入園で障害児育児の現実を突きつけられた
── 幼稚園の入園を検討するとき、ご苦労なさったそうですね。
桜井さん:通わせたい幼稚園の候補が2つあり、プレスクールに通っていました。娘は周りのやることを真似するところがあったので、ほかのお子さんたちと同じことはやれていました。なので、こちらが申し出ない限り、先生は娘の障害に気づかなかっただろうと思います。でも、これからお世話になる園だから、正式に入園する前に先生に伝えておこうとしたら、その場で「じゃあうちは無理です」と断られました。
過去に同じような障害を持つお子さんが入園しトラブルが絶えなかったそうで…。ただ幼稚園としての立場もわかるので感情の板挟みになってしまい、つらかったです。障害を持っていても全員がトラブルを起こすわけではないですし、偏見ってこういうことかと。社会における障害児の現実を突きつけられた最初の出来事でした。
努力がたりず園に落ちたわけじゃない。ましてや、プレスクールにも問題なく通っていたのにと思うと、悲しくて。さらにそのとき「障害がある人は障害のある人の中でしか生きていかないから、親のエゴで健常児の中に入れる必要はないですよ」と言われて。その言葉を聞いて凍りついてしまって「私の思いは親のエゴだったのかな」と。親として、健常児の中で娘にできることがあったら一緒にやりたいなと思うことがエゴだったのかと。気持ちがズタズタになりました。
── 幼稚園から入園を断られてしまったことはショックですね。その後は、どうなさったのですか?
桜井さん:結局、申し込み期限ギリギリになって、知人が先生をしている隣の市の幼稚園に受け入れてもらうことができました。チャイルドシートに座らせるのが難しくて、通園するのもひと苦労でした。
── 幼稚園での娘さんの様子はいかがでしたか?
桜井さん:入園時はオムツがとれていなかったのですが、入園前に相談したら「オムツのままで入園して大丈夫ですよ」と言っていただき入園しました。園ではみんなでトイレに行く時間があり、なんと、入園1週間でオムツがとれました。娘は聴覚より視覚優位で、本人が見て納得したことはスムーズにいくところがあるので、幼稚園に行かせてよかったなと思えた出来事でした。ほかのお子さんの様子を自分の目で見られたからこそできたことだと思います。集団の力ってすごいと実感しました。
とはいえ、いろいろなことでつまずくことがあり、娘につき合って一喜一憂する日々が続きました。運動会も大変で。連れていってもまったく動けず。出番のときは抱えて連れて行きましたが、集中力もきれてしまい、演目にはあまり参加せず終わりました。「当日頑張って行っただけエライ!」と思いたかったですが、周囲は楽しそうに運動会に参加している光景が悲しく、グランドの隅で大号泣でした(笑)。私に余裕がなかったのだと思います。「みんなできているのにうちだけできない」と思い悩み、ものすごい孤立感でした。
── ときには健常児と同じに足並みをそろえないといけないというのは大変ですね。
桜井さん:幼稚園、小学校、中学校でもそれはありましたね。先生方が普段はハードルを下げてくれていても、何かするときは「普通」を求められるという場面は多いです。印象としては、特に中学生以降はその場面がかなり多いように思いました。
PROFILE 桜井奈々さん
さくらい・なな。ブロガー。1982年10月24日生まれ。東京都出身。18歳の知的障害のある自閉症の娘と6歳男児のママ。障害ある子供の子育てを通して親なき後のために一人でも多くの支援者、協力者が必要と感じAmebaでブログを開設し、日々の子育ての様子を発信中。Amebaでブログのフォロワー数は12万人。
取材・文/加藤文惠 写真提供/桜井奈々