「ウケなくても落ち込まない」失敗しても全否定しない気持ちに

── 転機となったネタは、どんなふうにして生まれたのですか?

 

石井さん:それまでの私は、自分がおもしろいと思うものをどういう形で表現すればいいのか、わからなかったんです。そんなときにキンタロー。さんが踊っているネタを見て、「こういう笑いの取り方もあるんだ!」と衝撃を受けました。キンタロー。さんは、わたしよりもデビューは少し後でしたが、才能に溢れていて、秒速で売れていった方でした。彼女も型にハマらないネタで、心から楽しそうに踊っていらっしゃいますよね。

 

もともとダンスが好きで「少女時代」も好きだったので、「私も踊ってみよう!」と。テレビのオーディションには受かりませんでしたが、自分らしい表現が見つかったことで、前に進めた感覚がありましたし、舞台でも笑いがとれることが増えましたね。

 

── 舞台はお客さんの反応がダイレクトに感じられるのが醍醐味ですよね。いっぽう、反応がよくないときは、どうやって気持ちを立て直すのでしょう?

 

石井さん:もちろんガッカリはしますけれど、あまり深刻に受け止めたり、過度に自分を責めないようにしています。ある意味、ふてぶてしさや「忘れる力」が大事です。

 

マッキンゼーで働いていたときは小さなミスを気にして落ちこみ、自分を責めすぎた結果、潰れてしまった。でも、後から振り返ると、「そんなに気にすることはなかったな」と思うんです。周りの優秀な人たちだって、失敗して悪い評価をもらうこともある。涼しい顔をして水面を泳ぐアヒルみたいなもので、すました顔で過ごしていても、水面下では、みんな足をバタバタしてもがいているんですよね。ただ、それを口にしないだけ。

 

失敗するのがいけないのではなく、そこで落ち込んで、いつまでも立ち上がらないのがいけないのだと知りました。これがマッキンゼーで得た最大の教訓だったので、芸人になったいまは、ミスをしてもそれを引きずるのではなく、早めに気持ちを切り替えるようになりました。

 

── 今後、やってみたいことはありますか?

 

石井さん:ピンネタとして一番憧れているのが、小島よしおさんの「そんなの関係ねえ」なんです。ほかにもスピードワゴン・井戸田さんの「ハンバーグ師匠」とか、ダンディ坂野さんの「ゲッツ!」とか、エド・はるみさんの「グー!」とか。ああいった老若男女問わず、見た目も楽しくてわかりやすくて、思いきり笑えるようなネタが大好きなんです。子どもが思わずマネしたくなるような、自分らしいネタを作りたい。そんな思いがずっとあります。

 

私はキャラクターに扮してやるネタが好きなんですけど、いまの主流は言葉選びのセンスに長けたおしゃれな笑いのような気がしていて。それもすごくおもしろくていいなあと思うのですが、私は、それにはなれない。ですから、自分らしいお笑いを目指して頑張りたいです。

 

PROFILE 石井てる美さん

いしい・てるみ。1983年、東京都生まれ。東京大学工学部から大学院へ進み、卒業後は、大手外資系コンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」に入社。お笑い芸人を志し、2009年に退社。現在は、ワタナベエンターテインメント所属のお笑い芸人として活動中。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/石井てる美