「なんで里親が増えないの?大人は何やってるの?」

──「虐待から子どもを助けたい」という思いを大切に、精力的に活動されています。そんな岩朝さんを、お子さんはどう見ているのでしょうか。

 

岩朝さん:1年のうちでも10月の里親月間はすごく力を入れていて、毎年、私たちの協会では「全国一斉里親制度啓発キャンペーン」を行っているのですが、いつもうちの子にはすごく怒られます。「なんで里親が増えないの!?」って(苦笑)。「大人は何をしてるの?子どものためにどうして動かないの?」って。

 

「虐待から子どもを守るには里親が必要だし、自分だけがラッキーだったわけじゃなくて、すべての子どもが望んだときに里親のところに行ける状況を大人はつらないといけない」とも言われて。私は「はい、その通りです」と答えるしかないです(苦笑)。

 

2017年に東大寺で開催した地域フォーラム
2017年に東大寺で開催した地域フォーラム

── お子さんは、4歳のころから岩朝さんご夫婦と暮らして、たくさん愛情を感じるなかで考えることもあったのでしょうか。

 

岩朝さん:「自分だけが私のような里親と出会えた」と、同じ境遇のほかの子たちに申し訳ない気持ちもあるようです。「なぜ、大人たちは子どもたちを助けようと動いてくれないのか。大人たちが本気になったら1日で解決するかもしれないのに」とよく言っています。私が「たくさんの大人を仲間にできていないママの責任です」と言うと、「ママは悪くない。ママは頑張ってる」って、私をすごくかばってくれます(笑)。

日本の社会の「不妊治療」「寄付」はズレているかも

── とても素敵な親子関係ですね。これから目指している目標はありますか?

 

岩朝さん:まず20代や30代の女性には、「早い段階で不妊治療と里親制度についてしっかり知ってほしい」という思いがあります。この前、40歳の知人が「卵子を凍結することにした」と話していて。仕事を頑張ってキャリアも築けたから貯金もある程度ある。今のうちに若い卵子を凍結しておけば、45歳になっても50歳になっても、40歳のときの若い卵子が使えるから…って。

 

この話を聞いて、それを勧めた病院に憤りを感じました。だって、45歳や50歳の子宮に卵子が着床できるほどの厚みはないはず。それなのに、しんどい思いをして卵子を採取し凍結して、年間10万円ほど保管料を支払う女性たちがいる…。女性たちには、実情をしっかりと自分から調べにいって、正しい知識をちゃんと持ってほしいです。

 

企業とNPO法人共催の「H2Oサンタ シンポジウム」の様子
2017年、「もっと医療と福祉が連携しなければ」と、大阪の大手百貨店ホールで企業共催のシンポジウムを開催(岩朝さんは右から3番目)

そのうえで、私の目標というよりも、必ず叶えると決めているミッションは、一人でも多くの人に、寄付に関心を持ってもらえるようにすること。日本の場合、子どもたちへの寄付というと、古着を施設に送る人が多いんです。「うちの子はもう着ないから施設の子どもたちに」って。一方で、寄付文化が浸透している欧米では、ホームレスの方々に寄付をするというと、みんなネットショップで上着を買って、新品のまま支援団体に送ることを当たり前のようにしています。

 

少しでも日本で寄付の意識がよりよい方向へ変わるといいなと思っています。といっても私一人で変えることは無理なので、いろんな人たちが協力しながら変えられるように、まずは里親の啓発とドコデモこども食堂の活動をしながら、一つひとつを丁寧に頑張って進めていきたいです。

 

PROFILE 岩朝しのぶさん

いわさ・しのぶ。1973年、宮城県生まれ。先天性の病気によりこれまで17回の手術を経験し、シングルマザーの母親に支えられ幼少期を過ごす。25歳で起業後、広告代理店業の代表に就任。不妊治療を経て養育里親となり、現在も現役里親として子どもを養育している。認定NPO法人日本こども支援協会 代表理事 一般社団法人明日へのチカラの代表理事 「ドコデモこども食堂」代表。

 

取材・文/高梨真紀 写真提供/岩朝しのぶ