ジブリの鈴木敏夫プロデューサーを父に持つ鈴木麻実子さんにジブリ映画『君たちはどう生きるか』の魅力やおじいちゃんとして息子に接する父親の姿についてお話を伺いました。(全3回の3回)

息子は3歳で映画館デビュー

── 息子さんは12歳になられたそうですね。反抗期と言われる時期もそろそろやってきそうですが、いかがですか。

 

鈴木さん:反抗してくることもありますけど、反抗期というほどではないです。一緒にオーディション番組を観て応援することもありますし、息子は恋愛ものも大好きで、韓国ドラマや映画も観ます。3歳頃から映画館に連れて行っていますが、月に何回か観に行くこともありました。

 

鈴木敏夫さんとお孫さん
憎まれ口を言い合うも仲が良い鈴木敏夫Pと麻実子さんの息子

── どんな映画を観るんですか。

 

鈴木さん:それこそ最初は、息子が集中できるもの、ドラえもんやアンパンマンから始めて、 だんだん他の映画も観るようになったと思います。周りの子よりはデビューが早かったと思います。

 

── 映画は上映時間も長いですよね。

 

鈴木さん:小さい頃から家でも一緒に観ていたのは大きいと思います。やっぱり環境はありますよね。私の祖父母も映画好きで、小さい頃はおばあちゃんが好きな洋画を一緒に観ていました。『カサブランカ』とか、昔の作品もそこで知りましたし、父の影響で任侠映画や『男はつらいよ』シリーズも観ていました。アルフレッド・ヒッチコック監督の作品も小学生の頃に見ていたのですが、夢に出てきて怖かった思い出があります。

 

── 今、息子さんと父親と3世代で観ることはありますか。

 

鈴木さん:映画はあります。そして、観終わったら必ず「どうだった?」と感想を言い合っています。

 

── 映画は家族のコミュニケーションのひとつのようですね。

 

鈴木さん:そうですね。私もオンラインサロンを始めるまで、父とはほぼ映画の話しかしてきませんでした。食事中にも「そういえば、あの映画観た?」とか、LINEでも「この映画、面白いよ」とか、 本当に映画の話ばかり。共通の話題が映画でした。 私も映画からいろいろなことを教わってきたと思います。

 

── ご自身が育った環境が、息子さんの子育てに反映されていることはありますか。

 

鈴木さん:父は私の話を聞いて理解してくれたので、私も息子にもそうしてあげようと思っています。厳しくしつけをしている友達もいて、それもいいなって思うんです。でも私自身が、 3回ダメと言っても4回目には「もういいよ」と言っちゃうタイプで。厳しくするのって、親も労力いると思うんです。私はできないから、もうしょうがないなと思って。

 

── 子どもの気持ちに寄り添う育児も大切ですよね。

 

鈴木さん:そのおかげかもしれませんが、息子とはなんでも話せる仲だと思います。

 

── おじいちゃんとして息子さんと接する父親の鈴木敏夫プロデューサーはどんな感じですか。

 

鈴木さん:父は、息子とコミュニケーションをとる時に憎まれ口ばっかり言うんですよ。息子と父の関係はすごく特殊だと思います。父は息子に会った瞬間に、「今日も髪型、変だね」とか。息子も息子で、友達に父を紹介する時は「死んだおじいちゃんです」って。

 

鈴木麻美子さんと息子さん
自宅でのリラックスタイム中に読書をする麻実子さんと息子さん

── お互いに(笑)。

 

鈴木さん:そうなんです。本当、いつもこんな感じなので周りの方からはびっくりされます。父は嬉しそうですけどね。

いつか父と作品作りを

── 先日、ジブリ映画『君たちはどう生きるか』がゴールデングローブ賞のアニメ映画賞を受賞され、来月授賞式が開かれるアカデミー賞にもノミネートされています。

 

鈴木さん:実は私、ジブリ作品をそんなに、すごく好きというわけではなくて。『風立ちぬ』や『コクリコ坂から』など、少し大人っぽい作品は好きなんですけど、それでも1回ずつしか観に行っていないんです。『君たちはどう生きるか』は映画館に5回観に行きました。

 

正直、1回目はまったくわからなかったんですけど、2回目から号泣。観るたびに感情移入する人も変わりますし、絵ばかり見る時もあるのですが、さまざまな要素で感動するこの作品には特別なものを感じています。

 

ゴールデングローブ賞の授賞式もオンラインサロンのメンバーと集まって観ていたんですけど、受賞後に父も来てくれて。正直、これまでジブリ映画の賞に興味はなかったのですが、今回はすごく嬉しかったですし、大好きな作品なのでたくさんの人に観てほしいと思っています。

 

── 『君たちはどう生きるか』は上映前にいっさいプロモーションはありませんでした。それも鈴木敏夫プロデューサーが考えられていたそうですね。

 

鈴木さん: そうなんでしょうけど、でも何を考えていたのか全然知らないんです。宣伝はしないということだけは聞いていましたけど、父に聞いても、「まぁ、なんとなくそうしただけ」とかしか言わなくて。これまで私はそれを全部信じてきたので、父が真剣に仕事しているという実感がなくて。

 

── 努力や苦労している姿を娘に見せないのもかっこいいですね。

 

鈴木さん:恥ずかしいんだと思います。父が実際に働いている姿も見たことなかったので、「本当に父がしているのかな」と若干疑いの目で見ていたところもあります(笑)。オンラインサロンを始めてから父の働きぶりに関して見聞きすることが新鮮です。

 

── これから父親の鈴木敏夫プロデューサーと一緒にしてみたいことはありますか。

 

鈴木さん:一緒に何か残るものを作りたいと思っています。そんなにだいそれたものじゃなくてもいいんですけどね。 オンラインサロンを始める前の父は、何を頼んでも全然してくれないし、サインでさえあまりくれない感じだったんですが、最近は変わってきているので、それに便乗して何かしてみたいなと。今は仕事として一緒にさせてもらっているのですが、父との関係で得るものがたくさんあると感じています。

 

PROFILE 鈴木麻実子さん

1976年、鈴木敏夫プロデューサーの長女として東京で生まれる。様々なアルバイト経験を経て美容サロンのマネジメント業につき、店舗拡大に貢献する。その傍ら映画「耳をすませば」の主題歌「カントリー・ロード」の訳詞、平原綾香「ふたたび」、ゲー厶二ノ国の主題歌「心のかけら」の作詞を手掛ける。現在は1児の母となり、父と娘のオンライサロン「鈴木Pファミリー」を運営する。2023年10月エッセイ集「鈴木家の箱」を発売。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/鈴木麻実子