「負け惜しみみたいに聞こえるかもしれないけど…やっぱり不妊治療を経験したからこそ、わかることがある」と語るお笑いコンビ・ハイヒールのリンゴさん。不妊治療を卒業し、ひと回り器が大きくなったリンゴさんが50歳で選んだのは、大学院進学という新たな道でした。(全4回中の3回)

50代で大学院に進学「コメンテーターには経済の知識が必要」

ハイヒールのリンゴさんとモモコさん
テレビで発言するためにも学びは欠かせないとリンゴさん(本人インスタグラムより)

── 2015年に大阪学院大学に社会人入学されています。50代で学び直そうと思ったきっかけは何でしたか? 

 

リンゴさん:関西のテレビ番組にレギュラー出演していて、いろんなニュースについてコメントを求められるのですが、経済の仕組みについてきちんと理解できていない自覚があって。大学は経営学部だったんですけど、新聞を読んでも、“どうして経済ってこういう動きになるのかな”って疑問を感じることがあり、基礎からきちんと勉強し直したいとずっと思っていました。

 

たとえば、有識者の話を聞くとしても、知識がないままで聞くのと、知っていてわからないことを聞き直すのでは全然、言葉の伝わり方が違ってくる。それがもう一度学び直すことを決めたきっかけですね。おそらく子どもが生まれていたら通うことはなかったと思います。そうではなかったおかげで、大学院に通えたっていうのはあるかもしれません。

 

── 勉強の時間はどのようにねん出されましたか?

 

リンゴさん:勉強の時間をまとめてとるのはなかなか難しいので、すきま時間を利用して、劇場の出番の合間に本を読んだりしていましたね。大学院では、経済評論家の國定浩一先生のもとで学んだのですが、この先生の講義がおもしろくて。1995年にアメリカで起きた大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件に関わった方なんです。大和銀行側が裁判に負けて史上最高額といわれる3億4千万ドル(当時の為替レートで約350億円)を支払い命令がくだったのですが、当時大和銀行の専務取締役だった國定先生が最終処理を担当したときの武勇伝を赤裸々に語ってくださったりして。國定先生の人生すべてに対して前向きな考え方が好きで、学ぶことがとにかく楽しかったんです。

 

── 経済学と聞くと難しそうですが、國定先生の授業はおもしろそうですね。

 

リンゴさん:為替についてお話しされたときには、「リンゴちゃん、為替っていうのは猫のキンタマやで」なんておっしゃる(笑)。「通りすぎたあとになって、みんな“あれはこうだったのだ”とか“だから安くなったのだ”って言うから」って。そういうユニークな視点をお持ちの先生だったので、興味を持って積極的に授業を受けられました。本当に残念なことに、今年1月に急逝されたのですが、今の円安の状況を先生ならどう解説してくれただろうって今も考えます。私の「学び」の師匠のおひとりです。

歳をとったら「苦手の克服より得意を伸ばす」

── 素敵な先生との出会いがあったから学び続けられたのですね。とはいえ、年齢も重ねている状況で、勉強以外にもいろいろなタスクがあると現実的には両立が難しそうです。

 

リンゴさん:歳を重ねたら、苦手を克服するよりも得意を伸ばすようにしたほうが楽しくないですか?たとえば、英会話を習ったけど続かないっていうのは、結局英語が好きじゃないからだと思う。好きだったら、どんどん伸びると思うんです。だったら、もう英語はあきらめて自分が好きなことを学んだほうがいいと、私は考えます。そのほうが結局ためになるし、時間も有効に使えるんじゃないかなと思うんです。

 

── たしかに、やりたくないことを無理に学んでも身につかなさそう…。

 

リンゴさん:結局“何のために学び直すか”が大事なんです。時間が余っているから学び直すのか、元々興味があったけれど、これまで時間が取れなかったから学び直すのか。たとえば、毎年芥川賞と直木賞の候補作を全部読んでいる友人がいますが、彼女のLINEの文章を読んだだけで、“この人はすごく本を読んでいるな”って伝わってくる。文章が生き生きしてるんです。なんだそんなこと、って思う人もいるかもしれないけれど、私はなかなか真似できないな、スゴいなって思います。