外反母趾、内反小趾、浮指など、大人の女性を悩ませている足指の変形が、最近では子どもにも見られるようになってきています。足指の変形が子どもにどのような影響を与えるのか、その原因と対策を、長年、足の変形を診療してきたみらいクリニック院長・今井一彰先生に聞きました。

子どもの足に起きている異変

私が子どもの足指を診るようになったのは、知り合いの保育士さんから「子どもたちの足に異変が起きている、なんとかしてあげたい」と相談されたことがきっかけでした。そのとき、数百もの園児の足形写真が持ち込まれたのですが、足指が地面につかず浮いている「浮き指」、足指が曲がって丸まっている「かがみ指」、小指が内側に寄っている「内反小趾」、親指が内側に寄っている「外反母趾」、土踏まずがなく足裏が平らになった「扁平足」といった足指の変形がたくさん見られ、衝撃を受けました。

 

足指が地面につかず浮いている「浮き指」

園児たちを調査すると、ジャンプ後に大きな音を立ててかかとから着地したり、足が床から離れなかったりする子などがいました。足指が変形してしまった子どもたちは、安定性に欠けるため、転びやすくなり、ジャンプや行進がうまくできなくなるのです。

足指の変形が「子どもロコモ」を招く大きな要因にも

近年、子どもの運動機能の低下が社会問題にもなっています。しゃがんだり、体育座りなどができない現象から、「子どもロコモ」という言葉もできました。

 

「子どもロコモ」の原因は、姿勢の悪さや運動不足であると指摘されていますが、じつは姿勢の悪さを招く大きな要因は足指の変形にあります。足指が伸びていないと、体を支える土台の接地面積が狭くなり、足元が不安定になります。すると、体のバランスを保つためにかかと側に重心がかかるようになり、猫背や反り腰といった姿勢になってしまうのです。

 

足指が曲がって丸まっている「かがみ指」

子どもの足指が変形してしまう最大の理由は「足に合っていない靴」です。サイズが大きくても小さくても、足の変形につながります。園児の足形を見てなんとかしたいと痛感して取り入れたのが、足指を軽く反らして伸ばす動作を繰り返す「ゆびのば体操」でした。足指を軽く反らして伸ばすだけの簡単なもので、手順は次の通りです。

ゆびのば体操の手順

  1. 座った状態で、片足を太ももの上にのせた姿勢をとる。
  2. 足指の間に手の指を入れ、足先をふんわりとやさしく握る。
  3. 足指の裏側をゆっくり、やさしく伸ばし、5秒キープ。足指は30度ほど曲げれば十分。
  4. 足の甲側をやさしく伸ばし、5秒キープ。③と④を交互に行い、逆の足も同様に。両足で3分(10往復ほど)行う。

 

小さいお子さんは、お母さんやお父さんが行ってあげるとよいでしょう。

 

保育士の方々に協力をいただき、この対策を数か月行うことで、まず片足立ちの時間が長くなりました。未実施の子どもと比べてみると平均で倍の時間差が出ました(実施児の平均52秒、未実施児の平均27秒)。

 

また、約2400名を対象にした福岡市東区の保育園グループの調査では、転倒で負傷して医療機関を受診した割合が低下しました(実施群3.6%→2.8%、未実施群3.1%→5.7%)。そのほか、縄跳びの回数が増えた、ジャンプ力がアップしたなどの報告も挙がっています。

五本指くつした、サポーターの着用も効果的

このように、足指の運動を続けることで指がしっかりと開いて、力いっぱいに踏ん張れるようになります。さらに、運動だけではなく、その手助けになるものはないかと考え、足指を伸ばす矯正くつしたとサポーターも開発しました。この矯正具を1日に8時間以上つけて活動すると、足指の形が改善できることが実証されています。

 

子どもたちの足や骨格はやわらかいので、違和感や痛みを大人ほど感じにくく、痛みを感じたとしても大人にうまく伝えられません。成長期の足指の変形は、体の成長にも影響します。親をはじめ、周囲の大人が子どもの足指の異変にいち早く気づき、正しくケアしてあげることが大切です。子どもの足を守り、育てる「足育」が、子どもの健やかな成長を支えます。

 

PROFILE 今井一彰さん

いまい・かずあき。みらいクリニック院長。内科医。「ゆびのば体操」(足育)、「あいうべ体操」(息育)の2つの「ソクイク」で、病気にならない体つくりを提案。一般向けから専門家向け、幼稚園・小学校から行政・企業向けなど幅広いジャンルの講演を行うかたわら、テレビなどのメディアでも活躍中。近著に『姿勢を矯正し、足腰を強くする「ふみふみ」トレーニングサポーター』『子どもの運動能力を伸ばす「ふみふみ」トレーニングサポーター』(いずれも主婦と生活社刊)がある。