湘南ベルマーレなどで活躍した永里源気さんは、知的障がいと自閉スペクトラム症を持つ長男・大和さん(中学2年生)の育児経験をきっかけに、療育特化型の放課後等デイサービスを開設しました。開設の理由には、障がいを持つお子さんはもとより、保護者の方への思いも強かったようです。(全3回中の3回)

運動療育をメインに少人数制で

── 2022年1月に、療育特化型の放課後等デイサービスを開設されました。きっかけと経緯を教えてください。

 

永里さん:タイに単身赴任していたとき、現役引退後にサッカー以外で何をやりたいかを考える機会が多かったんです。鳥取に住んでいたときに大和が通っていた児童発達支援センターやデイサービスなどで出会った方々が、大和だけではなくぼくたち夫婦にもすごく寄り添ってくれて。そのときの経験から、今度はぼくが、発達障がいや知的障がいなどを持つお子さんとご家族のための場所を作りたいなと思って開設しました。サッカー選手がこういうところを立ち上げることで、障がいに対する理解や関心が深まればいいなという思いもありました。

 

永里さんが開設した放課後等デイサービス「Athletic club ハートフル」の夏祭り

たまたま、当時所属していた厚木のサッカーチーム「はやぶさイレブン」のチームメイトに「息子が障がいを持っていて、ゆくゆくはデイサービスを立ち上げたいと思ってるんだよね」という話をしたら、その選手のお父さんが偶然にもデイサービスをしていて。チームのスポンサーさんにも同じ事業をしている方がいたので、アドバイスをもらいながら進めていきました。物件探しや指定申請の書類作り、銀行からの融資など、すべてが初めてのことだったので、どれもすごく大変でしたね。

 

── 開設後に大変だったこともありますか?

 

永里さん: 周囲からは「早いほうだよ」と言ってもらったんですけど、自分のSNSや地元の媒体以外で広告を出していなかったので、通ってくださる方が増えるかどうかということが大変でした。たまたま来てくださった方が伝えてくれた口コミをきっかけに広がったり、ここをよく思ってくれた方が紹介してくださったりして、今は約65人のお子さんに入っていただいています。神奈川県内からも都内からも通ってくれていますね。

 

── 永里さんが開設された「Athletic club ハートフル」の特色を教えてください。

 

永里さん:運動療育をメインに、少人数制にしていることが特色です。大人数で1か所にいることが苦手なお子さんや集団での行動がストレスになるお子さんもいるので、1グループを3~5人にして、各グループにつき2~3人の指導員が対応しています。同じ場所に長時間いることが苦手というお子さんも多いので、セッションが計1時間になるように設定しています。

 

お子さんたちの特性によって合う・合わないがあったり、学年差があったり、学年差があっても運動のレベルが合っているということもあったりするので、様子を見ながら各グループに振りわけて、気持ちよくセッションに臨めるような環境作りを意識しています。不登校のお子さんは個別で見させていただいたり、日曜日は理学療法士さんや作業療法士さんに来ていただいて特別なセッションを行ったりもしています。

 

── 保護者同士が情報を共有できる場にもなっているんですよね。

 

永里さん:はい。厚木に来て今の支援学校に大和が通い始めたとき、バス停には中学部に通う子のお母さんもいれば、高等部に通う子のお母さんもいて。上の学年のお母さんに「大きくなるとどういうことが必要?」とか「どういうことをやっていくの?」とか、先の不安を相談できる機会ってすごくいいなと感じたんです。ハートフルでは、お子さんのその日の様子を保護者の方に直接聞きたいという思いと、セッションが終わったあとに今日の様子をフィードバックしたいという思いから、送迎サービスはやっていなくて。そのぶん、お子さんがセッションを受けている間は、ここの待合室が保護者の方々の情報共有の場になればいいなと思っています。「小学校1~4年生はちょっと大変だけど、高学年になると落ち着いてきますよ」というような自分の経験談をお伝えすることもあります。