料理家の黄川田としえさんと小学6年生のころの娘さん
黄川田さんと小学6年生のころの莉子さん

── たとえば成長期のジュニアアスリートの食事はどのような点に気をつける必要がありますか?

 

黄川田さん:試合後や激しいトレーニングの後は30分以内に“補食”をしないと、疲労が回復しないし、ケガにつながります。

 

娘には「体の中は見えないけど、試合やトレーニングの後はたくさん動かした筋肉や骨が傷ついているんだよ。だから30分以内におにぎりひとつ食べる習慣をつけようね。そしたら傷ついているところに栄養を送れて疲れがとれるから、明日も元気にテニスができるよ」という声かけをしてきました。

 

「体を動かした後に空腹のまま何時間も過ごすと、体の中に残った少ない栄養で無理して傷ついたところを治そうとするから、疲れがとれないし骨がスカスカになっちゃうよ」と。そうすると、「あ、骨がスカスカなところにおにぎりが栄養を運んでくれる」とイメージしやすく、「そうか、見えないけど体の中は傷ついているんだな」と自覚をしてくれるようになります。

 

お菓子が好きな子なので、試合後も本当はお菓子を食べたいと思うのですが、小さくてもいいからおにぎりをひとつ食べさせて「これ食べたらクッキーも食べようね」という具合に“補食”の順番やタイミングを繰り返し伝えることで理解していってくれたと思います。「たくさん動いた後はお菓子より、おにぎりやバナナなどお母さんが教えてくれたものを食べておいたほうがいいんだな。そのほうがケガしないんだな」と。実際、ケガがすごく少ない子でした。最近は遠征先のホテルにひとりで泊まることもありますが、筋トレの後はプロテインをすぐ飲もう、というふうに自分で考えているようです。

 

成長期のジュニアアスリートにとっては、食事だけじゃなく睡眠や休養、家族との時間、友達との時間、勉強する時間なども管理していくことがすごく大事ですし、大人よりも気を使う部分は多いと感じましたね。

テニス漬けの日々を送る娘の食事に悩んだから

料理家の黄川田としえさんと娘さん
家庭でのごはんも外食も、仲良く楽しい時間を過ごすのがモットー

── ジュニアアスリートを支えるごはんづくりの様子がSNSなどでも話題です。今後もアスリートフードに関する発信や仕事をさらに増やされていく予定なのでしょうか。

 

黄川田さん:増やそうと意識しているというより、需要に応えているうちに自然と増えた、という感じでしょうか。「スポーツをやっている子どもに何を食べさせたらいいですか?」という質問が寄せられる機会が多くなりましたし、出版社からの依頼もジュニアアスリートフードに関するものが増えています。

 

私自身も娘がテニス漬けの日々を送るようになってから、どういうものを食べさせたらいいのか最初はすごく悩んだので、同じような状況のご家庭向けに、成長期の子どもの体づくりについて発信して役立ててもらえたら嬉しいですね。

 

── 料理家として、今後やってみたいことはありますか?

 

黄川田さん:長期的には、趣味としてスポーツを楽しむ幅広い年齢層の方に向けて、健康的なスポーツと食の関係を伝えていけたらいいなと思っています。暮らしの中で楽しい食事や食卓づくりを提案するのが自分らしいのかな、と漠然と考えています。

 

仕事については、私だからできること、自分らしいことって何だろうというのは常に模索していますし、今でも考えます。でも“自分らしさ”って意外と自分ではわからなかったりしますよね。普段やっていることを周囲から「それいいね」「おもしろいね」「もっと知りたい」と言っていただくうちに仕事の道筋ができたところもあるので、「自分が好きなこと、おもしろいと思うことが私らしく見えているんだな」と、やっと最近思うようになりました。子育ても自分のことも、あまり人と比べないように。SNSの発信も、自分が楽しんでやっていることが結果的に誰かの役に立てばうれしい、というスタンスで続けています。

 

PROFILE 黄川田としえさん

きかわだ・としえ。料理家。子ども向けの料理教室や食育ワークショップを開催する「tottorante」主宰。のべ5000人以上の子どもたちに料理を教えてきた。著書に、『ホットプレートひとつでごちそうごはんができちゃった100』(主婦の友社)など。夫は元Jリーガーで、一男一女がいる。娘の莉子さんはグランドスラム出場を目指して国際大会に挑戦中。

取材・文/富田夏子 写真提供/黄川田としえ