歌うことで福祉にも貢献できる

森山愛子さん
コンサートで熱唱する森山さん

── 上京して3年9か月を経て、めでたく歌手デビューされました。歌手の道か、福祉の道に進もうか悩んだことがあったそうですね。

 

森山さん:すごく悩みました。大好きな祖母が福祉関連の施設で働いていたので、福祉は私にとって身近なものでした。また、小さいころに日本舞踊を習っていたので、それを披露しに老人ホームに慰問に行ったことがあったんです。そのとき、私の歌を聴いていた方が感動のあまり突然泣きだして…。その体験に衝撃を受けたのと同時に、高齢の方に喜んでもらえる仕事に魅力を感じました。

 

高校進学のときには、迷わず福祉の道へ。授業で介護の実習なども行い、介護の資格は高校卒業時にホームヘルパー1級(現・訪問介護員1級養成課程)、卒業後に介護福祉士の資格を取りました。

 

── 演歌歌手の道を選んだきっかけは何だったんでしょうか?

 

森山さん:実は福祉と歌、どちらの道に進もうか悩んでいるときに水森先生に「歌は福祉の現場をはじめ、さまざまな人に届けることができる。介護の現場で働くことだけでなく、歌うことも福祉に繋がる」と言われたんです。

 

その後、高校の実習で行った介護施設に行きました。そのときに会話での意思疎通が難しい利用者の方といっしょに歌を歌ったのですが、すでに水森先生の元でレッスンを受けていた時期だったので、そこで教えてもらった昔の演歌、高齢者にとってのいわゆる“懐メロ”を歌ったら、すごくみなさんに喜ばれたんです。会話は難しくても歌を通してコミュニケーションが取れることに気づいて、歌の力ってすごいなと改めて実感しました。それで、演歌歌手になったから福祉活動ができないわけではないと気づき、より歌手の道に進みたいと思いました。

 

演歌ファンはシニアの方が多く、私のファンもメインは60〜70代の方です。遠くからライブを見に来てくださっていて、ライブに出かけることで体を動かすことができたり、元気に一緒に歌ったりすることもできるので、何かの役に立っているのなら本望です。「愛ちゃんが私の生きがい」と言ってくださる方もいて、私を応援してくれることで元気になってくれたら嬉しいなと思います。福祉とは違いますが、高齢の方といろいろな形で接することができているのは、歌のおかげだと思っています。

 

森山愛子さん
森山愛子さん

 

PROFILE 森山愛子さん

もりやま・あいこ。1985年、栃木県生まれ。2004年に『おんな節』で演歌歌手としてデビュー。同年に『第37回日本有線大賞』新人賞、および『第46回日本レコード大賞』新人賞を受賞。芸名の名付け親はアントニオ猪木さん。ホームヘルパー1級(現・訪問介護員1級養成課程)、卒業後に介護福祉士の資格を持つ。

取材・文/酒井明子 写真提供/森山愛子