自宅に戻ってから伝えた言葉に「義父母が喜んでくれた」

── 家出中は、どのように過ごされたのでしょう?

 

高橋さん: 突然押しかけたにも関わらず、妹はたくさんグチを聞いてくれました。妹の家にいる間、私が家事をやらせてもらったのですが、みんなが「ありがとう」と喜んでくれるから、楽しく家事ができました。

 

そのとき、「同じように家事をしているのに、どうして義父母には感謝してもらえないんだろう?」と思って。自宅と妹宅での違いを考えてみたら、妹宅では「みずからすすんで」家事をしているけど、自宅では「やらされて」いることに気づきました。

 

ということは、自宅でもすすんで家事をすれば、義父母も自分も気持ちよく過ごせるかもしれないと思って。それから家に帰って、義父母の得意分野の家事を教えてもらうことにしました。

 

義父に笑いかける高橋さん

── その発想の転換は、なかなかできないです。帰宅後はいかがでしたか?

 

高橋さん:「家事のやり方を教えてください!」とお願いすると、ふたりはとても喜んでくれました。義母はお料理が上手だったので、出汁の取り方といった料理の基本から、郷土料理の作り方まで、義父からはお掃除や整理整頓のしかたを教わりました。

 

最初の3か月くらいは、子どもをおんぶしながら慣れないことを教わるので、本当に大変でした。でも、少しずつ手際がよくなって時短で動けるようになり、家事を楽しめるようになったんです。

「カニがお尻をつねっている」に正論で返す必要はない

── その後、義理のお母さんが旅立たれ、義理のお父さんの認知症が悪化します。

 

高橋さん:義父は亡くなった義母を探すことが増えました。だけど、たまに認知症になる前の優しくて真面目な義父に戻る瞬間があるから、「ばあばは、出かけたよ」なんて嘘でごまかしたら、後々つじつまが合わなくなるんです。

 

かつての義父に戻る瞬間のために、「ばあばは、亡くなったでしょ?」「『あまり早くこっちに来ないでね』って言ってたよ」と説明すると、「そうだったね」と理解してくれました。

 

ほかにも、「カニがお尻をつねってる」なんて、意味不明な言動も増えていきました。でも、認知症の人に「そんなわけないでしょ!」と正論をぶつけても、いいことはないんです。そんなときはお尻を軽くつねって「カニさん取れたよ!よかったね」と、義父の言動を受け入れて対処していました。

 

── 意味不明な言動が繰り返されると、こちらも感情的に否定してしまいそうです。高橋さんが、いつも真摯に対応できたのはなぜでしょうか。

 

高橋さん:意味がわからなくても受け入れて対処したほうが、食事やおむつ替えなど、その後がスムーズに進むんです。それは真面目だった義父の性格や、祖父母の介護経験を振り返っての判断でした。

 

── いままでの介護の経験を活かした対応だったのですね。

 

高橋さん: 「祖父母の介護でしてあげられなかったことを、義父母にしてあげたい」と思いながら介護してきました。そうすれば、「祖父母の介護への後悔が少しは薄まるかもしれない」と、かすかに期待していたから。

 

でも、介護って、こちらが「こうしたい」と思っていても、介護される人の性格や病状によってベストな対応は異なります。だから、やってあげたいことができない場面もたくさんありました。

 

ただ、最期まで家族に愛されながら、安らかに旅立っていった義父母の姿を思い起こすと、天国の祖父母に「私、頑張ったよ」って、いまは胸を張って言えます。祖父母の介護で学んだことは、義父母の介護にできる限り活かせたし、後悔が少しは薄まったかな。

「血がつながっていなくても」介護したい気持ちが持てる訳

── 自分を育ててくれた親の介護も大変だと聞きますが、高橋さんが義理のご両親の介護をそこまで頑張れたのはなぜでしょうか。

 

高橋さん:義理の両親とは血のつながりはありませんでしたが、ずっと根底に尊敬の気持ちがありました。料理上手でお花が趣味だった義母は、いつも着物をパリッと着こなす憧れの女性でした。義父はとても紳士的で優しく、ユーモアあふれる人で。母子家庭で育った私は、お似合いの義父母が仲睦まじく過ごしている佇まいや雰囲気に、憧れと尊敬の気持ちを抱いていたんです。

 

私が「家事を教えてください」とお願いしたとき、義父母は体調が芳しくなくても、まさに命を削って懸命に教えてくれました。ふたりが授けてくれた教えと感謝の気持ちは、ずっと忘れません。

 

きっと尊敬する気持ちがあれば、人柄や言動が変わっても「病気のせいだ」とわかるし、辛いことがあっても頑張れる。血のつながりよりも、介護される人と介護する人が積みあげてきた関係が、介護を頑張れる原動力になるんじゃないかな。

 

PROFILE 高橋里華さん

たかはし・りか。1972年、埼玉県生まれ。15歳で国民的美少女コンテストに出場し、入賞。芸能界デビューを果たす。1992年度フジテレビビジュアルクイーン。2006年に結婚すると同時に祖父母の介護を開始、その後義父母との同居、介護を続ける。2020年にYouTubeチャンネルを開設し、2021年には『じいじ、最期まで看るからね』(CCCメディアハウス)を出版。二児の母。

 

取材・文/笠井ゆかり 画像提供/高橋里華