもしれないからとりあえず冷やして」と言われたんですが、次の日も全然腫れが引かない。忘れもしないのが、そのとき姉と私の周りに黒い幕が張られたような、異様な空気を感じたことです。実は私、病院がもともと苦手で、宝塚時代から「病院に行ったら病気にされるから」って思い込んでいたくらい(笑)。でも、姉の様子があまりにも深刻で、これは検査を受けなければと。

 

── 検査を受けながら舞台は続けられていたのですか?

 

愛華さん:はい。ちょうどミュージカル『ペテン師と詐欺師』という作品の公演中でした。コメディ作品だったんですが、検査結果を待っている間もずっと「これから、いったいどうなるんだろう」ってドキドキが止まらず不安でした。

 

骨髄検査を受けているなか、次の舞台が『命のビザ』で知られる杉原千畝さんの物語だったんです。台本には「あなたは命の選択をどうしますか?生きますか?死にますか?」というセリフが並んでいて。稽古を重ねるたびに、まるで自分に問いかけられているような気持になり、精神的にもどんどん追い詰められていきました。

 

── 病名を公表された経緯は?

 

愛華さん:悪性リンパ腫という診断を受けても、私の頭の中は舞台のことでいっぱいでした。ある新聞社にがん検査をしている写真を撮られてしまって。事務所に問い合わせが来たんです。また、その舞台は崖のようなところを登ったり降りたりする作品で、私が途中で倒れてセットに挟まって事故が起きては皆さんに迷惑がかかってしまうと。

 

でも、自分からは降板を言い出せなかった。「降りたい」と口にした瞬間から、次の仕事が来なくなるんじゃないか。そんな不安のほうが、病気そのものよりも大きかったかもしれません。そんなとき、当時のマネージャーさんが「降りましょう」と言ってくださって。それで舞台の降板と同時に病気の発表をしたんです。「これで自分の体と向き合える」とホッとした瞬間、これまでの重圧から解放されて急に涙が出てきました。入院が決まったときに初めて呼吸ができたように思えました。

「舞台に立つ」が、最高の薬に

愛華みれ
闘病を伝える会見の様子

── その後、治療はどのように進められたのでしょうか?

 

愛華さん:治療は抗がん剤の投与を6セット、それに加えて放射線治療を29回受けることになりました。もともと私の血管が細いこともあり、抗がん剤を入れるたびに左腕がダンプカーで何度も轢かれるような、アイスピックで刺されるような激痛が起こったんです。そのため、途中からは体内にカテーテルを埋め込んでの抗がん剤投与に切り替えました。

 

同時に副作用も強く出て、特にうつ状態には自分でも驚きました。ベランダに立つと下ばかり見つめてしまうんです。そんな日々が続いていたときに、モーニング娘。さんとの舞台『シンデレラtheミュージカル』のお話をいただいたんです。がんが判明して、5か月後の8月の舞台でした。

 

── そのときの心境は。

 

愛華さん:「どうしても舞台に出たい」という思いと、「治療を続けながら、本当に出れるのだろうか」という不安がありました。ポスター撮影は済ませていたものの、本番出演の返事をする期限が迫るなか、なかなか決心がつかなくて。ぎりぎりになって主治医の先生に相談したんです。「先生、私は舞台に出れると思いますか?」と。そのとき先生が、さらっと「僕、チケットゲットしましたよ」とおっしゃったんです。その何げないひと言が、私の中の不安を一気に希望に変えてくれました。「先生がチケットを買ってくださるということは、私は舞台に出られるということ?」と思えたんです。

 

── 舞台復帰という目標ができたわけですね。そこから治療への向き合い方も変わりましたか?

 

愛華さん:ええ。舞台があったからこそ、どんなにきつい抗がん剤治療でも立ち向かっていけました。医師からは「こんな数値で、どうやってここまで歩いてきたんですか」と驚かれることもありました(笑)。「舞台に立ちたい」という思いが、私にとっては最高の薬になった。あの舞台がなければ、ここまで頑張れなかったと思いますね。