現在、2つのドラマに出演中など、人気女優の松下由樹さん。デビュー後、嫌われる役柄が続いたことで傷ついた経験があるそうです。大きな転機となったきっかけなどを伺いました。(全3回中の1回)

学園ドラマで「あっち(テレビ)の中に入りたい」

── 松下さんは、最初から女優を目指されたそうですね。きっかけはあるのですか?

 

松下さん:中学生の頃、再放送だと思うのですが、『ゆうひが丘の総理大臣』という学園ドラマを観て、「あっち(テレビ)の中に入りたい」と思うようになったんです。ドラマの世界がリアルに感じられて、「演じている人たちと一緒にお芝居してみたい」と思っていました。

 

── どんな中学生活を送られていたのですか?部活は入っていましたか?

 

松下さん:いえ、帰宅部だったんです(笑)。自分では内弁慶な性格だと思っていたのですが、人前で表現する仕事に憧れていたので、違っていたのかもしれないですね(笑)。

 

── どのような経緯で女優の道に進まれたのですか?

 

松下さん:中学3年の夏休みに映画のオーディションを受けて、合格したんです。名古屋が舞台の映画だったのですが、合格して、高校1年のときに愛知県から上京しました。

 

デビュー当時の松下由樹さん
15歳のとき映画『アイコ十六歳』で女優デビューした松下さん。健康的ではじけるような笑顔がとても印象的

── 映画『アイコ十六歳』でデビュー後、ドラマに出演しながらダンスも披露されていました。

 

松下さん:ダンスは、事務所から「身長が高いから、ダンスを習ったほうがもっと演技の幅が広がる」と勧められたんです。私も、芝居の表現のひとつになりそうだと思って習い始めました。

 

それに、ダンスはとても好きだったので、ジャズダンス、クラシックバレエ、タップダンスを習って、NHKの『ヤングスタジオ101』という音楽番組で踊るようになりました。

役柄の影響で厳しい言葉をかけられることも

──『ヤングスタジオ101』にご出演後は、ドラマや映画などたくさん出演されてきました。

 

松下さん:20歳で初めてドラマの主演をまかせていただいたのですが、当時はもっと若い年齢で主役を張るのが主流だったので、遅咲きだったと思います。

 

また、20代前半の頃は自分とのギャップが大きい役柄を演じることが多くて、一般の方から厳しい言葉をかけられることもありました。ドラマや役柄の影響力って大きいんだなあと思いましたね。

 

──「悪女」と言われるような役も演じられていたと思います。

 

松下さん:「話題にしてもらえることは役者冥利に尽きる」と自分に言い聞かせてはいましたが、傷つくこともありました。通りがかりに「生意気」みたいに言われたりして、役柄のイメージが先行しているのを感じたり。でも、そういった経験も今ではよかったと思っています。

 

松下由樹さん
20代で初主演したドラマ『オイシーのが好き!』から数々のドラマ・映画などに出演してきた

── なぜ「よかった」のでしょう?

 

松下さん:それだけドラマをしっかり観てもらえていたということだと思うんです。今でも、強い印象を持ってもらえる作品を残せたんだなとあらためて感じられるので、嫌われるかどうかにこだわるんじゃなくて、自分に与えられた役に没頭できてよかったと思っています。

『ナースのお仕事』が転機。嫌われ役の印象を変えた

── いわゆる「嫌われ役」のイメージが変わるような転機はありましたか?

 

松下さん:ドラマ『ナースのお仕事』が新しい印象をつくってくれたように思います。それまでは、「松下由樹が出てくると何か起こる」って言われていたんですけど(笑)。

 

──『ナースのお仕事』のエンディングのダンス、私もテレビの前で踊っていました(笑)。

 

松下さん:ありがとうございます(笑)。ドラマでもダンスシーンがあるような作品に関わるようになり、先輩・後輩のコンビで演技をすることが増えて。私もコミカルな芝居が好きだったので、少しずつ役を通してみなさんの私に対する印象が変わっていくのを感じました。

 

松下由樹さん
「コミカルな芝居も好き」と話す松下さん

── とはいえ、シリアスで難しい役など多岐にわたる役柄を演じていらっしゃる印象があります。

 

松下さん:ありがたいことに、自分でも、偏らずに演じさせてもらっているほうだと思っています。

 

今まで大事にしてきたのは、作品にある役名をもらった時点で、「名前を持っているひとりの人物」だと意識することです。どんな人なのか、仕事をしているならその職業の技術的な部分も大事にして。それに、その人が日々どんな生活を送っているのか、一日のスケジュール、気にかけることなど、画面には映らない部分も感じ取りながら演じることで、役柄の仕事や生活など奥行きを深めていけるのかなと思っています。

 

── すごく丁寧に役柄と向き合われているんですね。

 

松下さん:観ていただいた方に、「この仕事いいな」と憧れてもらいたいんです。自分も、台本を読んだときに「こういう仕事があるんだ」「こういうふうになりたい」と思うし、観る方にもそう思ってもらいたい。作品の中に自分がちゃんと馴染みたいと意識してきたことは、大事にしてきてよかったことのひとつかもしれません。

ロールモデルはない。「自分でしかない」から

── 松下さん自身にとって、憧れの存在というのは?

 

松下さん:そういう存在は、考えないようにしているんです。

 

松下由樹さん
2004年、松下さんはドラマ『大奥~第一章~』で春日局役を演じた。2011年には舞台化され、近藤正臣さん(将軍・徳川家康役)と共演

── それはなぜですか?

 

松下さん:自分との比較になるし、「届いたところでどうなる?」とも思うし…。結局「自分は自分でしかない」と思うんです。

 

もちろん、「素敵な役者さんだな」「さすが先輩だな」と思うことは多いです。例えば、「よーい!スタート!」と撮影が始まった瞬間に、空気感を一瞬にしてつくり上げる方と出会ったりすると、出会えてよかったと思うし、「やっぱりこの空気感、世界観が好きなんだな」と思えます。

 

そう思える経験を積ませてもらうことで、自分自身の成長も感じられることがすごくありがたいです。

今でも大事にしている大御所俳優からのひと言

── お芝居の仕事を通じて、「自分ってこれが得意なんだ」と気づけたようなエピソードはありますか? 

 

松下さん:いろいろなふり幅の役を演じさせていただくなかで、「得意になっていった」と思えるのは、集中力を高めることでしょうか。役に込める気持ちの持ち方などはすべて集中力からつながるものだと思うんです。

 

でも以前、舞台『大奥』の初日に、大先輩の近藤正臣さんから「夢中になりすぎるなよ」って声をかけていただいて。その言葉を今でもふと思い浮かべることがあります。

 

私も経験を積みながら身に染みて感じているのですが、無我夢中になってしまうと、自分のことしか見えなくなったり、自分の呼吸すら忘れてしまったりして、いい芝居にはならないんです。特に舞台は、時代の空気感ひとつ取っても、自分のエネルギーを思いきり発信しながらつくっていくことが大事で。当時はそのプレッシャーなど、無意識にいろいろ気負ってしまっていたと思うんです。

 

でも、あのときは、近藤さんの言葉で気持ちが楽になって、助けられました。その後は、言葉の意味をかみしめながら、集中力をすごく大事にするようになったと思います。

 

PROFILE 松下由樹さん

女優。愛知県出身。15歳で映画『アイコ十六歳』のオーディションに合格し、女優デビュー。以後、数々のドラマや映画、舞台などで活躍の場を広げる。現在は『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』『恋する警護24時』に出演中。6月2日(日)~6月27日(木)まで、熱海五郎一座の舞台『スマイルフォーエバー~ちょいワル淑女と愛の魔法~』に出演予定。

 

取材・文/高梨真紀 画像提供/イエスコレクティッド