「おかしいな〜」貧血気味で病院行ったら、「異常なし」と言われたのに…。なんだか疲れたり集中がすぐ切れたり。そんな症状が続くなら「隠れ貧血」の可能性も。なぜ?どうすれば?医師の工藤あきさんに聞きました。
健康診断では見抜けない「隠れ貧血」の正体
── 最近、すぐに疲れてしまったり集中力が続かなかったりと、なんとなく体調が悪い気がします。
工藤先生: 鉄分はしっかり摂取できていますか?不調の原因はいろいろと考えられるので特定はできませんが、可能性のひとつとして鉄不足による貧血になっているのかもしれません。
── たしかに症状は貧血っぽいのですが、おそらく違うと思います。というのも、先日の健康診断の血液検査では数値の異常もなかったので。
工藤先生:「隠れ貧血」といって、一般的に健康診断で行われる血液検査ではわからない場合もあるんです。
血液の赤血球にあるヘモグロビンが基準値以下になった状態を貧血といいますが、隠れ貧血は「ヘモグロビンの値は正常」です。その代わり、体内のフェリチンが不足しています。
── フェリチンとは、いったいなんですか?
工藤先生: フェリチンは、貯蔵鉄を蓄えておく入れ物のようなものです。体内のおもな鉄分は、ヘモグロビンを構成する機能鉄(ヘモグロビン鉄)と、機能鉄が不足したときに利用される貯蔵鉄(フェリチン鉄)などに分かれています。
通常は、機能鉄を使って酸素を全身に運ぶなどの役割が行われますが、機能鉄が不足すると、ストックしていた貯蔵鉄が使われます。
鉄分をお金として例えると、「機能鉄」を財布のお金、「貯蔵鉄」を銀行口座の預金のような関係といえば、イメージしやすいかもしれません。
ふだんは財布のお金を使って、足りなくなれば銀行から預金を引き出して財布に入れます。しかし、お金(鉄分)を十分に増やすことができなければ、どんどん預金は減り続ける状態(隠れ貧血)に陥ります。
隠れ貧血が進行すると、最終的には預金(貯蔵鉄)がなくなり、財布のお金(機能鉄)だけでやりくりしなければならず、それも足りなくなって深刻な金欠(貧血)になってしまうのです。
隠れ貧血かも?と疑ったほうがいいケースとは
── 隠れ貧血が一般的な血液検査ではわからないのはどうしてでしょうか?
工藤先生: 貯蔵鉄の量は、血液中の血清フェリチンという値を見て判断しますが、血清フェリチンは一般的な血液検査の項目には含まれていないからです。
一般的な血液検査では、貧血かどうかはヘモグロビンの値で判定されるのですが、これでは機能鉄の量しかわからないのです。
血清フェリチンの量を調べる血液検査は保険適用外で、基本的には医師が診断して検査が必要だと判断しなければ検査できません。いろいろな治療を試しても改善しない場合に、第2、第3の手として行われる検査のため、原因を突き止められたとしても、時間がかかるケースも多いです。
── つまり、預金額は見ないで、財布にあるお金の量だけを見て、お金があるかどうかが判断されているというわけですね。
工藤先生: 隠れ貧血の状態でも、貧血に似たような症状は徐々に出てきます。めまいや立ちくらみ、疲れやすい、頭痛や肩こり、眠気、寒気、気持ちの落ち込みなどですね。
月経による出血で慢性的な鉄分不足になりやすいことから、とくに女性は貧血の方が多く、日本の女性の4人に1人が貧血(鉄欠乏性貧血)、2人に1人が隠れ貧血とされています(※)。
しかし、体内の鉄分は徐々に不足していくため、自覚しにくいのが問題です。なんだかダルいけれど、血液検査で異常もないし、「気のせいかもしれない」と放置する人も少なくありません。
また、病院へ行っても血液検査で異常が見られず、「精神的に疲れているのでは?」などの根本の原因がわからない診断のまま長く薬を飲み続けることも。実際は薬を飲まなくても、鉄分を補給すれば解決するケースもあると考えられます。
短期間で鉄分を体内にためるのが難しいなかで秘策はある?
── 隠れ貧血にならないためには、どうすればいいのでしょうか?
工藤先生: 毎日の食事から、鉄分補給を心がけることが大切です。鉄分を多く含む食品としては、代表的なのは、赤身肉やレバーです。貧血気味の人はお肉が苦手な人も多いので、赤身が豊富なマグロもいいですね。
魚介類であれば、アサリも鉄分豊富な食材です。水煮缶なら調理も簡単ですし、30gほどで1日の摂取量がまかなえます。
また、手軽さでいえばゴマもおすすめです。炒め物やスープにトッピングするなど、いろいろな料理に取り入れながら鉄分を補給できます。
── 鉄分不足が回復するまでは、どれくらいかかるのでしょうか?
工藤先生: 隠れ貧血から回復するには、貯蔵鉄を増やす必要があります。しかし、摂取した鉄分は、まずは機能鉄にまわされて日々の健康維持に使用されるため、余った鉄分だけが貯蔵鉄にストックされます。
鉄分は一度に多く摂取しても汗や尿などで排出されるため、短期間では体内にためにくく、日々、摂取していくことが大切です。3、4か月程度すれば症状も回復していくのではないかと思います。
症状が多岐にわたるために、原因が特定されにくいのが隠れ貧血です。不調を感じたら病院を受診することも大切ですが、栄養面に気をつけるだけで体調が改善することもあります。まずは日々の食生活を見直してみてはいかがでしょうか。
PROFILE 工藤あきさん
消化器内科医・美腸・美肌研究科。一般内科医として地域医療に貢献する傍ら、腸活×菌活を活かした美肌・エイジングケアにも尽力。テレビ、本、雑誌などメディア出演多数。2児の母。
取材・文/大浦綾子
(※)参考:日本鉄バイオサイエンス学会「鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の予防と治療のための指針」(響文社・2004年)