71歳でプチプラファッションを紹介するYouTubeチャンネルを開設し、1本目の動画から収益化を達成したロコリさん(73)。勤務先の度重なる閉店やハローワーク通い、マクドナルドでのアルバイトを経て気がついた「自分らしく働く」ことの幸せや、今後の目標について聞きました。(全2回中の2回)
YouTube市場でシニアは穴場だった
── 71歳でYouTubeチャンネルを開設されたきっかけは何だったのでしょうか?
ロコリさん:YouTubeを見ていてたまたま“おすすめ”にあがってきたのが70代の方のYouTubeチャンネルでした。「自分と同年代のYouTuberもいるんだな」と思って調べてみたら、思った以上にたくさんいらっしゃった。
それからは60代、70代のYouTuberさんを見つけて、全部ノートにリストアップしていきました。お名前や動画のジャンル、チャンネル登録者数、いつ頃収益化されたかを調べてずらっとノートに書き出したんです。そうしたら、けっこう収益化されている方が多いことに気がついてびっくりして。シニアYouTuberはまだまだ少ないし今がチャンスかも、と思って始めることにしました。
── ロコリさんはチャンネル開設から1年経たずに収益化をされたそうですね。
ロコリさん:それが1年経たずにどころか、1本目でもう収益化できていたんです。当時の基準としてはチャンネル登録者数が1000人で、視聴時間が4000時間を超えれば収益化ということだったので、1本目でそれは達成していました。YouTube側から認定されたのは2本目を上げた頃になります。
── すごいです!それは予想されていたことなのでしょうか?
ロコリさん:いや、してないです。ただYouTube市場でシニアは穴場だからどう転ぶかな、という期待はありました。
── YouTubeを始める前に半年かけてしっかり準備されたそうですね。
ロコリさん:まず、私が住んでいる築50年の部屋をDIYしました。撮影のためには仏間になっている和室が使いやすいと思ったので、仏間っぽい壁の色を明るい壁紙にするなどしてきれいに見えるよう整えたんです。あとは動画編集が難しいだろうと思ったので、YouTubeのハウツー動画を片っ端から見ました。私の年齢でもわかりやすい初心者向けの動画をあげている方を見つけてからは、その方の動画を何本も見てノートを取りながら動画の編集方法を勉強しました。
── 撮影から編集まですべておひとりで?
ロコリさん:はい、全部ひとりです。誰にもやり方を聞いたことはないです。何かわからないことがあっても、YouTubeやネットで検索すれば、たいていのことはどうにかなるので。
── 切り口はファッション系でいこう、と決めていたのでしょうか。
ロコリさん:はじめはDIYの動画を上げようと思っていたんです。でもDIY動画を見る方って自分より詳しい方の動画を見るだろうから、素人のおばちゃんがDIYしていても参考にならないかな、と考え直しまして。
ノートに書いたシニアYouTuberのリストを見直していたら、ファッション系が少ないことに気がつきました。逆に多いのは、丁寧な暮らしとか離婚系ですが、どちらも自分にはできない。でもファッションだったら若い頃に地元の北九州でブティックを経営し、百貨店のアパレルで長く働いていた経験もありますし、プライベートでは安くていいものを買うのが得意でした。それでプチプラファッションやコーディネートを紹介する動画を始めよう!となりました。まぁ、ブティック経営はうまくいかなくて、2000万円の負債を背負った過去があるんですが…。
── YouTubeチャンネルを作っていて一番の醍醐味はなんでしょうか?
ロコリさん:自分の個性が出せるのが何より嬉しいです。たとえば、百貨店でマネキンのディスプレイを任されたとして、自分では「最高じゃん!」と思う内容でも、店長が出てきて全部変えられたりしてしまう。そんな経験が何度もありました。なので、販売員しながら、この仕事は自分らしくない、とずっと感じていましたね。誰からも邪魔されず自分の感性だけでできるYouTubeは楽しいですよね。自分らしさを表現できている今が人生でいちばん楽しい。
49歳でハローワークに通いながらパソコン技術を取得
── 著書に「今の時代が一番生きやすい」という言葉がありました。自分の感性でセルフプロデュースできる状況にあるからなんですね。
ロコリさん:そうです。あと、デジタル機器が好きだから、ネット社会が自分に合っているんでしょうね。まだApple社のMacがそんなに普及していない頃、友達のデザイン会社にMacのパソコンがあると聞いて、それまでパソコンを触ったことがなかったのに興味を持って見に行ったこともあります。2000年のちょっと前、49歳の頃かな。Macを見たらパソコンに興味が出てパソコン教室を調べたんですけど、ちょっと値段が高くていったんは諦めました。
その頃、勤めていた全国規模の百貨店があと半年で閉店することが発表されて。たまたま同じ時期に新聞で、ハローワークで中高年向けのパソコン教室が間もなく開かれるという告知を見ていたので、これはチャンスだと。閉店を待たずに百貨店を辞めて、失業保険をいただきながら3か月かけてパソコン教室に通いました。お金をもらいながらパソコン技術が学べたのでラッキーでした。
── チャンスをものにして、挑戦を続ける姿勢が素晴らしいです。ハローワーク通いのあとはどうされたのですか?
ロコリさん:また別の、地元の百貨店で働き始めました。同時に母の介護が始まって、介護しながら10年ほど働いた後、そこも閉店してしまって無職に。母を亡くした時期も重なり、「これから月5万円の年金でどうやって生活しよう」と気持ちがふさいでいたのですが、ある日ウォーキングに出たら、近所に新しくマクドナルドの店舗ができたのを見つけたんです。
そのお店は窓が三面ガラス張りで、2階席のある大きなマクドナルドだったのですが、入ってみたらすごく“気のめぐり”がいいと感じました。当時69歳、環境をガラリと変えて、活気のある健康的な空気の中で働きたいと思ったんです。そのとき、お店に貼ってあったチラシに「スタッフ募集!70代定年退職者も活躍中!」と書いてあるのを見て、69歳の私でも働けるかも、と思って申し込みました。
マクドナルドでは若い子と触れあえて、好きな時間に働けるところが気に入っていました。一方で、「いつか体にガタがきて続けられなくなるかも」という不安は抱えていました。おかげさまでYouTubeの方が忙しくなったことや、長年の接客業で痛めた膝が悪化したこともあり、アルバイトは3年ほどで辞めてしまったのですが、楽しい経験でした。
── 若い頃に想像していた老後の暮らしと実際の年金生活にギャップはありましたか?
ロコリさん:年金が少ないだろうということはわかりきっていたので、ギャップはなかったです。だから一生働き続けなくてはいけないだろうとは思っていました。
今は年金とYouTubeの収益でなんとか暮らしています。それに新聞社でコラムを書いているのでその原稿料がちょこっと(笑)。体力がないから、そのなかでできることを続ける感じですかね。とにかく健康でなくちゃだめですね。
── 今後の目標や挑戦したいことを教えてください。
ロコリさん:世界進出です!最近始めた新しい挑戦は、英語の字幕をつけること。先日あげた動画のコメント欄に、ロサンゼルス在住のアメリカ人から「あなたの言っていることがわからないから、英語のキャプションをつけてくれませんか」という書き込みがあったので、Google翻訳を使って英語のキャプションをつけ始めました。それもひとりでやっています。
世界中の人が見てくれたらおもしろいですよね。最近は若い子たちがどんどん海外へ出て行くので、北九州からおばちゃんの世界進出を狙っています(笑)。まずはYouTubeに英語字幕をつけるところから地道に頑張ります。
PROFILE ロコリさん
ろこり。1951年福岡県生まれ。71歳でYouTubeチャンネルを開設。ユニクロ、しまむら、GUのアイテムを活用したプチプラファッションコーデを紹介し4か月で累計再生数100万回超えの人気シニアYouTuberに。20代で起業して2,000万円の負債を抱え、返済後は母の介護に苦労した過去を持つ。2023年3月に著書『72歳、好きな服で心が弾む、ひとり暮らし』(KADOKAWA)を出版。西日本新聞にてエッセイ「空を見上げて」連載中。
取材・文/富田夏子 画像提供/ロコリ