「本を読む子は学力が高い」という説は本当?
── 「本をよく読む子は学力が高い」という説は昔からよく聞きます。読書によって学力が鍛えられる面もありますか?
笹沼さん: 読書を楽しめるようになると、読解力、想像力、思考力が鍛えられ、学びの意欲も向上します。僕はこれまで本嫌いの子が読書家になっていく姿を数多く見てきましたが、読書が学力の向上に貢献することは間違いありません。
文字を読むのが得意になったおかげで教科書もスイスイ読めるようになり、毎日の宿題に前向きになれた子もいれば、韓国アイドルにハマって韓国語の入門書を図書館から借りて独学で学び始めた子もいました。「子どもが自分の気持ちを上手に言語化できるようになったおかげで親子のコミュニケーションもスムーズになりました」と保護者から喜びの声が寄せられたこともありました。
なぜ本を読める子は賢くなるのか。それは読書によって子どもの中に眠っている次の4つの力が自然に育まれるからです。
1.学びに向かう力
勉強が苦手な子がよく挙げる理由に、「文字を読むのが嫌いだから」があります。「読む」という能動的な行為は、学習のあらゆる場面で必要とされます。教科書、宿題、テスト、参考書、すべて文章を読めなければ取り組めません。小学生のうちから読書によって「読む」行為に慣れておけば、学びの土台になります。
2.言葉を使いこなす力
多くの言葉に触れて語彙が増えると、思考や表現の幅が広がります。自分の感情を詳細に言葉で伝えることができるようになれば、コミュニケーション力もおのずと上がります。また、テキストコミュニケーションが主流となっている現代では、仕事のやり取りもAIへの指示も、言葉を使いこなせるようになる必要があります。
3.EQ(心の知能指数)を高める力
論理性などの頭のよさの指標にはIQ(知能指数)が用いられますが、近年はEQ(心の知能指数)を採用で重視する企業が増えています。小説をたくさん読む人は、人の感情を読み取る能力に長けているという報告があります。読書を通じて他者の感情に想像を巡らせることは、コミュニケーション能力の土台ともいえるEQの向上にもつながります。
4.人の考えを取り入れて自分を変える力
読書をすることで今いる場所とは違う世界、違う価値観や考え方に触れることは、他者や世界への謙虚さ、素直さの醸成につながっています。アドバイスを素直に受け入れ、自分を変えていける姿勢は、勉強や部活などあらゆる場面で活かされます。もちろん、「本を読む」以外の場面でもこれらの力を育む機会はありますが、ただ動画を視聴するだけでは難しいように思われます。
── 動画視聴だけでは学力の底上げに貢献しづらい?なぜでしょうか。
笹沼さん: 動画コンテンツが危ういのは、圧倒的に「わかったつもり」になれるからです。とくにショート動画は、短い時間で違和感を抱かせないことを第一に作られています。そのために、複雑さやわかりにくい部分は切り捨て、視聴者が立ち止まらないような、ひたすら主張し続けるような設計になっています。
── 内容がどんどん流れていくから、自分のペースで理解しづらい。
笹沼さん: もちろん、動画だからこそ理解が深まることもあるでしょう。しかし、同じ内容を「動画で視聴した人」と「本で読んだ人」にわけて、それぞれ1週間後に聞く実験してみたら。後者の方が内容を記憶しているだろうと思います。
── 動画を楽しみ、読書も楽しむ。子どもも大人もそんな風に使いわけができるようになればベストですね。
笹沼さん: 水泳もピアノも大人になってからも学べますが、子どものうちの経験しておいたほうが覚えが早いし、楽しめますよね。読書も同じで、できれば小学生のうちに習慣化しておきたい。読書ができるようになればほかのことはなんとかなる。そう言いきってもおおげさではないくらい、読書には大きな価値があると僕は確信しています。
PROFILE 笹沼 颯太さん
ささぬま・そうた。Yondemy代表取締役。2020年、東京大学経済学部在学中に子どもが読書にハマるオンライン習い事「ヨンデミー」を開発・運営。AIのヨンデミー先生によるサポートとやり取りを通じて、子どもが「読書を習う」という新しい文化を創る挑戦をしている。『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は発売後即重版に。
取材・文/阿部花恵 写真提供/株式会社Yondemy