初めての手術「ドラマで見た光景と同じ」
── そこからどのように治療方針が決まっていったのでしょうか。
小川さん:担当の先生方が症例検討会で私の検査結果をもとに治療方針を考えてくださって、全員一致で「全摘がいい」という結論になったんです。私の場合、乳首にまでがんが浸透していたんですね。部分切除という選択肢もあったのですが、その場合は放射線治療と抗がん剤治療が必要になります。姉が10年前に乳がんで部分切除をした際は、その治療がとてもつらかったと聞いていました。
最近は治療法も進歩して副作用も軽減されているそうです。でも、手術で全部取れるなら、思いきって全摘して再建するのがいいんじゃないかと考えたんです。とはいえ、手術をしてリンパへの転移が見つかれば乳房の再建手術ができない可能性もあったため、手術するまではどうなるかわかりませんでした。
── 手術のときの様子を教えていただけますか。
小川さん:手術は7時間におよびました。朝の9時ごろ、看護師さんが呼びに来てくれて点滴を打ったまま手術室に向かったんです。扉の中はテレビドラマで見るような手術台があり丸いライトがバーッと照らされていて、それを目にした瞬間、「本当にいまから手術するんだ」と急に現実味が湧いてきて。全身麻酔を受けるときも「もし目が覚めなかったらどうしよう…」という不安でいっぱいでした。でも、気がついたら手術は終わっていて、同時に強い痛みを感じたので、すぐに痛み止めをもらいました。
さいわいなことにリンパへの転移はなく、全摘と同時に乳房再建のための準備、シリコンを入れるために皮膚を徐々に伸ばしていく風船のような「エキスパンダー」という医療器具があるんですが、それを大胸筋の下に無事入れることができたとのことでした。
しかし、術後はやっぱり体がつらくて。特に大変だったのは、手術後の血液や体液を排出するためのドレーンという管を抜くとき。2本あるうち1本目はすんなり抜けたんですが、2本目が曲者で。体内で癒着していたみたいで、先生がグッと抜こうとしたら体内のエキスパンダーがズレて、思わず声を上げてしまったんです。そしたら先生が「大丈夫、すぐ戻しますからね」とまたグッと押し戻してくれて(笑)。今はこうして笑いながら話せますが、それはもう痛かったですね。10日ほどの入院を経て退院し、さらに2週間ほど自宅で療養してから仕事に復帰しました。
義妹のひと言が再建手術をするきっかけに
── 今年5月に右胸の再建手術をされていますね。
小川さん:ええ。でもその決断には本当に悩みました。再建するということは、もう一度手術を受けることになりますから。母は「別にそのまま手術せんでもええやろ」と言ってくれて、私も最初はそう思っていたんです。
でも、義理の妹が10年前に同じく乳がんを経験していて、彼女に相談して考えが変わりました。彼女が教えてくれたのは全摘後のこと。「お風呂に入るたびに、左はあるのに右がつるんとしていて、いくら時が経ってもその傷跡を見ると気持ちが沈むのよ」と。そして、「私はシリコンを入れて再建して本当によかった」って。その言葉を聞いて「私もそうしてみようかな」って思ったんです。
── 再建手術の過程はいかがでしたか。
小川さん:まず、全摘手術のときに入れたエキスパンダーに毎週50ccずつ食塩水を入れて、ぺったんこだった胸を少しずつ膨らませていきました。私の場合、8か月ほどなじませて左胸と同じ大きさにしてから、今度はエキスパンダーを取り出してシリコンを入れる手術をしたんです。1回目の全摘手術よりは手術時間も短くて5日間ほどの入院ですみました。もし乳首の再建をする場合、全摘手術から1年後と言われているんですけど、私はもう手術はやらなくていいかなって。というのも、どうやら「付け乳首」というのがあるらしいんです。
── そうなんですね。初めて聞きました。
小川さん:これがすごくリアルにできていて。自分に合ったものをカタログから選べるんです。簡単に装着もできるみたいで。最初は先生から「1個3万円だよ」と聞いていたんですが、実は「2個で3万円」だったことがわかって。まだ買ってないんですけどね。温泉で万が一、ジャグジーで流されても替え乳首があったら安心だなってそう思っているんです(笑)。
PROFILE 小川恵理子さん
おがわ・えりこ。関西地区を中心に活動するタレント。松竹芸能所属。福井県鯖江市出身、大阪府東大阪市在住。「恵理ちゃん,」「恵理姉」の愛称で親しまれている。
写真提供/小川恵理子