ゲームを通して親子、夫婦の対話の大切さを知ってほしい
── 講演では「ありがとう・ごめんなさい・大好き」と言う「やさしさ貯金ゲーム」を参加者のみなさんに必ず体験してもらうそうですが、どんなゲームなのですか?
玉城さん:お互いを理解するために対話することって簡単そうで難しいですよね。それをゲームにしたものです。まず手をつないで目を見つめ、お互いに直してほしいところといいところを言って、最後に「ありがとう・ごめんなさい・大好き!」と言うゲームです。これをすると本当に盛り上がって、子どもも大人も笑顔になってくれます。
見つめ合って手をつないでいる距離感だと、オキシトシンという愛情ホルモンが出るんですね。ありがとう(感謝)・ごめんなさい(謝罪)・大好き(愛情)といった言葉をかけてもオキシトシンが出ます。これが怒っているときのストレスホルモンであるコルチゾールをやわらげる働きがあるんです。人って怒っていても手をつなぐと、だんだん落ち着くんですよ。
また、対話をする際、誰かに直してほしいところばかり言われると、相手が自分を否定すると受け止めて「嫌われているのかな」と思ってしまうんですけど、自分のいいことをつけ加えられると、否定されたのではなく「改善点を教えてくれたんだ」と建設的に受け取ることができます。これをゲームとして体験してもらっているんです。
── なるほど。子どもたちはゲーム感覚で盛り上がりそうですね。大人においては年を重ねるほどこの距離で対話する機会はなかなかありませんから新鮮に感じる方もいらっしゃいそうですね。
玉城さん:ゲームをしたら必ず「家に帰ったらあなたが玉城ちはるになって家族とやってみてね」と言うことにしています。ある中学生の女の子が、後日LINEをくれました。お父さんと受験のことでケンカをして半年間、口をきいておらず、そんなお父さんと「やさしさ貯金ゲーム」をしたそうなんです。「手をつないで半年ぶりに父と会話をしました。受験の話もして最後に見つめ合ってありがとう・ごめんね・大好き!と言ったらお父さんが泣きました」と。私はそれを聞いて嬉しくて泣きました。お父さんも嬉しかっただろうなって。
親子でも理解し合うのは難しいんです。中学生以上の思春期に入ると特に難しい。子どもたちも、親御さんも同じ気持ちです。でもそれは普通のことなんです。「親子だからわかると思っていたけど」とか「どうして娘のことがわかってあげられないんだろう、と思い悩んでいた」という方たちから、ゲームを通して「気持ちが楽になりました」という声は本当によくいただきます。
── お子さんも親御さんも「玉城さんから『おうちでやってみて』と言われた」と言えば実践しやすいですね。
玉城さん:そうなんです。実はそれを言うようにしたきっかけがあって。講演のあと「家でやってみた」という80代の方からお手紙をいただいたのですが、家に帰って夫の手を取り「ありがとう・ごめんなさい・大好き」とやってみたら、「どうしたんや。お前、死ぬんか?」と言われたと(笑)。確かに、突然家族が普段しないことをやると驚いちゃいますからね(笑)。それ以降、「今日はこういうのを玉城ちはるさんに習って『やりなさいと言われたからやるんだ』って、ひと言相手に伝えてね」と講演のときに言うことにしました。誰かに言われたからやってみようって言えば、ハードルも下がるんじゃないかなと思います。
── 玉城さんはご家庭でもやってらっしゃるのですか?
玉城さん:私たち夫婦もケンカしたりギスギスしたりするとよくやるんです。夫が怒ると娘が「パパ、ママと、やさしさ貯金ゲームしよ」と無理やり手をつながせることがあるんですけど、私が「パパ、ありがとう・ごめんなさい・大好き!なんで怒ってるのぉ?」って言う。夫は手を払おうとしたり、「そうやって君はうやむやにする!」と言われたりもしますけど、なんだかんだしつこくじゃれ合っているうちに解決するんです。不思議と(笑)。
── そこにご夫婦円満の秘訣のヒントがありそうですね。
玉城さん:そうだと思います(笑)。その距離感で手をつなぐとお互い悪口も言えなくなりますから。そして、夫婦だろうが親子だろうが、どんなに近くてもわかっているつもりにならず、やっぱり話し合うことって大切ですね!
PROFILE 玉城ちはるさん
たまき・ちはる。1980年4月19日生まれ。広島県出身。シンガーソングライター・家族相談士。24歳からアジア地域の留学生支援活動「ホストマザー」を10年間継続。36名の留学生を送り出し、その「ホストマザー」の経験を生かし現在アーティスト活動の傍ら全国の小中学校・高校・大学を廻り「命の参観日」という講演を行っている。広島安田女子大学にて非常勤講師も務めている。
取材・文/加藤文惠 写真提供/玉城ちはる