「僕がいなきゃダメ」鍋を焦がす妻に出会って初めて得た感覚

── 現在、ご家族との関係は?お子さんはまだ小さいですよね。

 

徳井さん:子育てや家族と一緒に過ごすのは、すごく楽しいです。これまでに2人の子どもを育ててきて、再婚して今回で3人目。妻は曲も作るし、歌も歌うアーティストなので、作りこむときは何もできなくなるんです。曲を考えていて、鍋を焦がしちゃうタイプ。極端な話、僕がいないと生活まわらないし、生きていけないくらい(笑)。だから、僕がやってあげなきゃと思います。こんな感情を抱くのは初めてで、そういう意味で、妻の存在はとても大きいです。

 

自分で何でもできる人には、僕なんて必要ないじゃないですか。芸人ってだいたいマルチタスクが得意で忙しくてもちゃんとこなせる人が多いから、僕なんて後方に下がってしまいます。

 

── 徳井さんは、頼られて力を発揮するタイプなんでしょうね。子育てをとおして、ご自身が育った環境をとらえ直すことはありましたか?

 

徳井さん:子育てきっかけではないのですが、友人にすすめられて看取り士の資格をとったときに、印象的な経験をしました。死に関わることなので、ちょっとスピリチュアル、宗教的なことも学ぶんです。講座の中で先生に言われて、目を閉じて過去を思い出すというのをやりました。「ここに集まった人はいろんな人生を背負っている、虐待を受けたり、親が自殺した人もいるかもしれない。でも、いったん目を閉じて、胎児になった状態で、体温や感覚を思い出しましょう」から始まりました。

 

そして、「いま、お母さんは妊娠しています。そのときのお母さんの気持ちを考えてください」と、先生に言われたんです。そんなこと、一度も考えたことないですよね。でも、僕は号泣してしまって。僕は生まれてから、親から愛をもらってないと思っているけど、妊娠中は無条件に母が守ってくれているし、胎内は愛しかないじゃないですか。生まれたら、虐待も、殺されることもあるけど、妊娠中は100%純粋な愛でしょう?

 

母親が憎くてしかたないこともあったけど、母親もかわいそうだったのかもしれない。僕を妊娠中の20歳の母親は、知らない土地で不安だけど、好きな人との子どもを授かって幸せで、希望に満ちていたのかもしれない。そう考えると、 いままでにない感情がこみあげて泣いてしまいました。

 

PROFILE 徳井健太さん

1980年生まれ、北海道出身、NSC東京校5期生。 2000年に吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」を結成。 テレビ朝日系『楽しく学ぶ!世界動画ニュース』にレギュラー出演中。芸人や番組を愛情たっぷりに考察する事でも注目を集めている。 最近では、幼少期の経験から、「ヤングケアラー」をテーマにした講演会を全国各地で行っている。

 

取材・文/岡本聡子 写真提供/徳井健太、吉本興業株式会社