奨学金で福祉系大学へ進学「自分と同じ境遇の子たちを助けたい」
── 高校卒業後は、奨学金制度をもとに福祉系大学に入学されました。社会福祉士の資格取得も視野に入れているのですね。
阿部さん:はい。社会福祉士の資格を取るために、受験に必要な条件はすべてクリアしました。今は高校時代に暮らしていた里親のもとを離れ、自立した生活を送っています。
── 小学生のころに生活していた一時保護所の職員に対する印象はあまりよくなかったそうですね。社会福祉士に対してもそうだったと思いますが、なぜその資格を取りたいと考えたのですか?
阿部さん:高1で5回目の一時保護を経験したときに、「これから本当にどうしよう」と学校の担任の先生に相談したら、「社会福祉士の資格には興味ないの?」と聞かれたんです。そのときは「興味ない」と答えたのですが、あとになって「目指してみるのもいいかもしれない」と思いはじめて。というのも、一時保護所では本当に過酷な生活だったので、理不尽なルールを見直したり、子どもたちに適切な支援を届けられるように制度を改善したりしたいと思ったんです。
── ご自身と同じような境遇の子どもたちの環境をよくしたいと思ったんですね。
阿部さん:はい。高1で一時保護されたときの施設の状況は、以前よりかなり改善されていたのですが、職員の間でいつの間にか作られる暗黙のルールはまだまだ多くて…。でも、私が小5で一時保護されたときに仲よくしていた職員の方が、高1で保護されたときには所長に昇格していて、施設に意見箱を設置してくれていたんです。子どもたちの意見にちゃんと答えてくれたり、子どもたちが「この職員のこういうところに困っている」と正直に訴えることできたりと、環境が格段によくなっていました。
でも、暗黙のルールのことは所長も知らなくて、「どうして!?」と驚いていました。もし社会福祉士の資格を取得できたら、自分にできる形で役に立ちたいと思っています。
「ここまでよく生きてきたよなぁ」と自分を褒めたい
── プライベートの話を聞かせてください。楽しい時間は?
阿部さん:高校生のときにボクシング部に入ってから格闘技が好きで、よく格闘技観戦をします。いつも「格闘技選手ってすごいな」と、選手をリスペクトしながら試合を観ています。ちなみに、最初に憧れた選手は、辰吉丈一郎さんです。あとは、「ぷよぷよ」シリーズのゲームが小学生の頃からずっと好きなので、いつか全国大会に出られたらいいな(笑)。
── 今、大切にしている時間はありますか?
阿部さん:友達といる時間でしょうか。最近、特に大事にするようになりました。いつでも会えると思わず、会えるときに会って、話せるときに話したいという気持ちがすごく強いです。
── 今後の目標を教えてください。
阿部さん:たくさんありますが、近い将来、海外へ移住したいです。多様な価値観や考え方が尊重される国で暮らしたいですね。まずはカナダで暮らしてから、スウェーデンで人生を終わらせたい、という夢もあります。スウェーデンは税金が高いのですが、自分にもしっかりと返ってくるし、福祉も充実していて幸福度が高い国なので、そこで自分らしく自由に暮らしていけたらいいなぁと。
── ここまで大変な思いをしながら暮らしてきましたよね。そんな自分を褒めるとしたら、どんな言葉をかけますか?
阿部さん:「よく生きてきたよなぁ」…でしょうか。「よく頑張った。今まで、いろいろな人生の谷を経験してきたけど、もう今までみたいな谷は現れないと思うから。これからも頑張ろうな」と自分を褒めたいです。
PROFILE 阿部紫桜さん
2002年福島県生まれ。小学高学年から児童相談所での一時保護、児童心理治療施設、里親家庭での生活を経験してきた。2023年4月、児童虐待を経験した若者たちの声を集めたドキュメンタリー映画『REALVOICE』にメインキャストとして出演。現在は、福祉系大学に通いながら、一般社団法人Heart resQ理事、IFCA日本メンバーとして子ども虐待防止活動を行っている。
取材・文/高梨真紀 写真提供/阿部紫桜