大阪で毎週、130回に及ぶ炊き出しをする今

翔さんと郁代さん

── 現在は翔さんが35歳。大阪・西成で炊き出しをされるなど社会貢献もされています。お母さまからみて、いつくらいから変化していったと思いますか?

 

郁代さん:ん〜。やっぱりいろんなことを経験し、たくさんの人に会って、徐々に徐々に変化していったと思います。

 

たとえば鑑別所に入った時はお世話をしてくれる人や警察の人、日常では近所の人たちもそうですが、それぞれの人と会話をするなかで、思うことがあったんでしょうね。自分が置かれている立場とか。

 

「親は自分のことなんかいらんやろう」とか、口には出さなくても、親に対して思っていたことがそれなりにいっぱいあったと思うんです。けど、周囲の人から「お前は本当は親の愛情に満たされて育ってきた」といったことを結構、言われたみたいです。なかには、その人自身も過去に道を外して更生した人もいて、「お前を見たらわかる。俺も以前はそうやった」って感じのことを言われたりして。

 

実は自分はすごく甘えていたけれど、本当は親が一番、俺のことを大事にしてくれていたんじゃないか、そんなことを言ってくれたことがありました。今まで自分がすごく歪んだ、ねじれた感覚でしか物事を見れていなかったことが、実は違ったんやみたいなことに気づき始めてから、徐々に変わっていったと思います。

 

── 今は翔さん自身が人の背中を押す立場にもなっているように感じます。今の翔さんを見てどう思いますか?

 

郁代さん:やっぱり本人がね、私たちが口酸っぱくこうした方がいいよって言っても、「わかりました。じゃあやるわ」っていうタイプの子でもないので。自分が失敗しながら学んでいく流れに今なってるのは、すごくいいことだなと思ってます。お兄ちゃんも弟も翔を頑張れってすごく思ってるので、家族みんなで応援していけたらいいなって思います。

 

PROFILE ダルビッシュ・セファット・郁代さん

長男・有、次男・翔、三男・賢太の三兄弟の母親。夫はイラン出身の実業家、ダルビッシュ・セファット・ファルサ。2015年にNPO法人ウインウインを設立。現在は代表理事として、子どもから大人まで多くの世代が交流できる場、心の休まる居場所の提供を目指す活動などに取り組んでいる。

 

取材・文/松永怜 写真提供/ダルビッシュ郁代