「私の人生にはママがいるから大丈夫」
── 岩朝さんは現在、里親として女の子と一緒に暮らしているそうですね。今は17歳とのことですが、反抗期などは?
岩朝さん:4歳のころから一緒に暮らしていますが、反抗期はまったくないです。小学5年くらいのころが一番大変でしたが、言葉で穏やかにコミュニケーションが取れるようになってからは何も困ったことはありません。
結局、子どもを変えようと怒鳴ったとしてもどうしようもないんですよね。大人の私たちが自分をコントロールするしかなくて、子どもがどんなに剛速球の言葉を投げてきて、「痛ったあ!」と自分の気持ちが凹んでも「どうしたのー?」ってゆるやかに返してあげるくらいの余裕があるボールを投げてあげたい。同じ勢いで打ち返してしまったら、傷つけあうことになると思うんです。
ちなみに、うちの子は、昨年から実の親との面会を始めたんです。一時期は母親への復讐心の塊のような状態だったけれど、今はすべてを許して、「親も大変だったんだろうなあ」と話しています。「今の私の人生にはママがいるから大丈夫」って私に言ってくれていますね。
── お子さんがそう言えるようになるくらい、岩朝さんが日々、愛情で包んでこられたんですね。
岩朝さん:子どもが実の親との最初の面会を決めたとき、私が「本当に会っていいの?もう恨みはないの?」と聞いたんです。そうしたら、「不思議かもしれないけれど、私は今、恨みとかコンプレックスとか何ひとつないよ。ママが言ってくれたことをずっと覚えているから」って答えてくれて。
そういえば昔、子どもが「早く大きくなってお母さんに復讐してやる」って言っていたときに、私がよく言い聞かせていたことがあるんです。「恨んでいる間は、あなたの心はお母さんにつかまったままだよ。つかまっている間、あなたは幸せになれない。だから、あなたはお母さんなんか関係なく、勝手に幸せになりなさい」と。
それをずっと覚えていて、「ママがあんなふうに言ってくれたことが私にとって一番大きい。本当だなって思ったし、今、私は勝手に幸せって思っているから、別に親に会っても大丈夫だよ」って言ってくれました。
── すごくいい言葉ですね。
岩朝さん:やっぱり里親となる人が日々、点滴のように愛情を注ぎ続けることでたどり着けるときがあると思うんです。ひと晩や1か月で状況を改善できる魔法なんてない。ましてや里親に託される子どもたちは、普通の家庭の子よりも10倍以上の愛情や時間が必要かもしれないけれど、諦めないで一緒にいることで、子どもたちは人生を取り戻してくれるはず。親になったときには、きっと実の親とは違う親になることができると思っています。虐待、貧困といったいろんな負の連鎖を断ちきることができると思うんです。
それに、外ではカッコつけていても、うちに帰ったらパジャマを着てダラダラしていたり、病気になって弱ったり…そんな完璧じゃない大人の一面を見せることもけっこう大事だと思っていて。暮らしを重ねるってそういうことなんですよね。里親だけが子どもにできることが必ずあると思っています。
PROFILE 岩朝しのぶさん
いわさ・しのぶ。1973年、宮城県生まれ。先天性の病気によりこれまで17回の手術を経験し、シングルマザーの母親に支えられ幼少期を過ごす。25歳で起業後、広告代理店業の代表に就任。不妊治療を経て養育里親となり、現在も現役里親として子どもを養育している。認定NPO法人日本こども支援協会 代表理事 一般社団法人明日へのチカラの代表理事 「ドコデモこども食堂」代表。
取材・文/高梨真紀 写真提供/岩朝しのぶ