不妊治療が一般的に知られるようになる以前の1990年代から15年もの間、治療を続けたというお笑いコンビ・ハイヒールのリンゴさん。12年前に治療を卒業するまでの経緯を聞きました。(全4回中の2回)

2年で妊娠できず治療スタート「まさかこんなに長びくとは」

40年以上のつき合いになるハイヒールのリンゴさんとモモコさん
40年以上のつき合いになる相方のモモコさんと(本人インスタグラムより)

── どのようなきっかけで治療を始めたのですか?

 

リンゴさん:子どもが欲しかったのに、なかなかできなかったので。当時から「子どもを望んでいるにもかかわらず、2年間妊娠できない場合は不妊に当てはまる」という認識はありましたから。とはいえ、治療を始めた当初は、ここまで長くかかるとは思っていなかったです。軽い気持ちで病院に行きましたね。

 

── 東京都では現在、不妊治療をしていて一定の条件に当てはまる人は補助が受けられるようになりました。リンゴさんが治療をされていた当時は基本的に自費診療だったと思いますが、金銭面でのハードルは感じませんでしたか?

 

リンゴさん:不妊治療はいくつか段階があるんです。最初にタイミング療法、次に人工授精、それでも難しかったら体外受精や顕微授精。治療の段階が進むにつれて、かかる金額も変わっていきます。でも当時は、そこまで高額な治療をするつもりはありませんでした。

 

── いろいろな治療にトライされたのですか?

 

リンゴさん:結果的にそうなりました。なるべく治療費が軽減されるように配慮してくれた先生もおられたし、最初から体外受精を勧める先生もおられました。体外受精の場合、受精卵の培養の過程で卵が育たずキャンセルせざるを得ないこともあるのですが、ここまでの費用はこれだけかかりますって高額な請求が来たり。今とは違ってインターネットで情報が簡単に得られなかったから、決断するのが難しかったです。

 

ハイヒール・リンゴさん
今は自分のために時間を有意義に使う日々(本人インスタグラムより)

── ご自分で不妊治療の情報を集めて、治療ができる病院を探すだけでも大変だったでしょうね…。

 

リンゴさん:今振り返って思うのは、不妊治療は本当に先生との相性が大事だということ。どんなに名医に診てもらっても、信頼関係ができていなかったらやっぱり最後まで任せられないんですよね。

 

── セカンドオピニオンを求めて、転院も経験されたのですか?

 

リンゴさん:はい。当時は病院の設備に限界があって、すべての病院で高度な不妊治療が受けられるわけではなかったんです。周囲の信頼できる人に相談して転院したこともあるし、「この病院で治療するのはこれ以上は無理だな」って自分で判断して病院を変わったこともありました。

夫にも自分にも問題がないのに妊娠できないつらさ

── 手探りで治療を続けるなか、ご主人は不妊治療に協力的だったのでしょうか?

 

リンゴさん:夫はバツイチで前の奥さまとの間にお子さんがいたので、私と同じ熱量で子どもが欲しかったわけではなかったと思います。でも治療に関しては、「私の気がすむまでやったらいい」と言ってくれて、いつも本当に協力的でした。

 

不妊治療って金銭的な負担が大きくなりがちなので、世間ではそういった面で夫の理解を得られないご夫婦が多いかもしれません。わが家は共働きだったので、不妊治療の費用を私自身で負担することで、自分が納得するまで治療を続けられた。そういう意味では、私は恵まれていたと思います。

 

ハイヒール・リンゴさんの愛猫
愛猫のタウザーくんは大切な家族(本人インスタグラムより)

── 治療中、一番つらかったのはどんなことでしょう?

 

リンゴさん:不妊治療って、明確な終わりというか、ゴールがないんです。体外受精にしても、“あと3回だけやってみよう”と思って始めたとしても、3回目でうまくいくとは限らない。すると、“もしかしたら4回目でうまくいくかもしれないのに…”っていう思いがフッと生まれたりするんです。

 

── 終わりが見えない状況で、自分でどこまで続けるかを決断しなければならないのは、つらいですよね。それに、男性側が治療に協力的でないケースも多いと聞きます。

 

リンゴさん:不妊の原因はほぼ男女半々だという話があるくらいなのにね。男性側に問題があるかもしれないのに治療を嫌がるとしたら、それは本当論外。うちの場合は、夫にすでに子どもがいたので問題ないだろうと思っていたのですが、病院で「年齢的にも一応チェックしておいたほうがいい」と言われ、早々に検査してくれました。

 

その病院の培養士さんがおもしろい方で、夫の検査結果を伝えるとき、「ご主人の精子はとても状態がいいですね!WHOから表彰されてもいいくらいです!」って笑わせてくれて(笑)。そうやって夫婦で笑顔を忘れずに治療していけるといいですよね。治療の真っただ中って、ついマイナス思考になりがちですが、「家族が増えたときのためにこうしよう」って前向きなマインドを意識するようにしたほうがいいと思う。

 

── たしかに、不妊治療の最中はその先にある“子どもがいる生活”のことまで想像できない人が多そうです。

 

リンゴさん:不妊治療の末に高齢出産でようやく子どもを授かったのに、産後の子育てがうまくいかず、「私が欲しかったのはこんな子じゃない」と精神的に参ってしまった知人もいます。不妊治療って、妊娠したら終わり、じゃないんです。子どもが生まれてからがホントのスタート。新しい家族を誕生させることの意味をちゃんと考えないと…と感じます。

 

── 不妊治療中に同じく治療中の友人が先に妊娠したときに、相手に「おめでとう」と言うのがつらい、という声も…。

 

リンゴさん:私の場合は、他の人の妊娠や出産の話を聞くと「おめでとう!」って素直に思えるほうで、がぜん自分の治療もやる気になっていました。だって妊娠自体が奇跡の積み重ねで本当にスゴいことじゃないですか。ただ、妊娠や出産にまつわる言葉のかけ方って、難しいですね。いろんな思いがあるし、考え方も違うから。