「なんだか仕事に集中できない」「ちょっとテンション上がらない」。そんなときに、ふわっと香るアロマの存在が、生活のエッセンスになるかもしれません。大橋マキさんにアロマの世界の魅力を聞きました。(全5回中の4回)

今日は「この香りがいい」と自由な気持ちで楽しめたら

── 病院でアロマセラピストとして勤務された後、自身のアロマブランドを立ち上げられました。きっかけを教えてください。

 

大橋さん:病院で行なっていたアロマトリートメントは、1対1でのコミュニケーションであり、その方に届けるための香りです。ですが、もう少し開かれた空間で香りをシェアしていくことに可能性を感じ、「家庭で気軽に使えるアロマ」をコンセプトに、ブランドを立ち上げました。

 

当時、「このアロマはこういう効能」という感じで、香りの魅力が限定的に伝わりがちでした。私自身、統合医療としてのアロマをずっと学んできたので、そうした考えに寄っていた時期もありました。でも、じつはアロマの魅力はそれだけにとどまらず、もっと奥が深いんですね。

 

アロマの調香をしている大橋マキさん
アロマの調香をしている大橋さん

たとえば、エッセンシャルオイルひとつとっても、それぞれにまつわる歴史や物語などがあり、それらを知ることで、アロマの楽しみ方がぐっと広がります。

 

アロマはイマジネーション豊かな世界。自分が「これが好き!」と思えるものをもっと自由に選んでいい。もちろん皮膚刺激や禁忌など安全面には注意が必要ですが、「グレーな部分がある面白さ」が、アロマの自由な魅力だと思うようになりました。

 

──「グレーな部分が魅力」というのは、面白い考え方ですね。

 

大橋さん: 香りはその日の気分によっても、好き嫌いが左右されますよね。それこそ今日はすごく気持ちのいい香りだと感じても、明日は違うかもしれない。自分の体調だったり、健康の状態だったり、そのときに食べたものでも左右されます。いろんなことの「掛け算」で香りの好き嫌いは、変わるんです。

 

── たしかにそうですね。

 

大橋さん:ですから、不快に感じる香りを「肩こりにいいから」と、わざわざ使う必要なんてありません。「アロマって、なんだか小難しそう」と感じる方も多いかもしれませんが、決してそんなことはなく、誰でも使えます。

 

それに精油が持つ物語の背景を知ることで、魔法のように一瞬で、その世界に飛べる楽しさもあります。精油の香りが、時間や場所を超えていろんな場所に連れて行ってくれるんです。

 

そんなアロマの魅力を伝えたくて、以前、デザインオフィス「nendo」さんと、アロマオイルのディフューザーを共同開発しました。現在は、もっと気軽に使えるスプレータイプに移行しています。じつは香りって、生活のいろんなシーンに取り込みやすいんですよ。

名刺交換のときにもリラックスをもたらす効果も

── たとえば、どんなふうに香りを取り入れるのがおススメでしょうか?

 

大橋さん:香りを上手に拡散させるには、空気の動きがある場所につけるのがおススメです。

 

たとえば、私がよくやっているのが、日傘を香らせる方法。アロマを垂らしたコットンを日傘と一緒に置いておくんです。開いた瞬間に香りのシャワーがふわっと降ってきます。布など香りを吸収しやすい素材のピアスやブレスレットなどにつけるのも素敵ですね。

 

私はシナモンスティックを日傘の柄にリボンで結んで保管しています。そうすると、日傘にシナモンの香りがついてとてもいい香りになります。

 

お手紙や名刺に香りをつけるのもおススメです。ビジネスでの名刺交換は、緊張してかたくなりがちですが、そこに香りがあるだけで会話のきっかけが生まれたり、リラックスしてコミュニケーションがスムーズになります。事務的に行ないがちな場面ですが、どうせなら素敵な時間にしたいですよね。
 

※エッセンシャルオイルが皮膚に直接触れたり、誤飲したりすることがないよう注意してご使用ください。布に使用する際は、着色にご注意ください。

 

── 名刺や手紙を香らせるのは素敵ですね。相手の記憶にも残りやすそうです。

 

大橋さん:仕事でいいパフォーマンスが出せるように、頭の思考をクリアにするような香りもいいですし、相手やシーンに合わせて香りを変えるのもおススメです。

仕事モードのときはローズマリーやサイプレスの香りを

── テレワークで集中するために、空間に香りを取り入れるのもいいですよね。

 

大橋さん:私は気持ちを切り替えたいとき、香りを変えています。最近では、アロマが使用できるデスクタイプの加湿器や、車で使えるものなど、いろんなデバイスが登場しているので、シーンごとに使い分けるのもいいですね。

 

平野邸Hayamaの庭先にある畑で地域の人たちと土いじりをする大橋さん(写真提供:大橋さん)

卓上で使うなら、熱いお湯を張ったマグカップにアロマを垂らすと、精油と蒸気の効果が得られ、喉の乾燥対策にもなります。喉がちょっとイガイガし始めたなというときは、マグカップの蒸気浴で、ユーカリを使うのもいいですよ。

 

頭がボーっとして眠くなってきたときは親指だけマグカップの中に入れて、アロマをたしてあげると、すごくリフレッシュします。

 

── なぜ親指なんですか?

 

大橋さん:親指には、頭のツボが集まっているんです。足の親指も同様です。

 

── 仕事や家のことで日々忙しく、毎朝イライラしてしまう。そんなときにおススメの香りはありますか?

 

大橋さん:取り入れ方のポイントとして、まずは、土台となるアロマオイルを決めることです。そこに目的に応じた香りをプラスオンしていく考え方です。

 

気持ちが明るく前向きになるという意味で、朝にぴったりなのはオレンジの香り。値段も手ごろなので、取り入れやすいと思います。これをまずは軸にします。

 

オレンジだけだと、ちょっとフレンドリーすぎてしまう、もう少し落ち着いた気分になりたい場合は、そこに樹木の香りを加えてみてください。シャキッと仕事モードにしたいなら、ローズマリーや針葉樹のサイプレス、ユーカリあたりをプラスオン、女性らしさ、美しさを意識したいなら、ゼラニウムやイランイランがおススメです。

 

PROFILE 大橋マキさん

おおはし・まき。1976年生まれ、神奈川県出身。聖心女子大学卒業後、1999年にフジテレビにアナウンサーとして入社。バラエティや「プロ野球ニュース」などを担当。2001年に退職後、イギリスに留学して植物療法を学ぶ。アロマセラピストとして6年間の病院勤務を経て、現在は、アロマによる空間演出、デザインを手掛けるほか、福祉、地域振興、企業支援に至るまで幅広く活躍。2018年に、「一般社団法人はっぷ」を立ち上げ、神奈川・葉山で自然と共にある暮らしを通し、地域の繋がりづくりを実践している。2児の母。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/大橋マキ