「親は完璧」だって決めつけていた

── 来春公開予定の映画『かなさんどー』のキャッチフレーズは「本当の両親のことを知っていますか?」だそうですね。どうしてこの言葉を選んだのでしょうか。

 

ゴリさん:母が亡くなった後、母が書いた手紙が出てきたんです。それを読んだ親父が「あいつだってこうだったんだ」と暴露話を始めたりして(笑)。まさに、親の知らない顔を垣間見たわけですが、子どもとしては当然、聞きたくないことだってある。特に小さいころって、親のことを勝手に美化しているじゃないですか。「親は完璧な人間」「ちゃんとしてるのが当然」って理想を押しつけていたなと、大人になった今はわかるんですけど。

 

ガレッジセール・ゴリさんと実母
最愛の母との貴重な2ショット

父ちゃんと母ちゃんだって人間だし、男と女なんですよね。長い人生、生きていたらいろんなことがあったと思うんですよ、きっと。そういうのがいろいろ垣間見えたときに、イヤな気持ちにもなったこともあるけれど、でもそんなのは一瞬で、「父ちゃんと母ちゃんだって人間だもんな」って思ったんです。

 

来春公開の映画『かなさんどー』は、そういう自分の経験も踏まえて、「本当の両親を知っていますか」とか「許す」というテーマになった気がします。どちらかというと、『洗骨』では母のことを書いて、『かなさんどー』は父のことを書いたのかな。はっきりとは言えないけど、冷静に考えると、主人公がうちの親父に近づいてきているな…と感じます。

 

「TOSHIYUKI TERUYA」と名前が入ったディレクターズチェア
「TOSHIYUKI TERUYA」と名前が入ったディレクターズチェア

── お父さまが映画のモデルになりつつあるんですね。

 

ゴリさん:そうですね。親父ってすごく自由な人で。僕ら3兄弟は、母に何回も「おとうとは別れろ」って言ってたんです。それでも、母はいつも「あの人は優しい人だから」って取り合わない。当時はそうやってかばう意味がわからなくて、「もっとけなせばいいのに」って思っていました。

 

そんな親父は、好き勝手なことをしていたくせに、母が亡くなった瞬間にすごく弱くなっちゃって。「ああ、やっぱりこの人は母ちゃんがいるから自由でいられたんだな。帰ってこられる港があるから遠洋漁業に行けたのかもな」って腑に落ちた気がします。

 

母が亡くなった後も、親父は「今日はお母さんどこにいるんだ?」って聞いてきて、僕は「もうおかん、死んだやろ」って答えたりして。亡くなる少し前に認知症も始まっていたんですけど、「人生の終盤に思い出すのは母ちゃんのことなんだな。だったら、母ちゃんが元気なときにもっと優しい言葉をかけてやれよ」って思っちゃったり。でも、それが人間なんだろうなと思ったりもします。

 

PROFILE ガレッジセール・ゴリさん

本名・照屋年之(てるや・としゆき)。1972年、沖縄県出身。1995年に相方の川田広樹さんとお笑いコンビ・ガレッジセールを結成。バラエティ番組、ドラマなど、芸人としてだけでなく俳優として、また2009年からは監督した映画が高い評価を得る。2025年年始めには、照屋年之としての監督映画『かなさんどー』が公開予定。プライベートでは2児の父。

 

取材・文/高梨真紀 写真提供/ガレッジセール・ゴリ