子どものやけどは、暖房器具の他、ウォーターサーバーや加湿器、空気清浄機など原因は多様化しています。日常に潜む危険や震災時の対応を東京都立小児医療総合センターの坂谷医師に伺いました。

多様化するやけどの原因

近年、子どものやけどの原因は多様化しています。製品評価技術基盤機構によりますと、2016年から2020年の5年間で寄せられた製品事故情報の30例の報告のうち、0〜12歳までの子どものやけど事故の原因は、ウォーターサーバーによるものが最も多く、次いでスチーム式加湿機能がある空気清浄機や加湿器、電気ポットなどが挙げられます。また、スマートフォンやタブレット端末の発火よるやけどや乾電池の液漏れによる化学やけども報告されているそうです。

 

ウォーターサーバーでやけどする子ども
ウォーターサーバーの背面にある高温の温水タンクに触れやけどを負った事例を再現したもの(提供:製品評価技術基盤機構)

冬場は暖房器具を使用したり温かいものを摂取したりする機会が増え、子どもがやけどをする危険性が高くなります。万が一の際にどんなことに気をつけたら良いのか、東京都立小児総合医療センターで小児救急の対応にあたる坂谷真菜医師にお話を伺いました。

 

「当院を受診するお子さんのやけどの原因は様々ですが、コーヒーやカップ麺などの熱い飲食物をこぼしたり、熱湯の入った電気ケトルを倒したりなどが多いです。手が届かない場所に置いたつもりでも、垂れているコードやテーブルクロスを引っ張って倒してしまったり、急につかまりだちができて届くようになったりすることもあります。また、ヘアアイロンは180度など、お湯より高温の設定になるため、狭い範囲のやけどであっても傷が深くなる傾向があります」

もしもの時は「服は脱がさずまずは冷やす」

家庭で子どもがやけどをした際の一般的な対応について、坂谷医師は「冷やす」ことを優先してほしいと話します。

 

「やけどをした際は、氷ではなく流水で冷やしてください。服を着ている部分でしたら皮膚が剥がれないように服の上から20分ほど冷やしていただいて、何も塗らずに医療機関を受診してください。

 

皮膚が剥がれてしまうと水分が失われますし、もろくなった皮膚は感染源になりうるので医療機関で取り除く必要があります。冷却シートや湿布は物理的には冷えません。皮膚を痛める危険性もあるので消毒液もやけどの手当てには使用しないでください」

 

子どもの手
やけどをした箇所を流水で冷やすことが最優先(画像:Pixta)

自分で症状をうまく伝えられない、小さいお子さんのやけどは基本的に医療機関を受診してほしいとのことですが、救急車を呼ぶかどうかはやけどを負った部位や範囲によるといいます。

 

「救急車を絶対に呼んでいただきたいのは、やけどの範囲が体の10%、目安としてお子さんの手のひら10枚分に範囲が及ぶ場合です。また、顔や首など、喉に近い場所のやけどは、範囲が狭くても緊急度が高いです。喉の奥や空気の通り道がやけどをして腫れてしまうと、息ができなくなってしまうため、人工呼吸が必要となることもあります。夜間にやけどをした場合に、翌日など通常の診療時間帯に受診してもいいのは、水ぶくれにもならない小さな範囲のやけどのみです」

 

坂谷医師によると、子どもがやけどを負ったあとに注意して観察してほしい箇所がいくつかあるといいます。

 

「声がかれたり、ゼーゼーしたりするとき、呼吸が早くなったり唇が白くなっている場合は、息がしづらくて酸素がたりていない可能性があります。手足や体が冷たくなって脈が早いとき、ぐったりしていたりミルクやご飯をとらなくなったりする場合は、全身や脳の血の巡りが悪いサインかもしれません。また、全身症状として熱が出て、やけどの周りの皮膚が赤いというのは感染症の可能性がありますので注意してください」

 

やけどを負ったあとの経過観察中に気をつけるべきこと(提供:坂谷医師)

災害時でも「少量の水で冷却・洗浄を」

元旦に発生した能登半島地震のような災害時にやけどをした場合の対応はどうしたらいいのでしょうか。

 

「とても難しいのですが、断水時も、給水情報を調べて、水が使用できる場所に移動してもらう必要があります。水が確保できても水の節約をしなくてはならない時は、まず少量の水をタオルやガーゼに含ませて患部の冷却・洗浄をして、その後なるべく患部が汚れないようにしていただくことも大切です。

 

赤ちゃんが口周りにやけどをした場合は患部に食べ物やよだれがかからないように保護フィルムを貼ったり、ワセリンなどの軟膏を塗ってあげたりしてください。太ももなどの、おむつに近い場所のやけどの場合は、排泄のたびに患部が汚れてしまうのを防ぐために、ガーゼなどの上から防水テープを貼っていただくといいと思います。こういった処置をすることで、物資も限られる中でガーゼなどを変える頻度は下げられると思います。家庭での、いざという時のための備えとして、傷の保護シートなどを用意しておくのもいいと思います」

 

坂谷医師は、子どものやけどが重症化しやすい危険性についてこう話します。

 

「やけどの深さは、“接触したものの温度”ד接触した時間”と関係しています。温度が高くなくても、接触した時間が長ければ深いやけどになることもあります。特に子どもは皮膚が薄いので深い範囲までやけどが及びやすいです。また、大人と比較して体重あたりの体の表面積が大きいので脱水症状が起きやすく、全身の血の巡りに影響してショック状態になると、命に関わる場合もあります。

 

寝ている子ども
子どもの薄い皮膚はダメージを受けやすい(画像:PIXTA)

また、子どもは自分で危険が予測できないため、生活に潜む様々な要因でやけどをしてしまいます。顔にお湯がかかったり、熱いものを飲んだり、火事の際に煙を吸って喉にやけどをすると、かなり短い時間で窒息してしまうこともあり、大変危険です。

 

子どもに限らず、皮膚は体のバリアの役割を最初に果たすものなのですが、やけどをすることでバリア機能が破綻した状態になってしまうため、皮膚からバイ菌が血液に入って全身に広がる感染症(敗血症)を引き起こす可能性もあります。やけどで入院して治療中のお子さんでも感染する場合もあります。

 

地域の環境や状況によって医療機関へのアクセスに違いはあると思いますが、基本的にお子さんがやけどをした場合はすみやかに受診していただけたらと思います」

 

取材・文/内橋明日香