食育インストラクターで料理家の黄川田としえさん。ご主人は元Jリーガーで、高校3年生の娘さんはテニスのプロ選手を目指して国際大会でも活躍中と、アスリートを支え続ける食卓の様子が注目を集めています。料理初心者だった結婚当初からアスリートを支えるまでに至った経緯について聞きました。(全2回中の1回)

ワークショップをしながら企業に飛び込み営業

料理家・黄川田としえさんの普段の食事
栄養バランスを考えた普段の食事

── 料理家として活躍されている黄川田さんですが、異色の経歴の持ち主だそうですね。料理家になった経緯について教えてください。

 

黄川田さん:大学卒業後、半年ほどで結婚。夫(元サッカー選手・黄川田賢司さん)が札幌のチームに所属していたため、北海道で生活を始めました。北海道では、その後テレビの制作会社に所属し、ヘアメイクの仕事をしていたんです。アナウンサーやゲスト出演者のヘアメイクを担当していましたが、手が空いた時間に制作もお手伝いすることになり、情報番組のADのような仕事もするように。情報番組のなかでも料理コーナーが特に楽しくて、そのうち料理コーナーのディレクターになりました。そのころには、ヘアメイクよりも制作のほうがメインになっていましたね。

 

当時の仕事内容は、料理コーナーを担当する料理家の先生と相談しながら毎週のテーマや紹介する料理の内容を決め、番組を進行することでした。先生とやり取りするうちに食べる相手や季節に合わせてレシピを考える料理家の仕事を魅力的に感じ、「私もやってみたい」と思うようになりました。

 

── テレビの情報番組制作の仕事を通して、料理家の仕事に関心を持たれたのですね。

 

黄川田さん:そうです。ちょうどそのころ、夫はサッカー選手を引退。料理を通してプロスポーツ選手を支えることの大切さを痛感した経験をしたことも料理家を目指した理由のひとつです。また、長男が生まれ「食というのは年代や性別に関わらず体を内側から整えるのに重要だ」と感じたことがあり、食に関わる仕事をメインにしたいと考え始めました。

 

その後、東京へ引っ越すことになり、幼い子どもを育てながら東京でテレビ制作の仕事をするというのは難しいと感じ、フリーランスで食に関わる仕事をしようと決めました。当時は「食育」という言葉が注目され始め、2005年に食育推進基本法も制定されたこともあって興味を持ち、食育インストラクターの資格を取得。ちょうど長女を妊娠中だったので、食育関連の仕事であれば子どもを連れて仕事もできるから続けやすいのでは、と考えました。

 

── 食育インストラクターとしてどんな活動をされていたのですか?

 

黄川田さん:地域の子どもや保育園仲間の親子向けに、収穫体験をしてその野菜やくだものを使った料理を作ったり、体験型の食育ワークショップを開催したり。仕事としてお金をたくさん稼ぐというよりは、ライフワークのひとつとして、子育てしながら無理なくできる範囲で活動を続けていました。ただ、慣れてくるうちにやはり料理家の仕事もきちんとしたいと考えるようになり、ブログでレシピを公開したり、企業にタイアップ広告の飛び込み営業をかけたり、仕事の場をいろいろと広げていきました。

 

あるとき雑誌にお弁当の記事が載ったところ、当時のかわいらしいデコ弁ブームもあって、お弁当関連の仕事の依頼をいただくように。そこから料理家として雑誌や広告の仕事が増え、書籍を出させてもらうようになりました。

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料理家・黄川田としえさんの料理教室&食育ワークショップの様子
親子で参加できる料理教室&食育ワークショップの様子

──「料理を通してプロスポーツ選手を支えることの大切さを痛感した」とおっしゃいましたが、元Jリーガーのご主人の食事管理は大変でしたか。

 

黄川田さん:大変でしたね。特に私の場合は、結婚当初は本当に料理初心者で、ほとんど自分で料理をしたことがない状態からのスタートでした。もちろんプロサッカー選手を食事で支えるという知識もなかったので、夫や自分の両親に聞きながら手探りで学んでいきました。チームには栄養士さんがいて遠征時の食事などは管理してくれるので、家庭では自分のできる範囲で栄養バランスを考え、楽しく食べられる雰囲気づくりを重視していました。

 

── 2010年に「アスリートフードマイスター」という資格ができましたが、1990年代にはそういった言葉もなかったですよね。

 

黄川田さん:そうですね。どちらかというと、選手自身がアスリートの食事について勉強する機会が多く、私より夫のほうが知識があり、詳しかったです。「試合前や後にはこういったものを食べるといい」と教えてもらい「じゃあ今度作ってみるね」と。

 

当時は大変だと感じていましたが、今振り返ると、大人のアスリートは体がすでに形成されているので、食事の管理はしやすかったと思います。体が成長期であるジュニアアスリートの食事サポートとはまた全然、違います。

 

── 長女の莉子さんはテニスのジュニアアスリートとしてご活躍中です。子どものサポートはまた違いますか?

 

黄川田さん:全然違って、大人よりもっと大変でした。私も最初は、アスリートを家庭で支えた経験があるから大丈夫だろうと思っていたところがあったんです。でも、娘が小学4年生でテニスのアカデミークラスに入ったころ、何日かハードな練習が続いて熱を出したんですね。それまですごく体が丈夫で体調を崩すことがほとんどない子だったし、家では栄養バランスを考えた食事をたっぷり出していたつもりだったのでショックでした。練習中にも栄養や水分を適切に補うことが必要だったんです。

 

そこで、大人相手の知識ではダメだと痛感し、ジュニアアスリートフードについて勉強を始めました。成長期のジュニアアスリートとトップアスリートとでは体の基礎が違うし、一般的な子育ての食事とも同じではダメだと気づいたんです。それから、補食のタイミングや何を食べたらいいか、それが自分の体にどういう影響を及ぼすのかを学んで子どもにも伝えられるようになり、倒れたりケガをしたりということがなくなりました。