生まれた直後に命を救われた経験から、「虐待に遭う子どもたちを助けたい」と里親を支える活動やこども食堂の運営をしている岩朝しのぶさん。忘れられない思い出を教えてくれました。(全4回中の4回)
誘われた児童養護施設のクリスマス会で抱いた苦しい思い
── 自身も里親としてお子さんを育てながら里親を支える活動をなさっていますが、親の貧困や病気、虐待などさまざまな原因で親と暮らせない子について初めて知ったのはいつごろですか?
岩朝さん:中学校の登校区に児童養護施設があり、当時の同級生にも施設で暮らしている子がいました。その施設はキリスト系だったのですが、ある冬「すごく大きなクリスマス会をやるから遊びに来ない?」と誘われたんです。ところが、行ってみたら、テーブルには普通のお菓子がいくつか並んでいるくらいの、どちらかというと慎ましい会で。当時、母は離婚してシングルで私を育ててくれていたのですが、「これよりはうちのほうが豪華かもしれない…」と複雑な思いでいました。
そのとき、「私の部屋にも来てよ」と誘われたのが4畳半の部屋で、そこには2段ベッドが2台置いてありました。その友達は、「ここが私の部屋だよ」と、2段ベッドの上の段に案内してくれて。窓には鉄格子みたいな柵があって、勝手に屋外へ出られないようになっていました。当時、子どもだった私は「ここは子どもが暮らすところではない」と感じ取りながら、すごく胸が苦しくて…その感覚が今でもしっかり残っています。いろんな衝撃を受けて考えさせられた、中学生のクリスマスでした。
子どもが食べたいときに食べたいものを
── 里親を支える活動のなかで、2023年からは地域の見守りを必要とする親子が地域の飲食店に行って無料で食事ができる「ドコデモこども食堂」をスタートされました。こども食堂を始めるきっかけは何だったのでしょうか。
岩朝さん:児童養護施設でのクリスマスの苦い思い出がまず根底にあります。近年は、いわゆる「こども食堂」が増えつつありますが、たいていの場合、子ども側のニーズは関係なく、大人が開催できる日に開催しています。この状況にずっとモヤモヤを抱えてきました。
「子どもが食べたいときに好きなメニューが食べられる、子ども中心の環境をつくれたらいいのに」と考えていたある日、「飲食店なら常にご飯があるじゃないか」と気づいたんです。地域に愛される飲食店もたくさんある。そういうお店なら、定休日以外は子どもはいつでも行くことができます。子どもが、親と学校以外で、地域の大人とつながる場所になるはず。そう思って「ドコデモこども食堂」を立ち上げました。
「ドコデモこども食堂」は、配布された無料クーポンで、提携している飲食店ならどこででも食べたいメニューを選んで食べることができます。
── 子どもが好きなときに好きな場所で食事をできるって、すごくいいですね。
岩朝さん:「ドコデモこども食堂」では、ひとつ決めごとがあって、それはテイクアウトNGなんです。ご家庭には必ずお店で食べるようにお願いしています。それは、家に食事を持ち帰ると、子どもが1人だけで食べるかもしれないし、家庭の中が見えにくくなって孤立につながるからです。
この前、ある「ドコデモこども食堂」のお店ですごく嬉しいことがあって。10代の子なんですけど、思春期というのもあって親とは一緒に行きたくないと言い、クーポンを持ってひとりでお店に通っていたんですね。その子は、お父さんが認知症、お母さんは精神疾患を抱えていて、家では孤独な状態で。
でも、お店に行くとすごくおしゃべりになる(笑)。そのときに「バイト始めたくて今、探してる」と話したら、お店のマスターが「うちにアルバイトに来なよ」って声をかけてくれて。その子は、いまそのお店でアルバイトをしているんですよ。
── 通っていたお店でアルバイトなんて、とてもいいお話ですね。
岩朝さん:アルバイトとして働くようになるとお店でまかないの食事が出るから、その子は、「自分はもうクーポンは必要ないから、他の子にあげてください」とチケットの辞退を申し出てきて。来店した子どもに、「僕もそのチケットを使っていたんですよ」って店員として話し相手になってくれたりしながら、楽しそうにバイトを続けています。こんなつながりが地域と子どもの間に広がってほしいなあと思っています。