2021年の東京パラリンピックのNHK障害者キャスター・リポーターを務めた千葉絵里菜さん。北海道から上京して慣れない都会暮らしをしながらのキャスター業は、何度も挫折しそうになりながらの挑戦だったといいます。(全3回中の2回)
倍率53倍の中から選ばれた大役
── NHKの東京パラリンピック、障害者キャスター・リポーターにはどうやって選ばれたのですか?
千葉さん:中学生のころに車椅子カーリングを始めたおかげで、障害者スポーツやパラリンピックに関心が高い人が周囲に多かったんです。そういった方が「NHKが障害者リポーターを公募しているから申し込んでみたら?絵里菜ちゃん向いてるんじゃない?」と言ってくれて、思いきって応募しました。159人の応募があったのですが、最終的に私を含む3人が選ばれたんです。
── 選ばれたときのお気持ちはいかがでしたか?東京で働くことになったのですよね?
千葉さん:「まさか」のひと言です。受かるとは思っていなかったので、嬉しかったですけど驚きが大きかったです。そこからはすごいスピードでいろんなことが進んでいきました。まずは引っ越し。1か月も経たずに東京へ引っ越す必要があったので、部屋探しとヘルパーさん探しを始めました。
ちょうどそのころ、北海道で「バリアフリーモーターフェスティバル」というイベントが開催され、そこに元F1レーサーの長屋宏和さんが来ていました。長屋さんはレース中に車がクラッシュして頸椎を損傷し、車椅子ユーザーになった方。初対面でしたが思いきって話しかけ、「来月から東京へ行くのですが、部屋もヘルパーさんも決まっていなくて…。もしよかったらいろいろとアドバイスいただけませんか?」とお願いしたら快く相談にのってくださいました。東京の家賃の高さにはびっくりしましたが、NHKに近く車椅子ユーザーも住みやすいというマンションを探してくださったり、話しやすくて仕事も丁寧なヘルパーさんも紹介してたりしたおかげで、東京生活がスタートできました。
北海道では自然に囲まれて暮らしていたので、東京の人の多さに驚きました。みんなスピードが速くて最初は怖かったです。生活に慣れた1年後、もう少し都心から離れた過ごしやすい場所に引っ越しました。
ボッチャを通して脳性まひの車椅子仲間と出会った
── リポーターの仕事はどうでしたか?
千葉さん:リポーターによって担当競技が決まっていて、私は「ボッチャ」「ゴールボール」「パラ馬術」「パラ卓球」の4つを取材し、リポートする立場でした。なかでもボッチャはもともと、脳性まひなどで運動機能に重い障がいがある人のために考案されたパラスポーツなので、これまで、自分と同じような重度の脳性まひの方をあまり見たことがなかった私にはすごく新鮮でした。
── 選手の方も、同じような立場の千葉さんだから話してくれることもあったのではないですか?
千葉さん:選手とは仲良くなれたと思います。脳性まひの選手とは同じ障害を持つ者同士、取材する側・される側の垣根を超えてわかり合えることもありました。たとえば車椅子は自分用にカスタマイズしている方が多いのですが、車椅子のカスタマイズに着目した質問をしていたら、上司に「それいいね」と言ってもらえたのは嬉しかったです。
ボッチャの内田峻介くんは当時高校生で東京パラリンピックには惜しくも出場できなかったのですが、聖火の最終点火者を務めました。彼は3本の指でボールを持ち、投げる前に1回1回ハンカチで手を拭くんですね。そこに着目して「新生・ハンカチ王子現る!」といった見出しで記事をつくったことがあります。内田選手はその後、2022年世界選手権の男子(運動機能障害BC4)で金メダリストになり、パリパラリンピックではチームの主将も務めるので、活躍が楽しみです。