後遺症でリンパ浮腫に「専用のストッキングは厚くて硬くて…」
5月連休明けの告知から3週間、転院先で手術時の輸血に備えて自己血貯血をしたり、検査などやるべきことをこなすうち、あっという間に手術当日を迎えました。
水田さんは子宮頸がんステージ1での手術。うまくいけば、寛解(治癒ではないが、病気による症状や検査異常が消失した状態)も見込めると言われていました。手術は無事に成功したものの、悪性度の高いがんであったため、手術2週間後から抗がん剤治療を開始することに。最初の1週間は治療のために入院し、その後の2週間は自宅治療という3週間サイクルを計6回行いました。抗がん剤は副作用がつらいイメージですが、水田さんの場合は少し異なりました。
「若くて体力があったからかもしれませんが、いい吐き気止めもあり、『地獄のよう』という感じではありませんでした。医療は進歩している、と感じました。抗がん剤治療を行った翌々週には比較的体調がよく、外出もできました。この時期、かつてルームシェアをしていた友人たちの結婚式があったのですが、治療スケジュールを調整しながら出席することもでき、本当によかったです」
じつは、水田さんが使用した抗がん剤は、必ず脱毛症状が起きるタイプでした。
「医師から『投与した2週間後から髪が抜け始め、3回目の投与では眉毛やまつ毛も抜けます』と予告されていたので、ウィッグや、ギャル時代以来のつけまつげを準備したり、眉毛を描く練習ができました」
抗がん剤を含め、がんの治療自体は半年程度で終わりましたが、後遺症として脚にリンパ浮腫の症状があらわれました。手術によりリンパ節をとったことで、脚の皮膚の内側のリンパ管内に回収されなかったリンパ液がたまってむくんだ状態になるのです。
リンパ浮腫は治らず進行していくもので、「むくんだ箇所が重くなる」「関節が曲げづらくなる」など、見た目や生活にも影響します。リンパ浮腫は乳がん・子宮がん治療の後遺症で発症する場合が多く、患者数は10~15万人(※1)で、女性が多い特徴があります。
「少しでもこの症状をやわらげたいと、当時、日本に導入されたばかりのリンパ浮腫の手術(リンパ管静脈吻合術)を受けました。でも、手術で根本的に解決するものではないため、毎日、自分でマッサージをしたり、医療用弾性ストッキングを着用し続けたりする必要があるんです」
初めて専用のストッキングを手にした水田さんは、大きな衝撃を受けました。
「段ボールのような厚さ、硬さ、ごわごわとした手触りと、ひと目でそれと分かる見た目。病院では『これさえ履けば、仕事もできるし、味方になってくれるから大丈夫』と言われましたが、受け入れがたくて…」
見た目とともに、生活への影響も大きく、行動を制限されることも水田さんを悩ませました。
「医療用弾性ストッキングは締めつけが強いので、最初は着脱に20~30分かかりました。朝、家を出るのもひと苦労、トイレに行ってもなかなか帰ってこられません。がんの治療は終わり、見た目は元気でも、私は一生、リンパ浮腫をかかえて、この分厚いタイツを履き続けなければならないのか…と絶望しました」
このときは落ち込んだ水田さんですが、この経験や思いこそが、同じ悩みを持つ人たちに向けて、自身が毎日履きたいと思える弾性ストッキングを開発するきっかけとなります。
PROFILE 水田悠子さん
みずた・ゆうこ。東京生まれ。2005年(株)ポーラに入社し、販売現場や、新商品の企画開発を経験。2012年29歳のときに、子宮頸がんを罹患。1年あまり休職して治療に専念した後、同職場に復帰。2018年よりグループ内のオルビス(株)に異動後も商品開発に携わる。2020年5月、ポーラ・オルビスグループより(株)encycloを創業。
取材・文/岡本聡子 写真提供/水田悠子、(株)encyclo
※「MAEE」の正式表記は、2番目のEの上にアクセント記号がつきます。
※1 厚生労働省チーム医療推進協議会NPO法人日本医療リンパドレナージ協会の資料より