湘南ベルマーレなどで活躍した永里源気さんの長男・大和さん(中学校2年生)は、重度の知的障がいと自閉スペクトラム症を持っています。「小5の終わりごろから落ち着いてきて、今は動かずに散髪もできるようになった」と成長に目を細める永里さんですが、以前は弄便や脱走、噛みつきなど、大変なことも多かったと言います。(全3回中の2回)

ルーティンが崩れるとストレスが溜まって

── ガイナーレ鳥取在籍中に大和さんの診断が出て、その後、永里さんはタイのクラブチームに移籍、ご家族は鳥取に残って生活をされていました。永里さんの帰国後、神奈川県厚木市に転居されてからの様子について教えてください。

 

永里さん:タイから帰国して、家族で地元の厚木に住むことになったので、大和は小学校1年生の2月から支援学校に入りました。長女が小学校3年生、次女が幼稚園に入るころでした。大和が環境の変化に順応できるか不安があったんですけど、先生方のおかげで楽しく通えていました。

 

でも、相変わらずなかなか寝なかったり、夜知らない間に素っ裸になって布団を濡らしていたり、眠れないときに急にパニックになってずっと泣き続けたり、オムツの中に手を入れて、うんちをこねこねして食べたり、壁にペタペタと塗ったり、いろいろなことがありました。パニックのときは落ち着くまで待つ、YouTubeを見せる、素っ裸にならないようにオーバーオールを着せる、うんちのときは黙って片づけるなど、その都度対応していたんですけど、大和はどれだけ睡眠時間が短くても、朝になると起きるんです。今日は寝てないから学校を休んでゆっくりさせたほうがいいかなと考えても、ルーティンを好むという特性があって「学校に行きたい!行きたい!」という様子でした。

 

── 永里さんのインスタグラムには、「学校に行きたくて、学校に行くときに乗る車に執着中。早く夏休み終わってくれー!!」という文面と共に、自家用車を覗きこむ大和さんの姿がありました。

 

永里さん:そうなんです。学校がない長期休みの時期が特に大変で。朝起きてご飯を食べて着替えて歯磨きして靴下履いて家を出て学校に行く、というルーティンを毎日ずっとやっているので、長期休みになるとそのルーティンが崩れることがすごくしんどいみたいで。学校とデイサービスと自宅を行き来することが好きなので、この3つが揃っているときは落ち着いて生活できるようになってきていたんですけど、そのぶん、学校がないときは大荒れでした。

 

学校に行きたくて車を覗き込む大和さん

── どんなふうに荒れていたのでしょうか?

 

永里さん:脱走ですね。あるとき、ぼくの父から突然「今、大和が来てるぞ」と連絡が来て、びっくりしたことがありました。自宅から100メートルぐらい離れたぼくの実家に脱走していて、夏場なのに熱いアスファルトの上を裸足で走って行ったみたいで。父も「誰か家に入ってきたなと思ったら、大和だった」と驚いていました。広い道路があるので、事故にあわなくて本当によかったと思いました。

 

脱走の対策をしているのですが、隙をついてその後も何回か続いて、妻が走って追いかけて行ったこともありました。大和が実家のドアをうまく開けられなくてちょうどほかのところへ行こうとしたときに見つけて、事なきを得ました。今の大和は身長が170センチメートル弱ぐらいあるので、もう対応できるのがぼくだけなんですよね。足も速くなってきているので、追いかけるときは全力疾走です(笑)。

 

小学校5年生のころは、思春期や反抗期と重なっていたからか、噛みつきがすごい時期がありました。ぼくが抱っこしているときに背中を噛むので、ぼくの背中があざだらけになって。太ももや肩への噛みつきも多かったです。「そこにたまたま柔らかいものがあったから」みたいな感じで噛んでくるときもあれば、野犬のような表情をしていて「お前、もう噛みつく態勢が整ってるじゃん!」みたいな感じのときもありました。

 

ぼくだけだといいんですけど、大和の妹やお姉ちゃんも何回かやられて、足にあざができたこともあったんです。反応するとおもしろくなってもっとやってしまうと聞いたので、痛くても我慢したり、時には「ダメだよ」と叱ったりもしましたけど、やっぱり噛まないで済む環境を整えたほうがいいなと思って。口元に何かあったほうが落ち着くのかもしれないと考えて、スタイをつけて、噛み噛みチューブのような自閉症のグッズを噛ませてみたこともありました。