超人気職種といわれたアナウンサー職を辞して、アロマセラピーを学んだ大橋マキさん。世間がイメージするアロマとは違う、医療に関わる立場に身を置くことになります。(全5回中の3回)

「わからないことだらけ」アロマを学ぶためにくらいついた日々

── 2001年にフジテレビを退職した後、植物療法を学ぶためにイギリスへ留学されました。

 

大橋さん:当時、日本では「癒やし」ブームが到来し、アロマセラピーといえば、どこかパステルカラーのようなイメージでした。

 

しかし、アロマの本場・フランスやイギリス、ドイツなどでは、医学を補う補完医療や代替医療、さらに、統合医療の現場でもアロマが取り入れられていました。

 

ヨーロッパは、ハーブの歴史も長く、人々にとってアロマは身近な存在。さまざまな心理療法、さらには宗教まで包括し、「心と体を統合的に扱って健康をつくりあげていく」文化が根づいています。

 

大橋マキさん
ここが大橋さんの第二の故郷!イギリス・サリー州でのハツラツとした様子

たとえば風邪をひいたとき、いろいろな治療の選択肢があって、アロマセラピーもそのひとつ。日本とはずいぶん環境が違っていました。

 

アロマは、フィジカルとメンタルの両輪からケアしていけるものだと感じていました。実際にどんなふうに使われているのかをこの目で見たい、もっと知りたいという強い気持ちがあり、そのためには本場で学ぶ必要があると考えたんです。

 

── イギリスではどんな生活を?

 

大橋さん:アロマに関する学校へ通って植物療法を学んだのち、アロマセラピストの資格を取得しました。じつは、本来1年ほどかかるプログラムだったのですが、渡英直前に婚約していたこともあり、履修に必要な2つのコースを同時に受講し、半年間で集中的に学ぶことにしたんです。

 

授業の内容は解剖生理学や病理学、化学など専門的なものが多く、日本語でも難しいのに、慣れない英語での学びはかなり大変でした。授業中は一番前に座り、意味がわからない用語があると、とりあえずカタカナでノートに走り書きして、休憩時間に先生をつかまえて聞くようにしていました。

 

カレッジで学びながら、現地で発行されている日本人向けタブロイド紙で、統合医療をテーマに連載記事も書いていました。

大好きな雑誌社に通いつめて「執筆を直談判」

── 勉強だけでなく取材活動もされていたとは、アグレッシブですね。

 

大橋さん:実際の医療現場で、どんなふうにアロマが使われているかをこの目で見たかったんです。

 

取材では病院や治療院、緩和ケアを行っているホスピスなどを訪れました。印象的だったのが、英国王室公認のホスピスです。芸術療法や音楽療法、アロマトリートメント、さらには宗教なども含め、滞在している方をトータルでケアしていくことが実践されていて、多様性を感じました。

 

── 多種多様な治療方法が存在するのですね。

 

大橋さん:いまでこそ多様性という言葉が当たり前になっていますが、「自分の健康や心と体への向き合い方もいろんな選択肢から選んでいい」ことを実感させられましたね。

 

イギリスでは、さまざまな医療現場でアロマが役立っています。急性期や緩和ケア的に中長期で使われたり、がんや難病の末期、怪我をした後のリハビリ、産婦人科など、ありとあらゆる場面で取り入れられています。これは、実際にイギリスに行って自分の目で見なければわからないことでしたね。

 

最初につくったのは「Noel」というクリスマスの香りだった

そうした現場を目の当たりにしているうちに、「伝えたい」という気持ちが、ふたたびムクムクと湧き上がってきたんです。

 

帰国後、当時から社会環境をテーマにした企画を組む、大好きだった『ソトコト』という雑誌の編集部に「イギリスの統合医療の実態を伝えたいので、ぜひ書かせてもらえませんか?」と打診し、企画書を持って通い詰めました。何度もボツになりながらも、結局、1年かけてようやく記事を掲載していただくことができました。

 

実験室で白衣を着てネズミの実験を行ったり、雪深い山奥で専門家と精油を採取したりと、さまざまな取材を通じて、統合医療やアロマテラピーの魅力を発信。以降、様々なジャンルの取材執筆をさせていただき、自分なりの気づきもたくさん得ることができました。

声の出ない女性にアロマの施術「3、4年後に奇跡的なことが」

── 帰国後は、アロマセラピストとして病院での勤務も経験されています。現場では、どんなふうにアロマが活用されていたのでしょうか?

 

大橋さん:病床数450床ほどの大きな病院で、セラピストとして約6年半勤務しました。高齢者の方にアロマセラピートリートメントで血流を促進したり、嚥下がスムーズになるよう補助することも、アロマでサポートできるのです。

 

寝たきりの方の場合は、とこずれ予防や爪白癬(つめの水虫)の改善などにも使われますし、寝たきりなど長期間、動かさなかったことで筋肉や皮膚が伸縮性を失い、関節の動きが悪くなった状態にも、アロマセラピートリートメントを行ってサポートします。

 

イギリスから帰国後、アロマセラピストとして高齢者に施術を行う大橋さん(写真提供:大橋さん)

医療行為という言い方はできないので、あくまでリラックスとリフレッシュのための位置づけになりますが、実際、かなりの変化を感じた方も多くいらっしゃいました。

 

ボディへのトリートメントは、お体への負担が大きいので、手足をさする程度になる場合もあるのですが、それでもできることはたくさんあるんです。

 

── たとえば、どんなケースでしょうか?

 

大橋さん:6年間、ずっと担当させていだたいていた方で、当時、お薬の副作用のためと聞きましたが、発話がしづらい方がいました。ですが、アロマのトリートメントを続けて3~4年経ったころ、ある日、施術が終わったときに「ありがとう…」と、途切れ途切れでおっしゃったんです。思わず胸が熱くなりました。

 

100歳近い方でも、こちらのアプローチによって体がちゃんと応えて変化するんです。こうした瞬間に出合うたびに、人間の持つ「生命の力強さや可能性」というものにあらためて気づき、感動させられました。

 

PROFILE 大橋マキさん

おおはし・まき。1976年生まれ、神奈川県出身。聖心女子大学卒業後、1999年にフジテレビにアナウンサーとして入社。バラエティや『プロ野球ニュース』などを担当。2001年に退職後、イギリスに留学して植物療法を学ぶ。アロマセラピストとして6年間の病院勤務を経て、現在は、アロマによる空間演出、デザインを手掛けるほか、福祉、地域振興、企業支援に至るまで幅広く活躍。2018年に、「一般社団法人はっぷ」を立ち上げ、神奈川・葉山で自然と共にある暮らしを通し、地域の繋がりづくりを実践している。2児の母。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/大橋マキ