FC町田ゼルビア・鈴木準弥選手は、サッカースクールのほか、流産や死産、不妊治療、障がいを持つ方、保護犬への支援などを目的とした会社を立ち上げました。起業にはご自身の経験はもとより、死産を経験した幼馴染の妹さんやダウン症のいとこ、愛犬の存在など、さまざまな背景があったようです。設立の経緯と活動内容を伺いました。(全4回中の3回)

妹のようにかわいがっていた幼馴染も死産を経験

── 会社設立の経緯を聞かせてください。

 

鈴木さん:22歳で流産を経験した当時は「自分たちだけがなんで?」という感情を抱いていました。でも、幼馴染でサッカー選手でもある鈴木拳士郎の妹さん、僕も本当の妹のようにかわいがってたんですが、彼女も1人目は無事に出産したものの、2人目を出産予定日の1週間前ぐらいに死産してしまって。お腹を痛めて亡くなってる子を出産したという話を聞いて、すごくびっくりしたんです。

 

拳士郎の妹は保育士だったんで、お腹が大きくなるまで働いて、産休をもらって出産に臨んだんです。子どもたちも保護者もお腹が大きい姿を見てたから、死産のあと保育園へ行ったときに「先生、赤ちゃんどうだった?」って子どもや保護者から聞かれたけど、それが「めちゃくちゃつらかった」と言っていて。死産した人は悲しい経験を経て、なおかつ社会に復帰するときにまた壁があるんだということを、その話で初めて知りました。

 

不妊に関しても、結婚したら当たり前のように子どもができるものだと思っていたんです。でも、奥さんのいとこが不妊治療をしたけど授からず、旦那さんと2人で生きていくことにしたって聞いて。欲しくてもできない人がいるって知ったときに、もしかしたら僕も、何げないひと言で人を傷つけてきた可能性があったのかなって。結婚して数年経って子どもがいない人たちに「子どもはー?」って深く考えずに聞いていたんだとしたら、かなりの言葉だったのかもしれないなと思い返すようになりました。

 

奥さんのいとこが子どもを授からずに旦那さんと2人で生きていくことを決めたり、サッカー選手で不妊治療している人がいたり、幼馴染の妹が死産をしたり、僕たちが流産を経験したり、僕のいとこがダウン症だったりと、身近でもこんなことが起きてるんだったら世の中ではもっとたくさんのことが起きてるんだろうなと。同じ境遇の人たちが、思いや経験を共有できる場を作れたらと思って、地元の静岡県沼津市に会社を設立しました。

 

── 会社では、支援活動のほか、サッカースクールや保護犬に関する活動など複数の事業を展開していますが、現在の活動内容と今後のプランについて教えてください。

 

鈴木さん:支援活動に関しては、Xで僕の流産について伝えることに加えて、流産や死産など、子どもにまつわる経験をしている人たちのコミュニティ作りができればと思っています。でも、そのコミュニティで何をすべきか、集まった人たちで何ができるか、自分はそこでどんなアクションを取ることが心の拠り所になるのかっていうのはなかなか難しいので、もっと精査したいです。

 

犬に関しては、物心がついたときから生活の中にいて、家族のような存在で。虐待や多頭飼育など痛ましい状況が多いので、犬が伸び伸びと走れるドッグランを作れたらと考えています。FC町田ゼルビアの本拠地には、芸能人の森泉さんも入っている「小さな命を守る会」という保護団体があって。スタッフの方とお会いして「一緒に何かできればいいですね」って話をしたので、今後はクラブにも提案していければと思っています。SNSを通じて保護団体が抱えている犬を紹介し、フォロワーの皆さんとマッチングできるような形にもしていきたいですね。

 

あとは、複数の企業から協賛をいただくことで参加費を無料にして、地元でスポーツイベントを開催しました。スポーツの体験を通して、子どもたちが笑顔になることを目指しています。子どもたちには命の尊さや夢を持つことの大切さも伝えたくて、母校を含めて数か所の中学校で「夢授業」を行っています。

 

スポーツイベント開催の報告で頼重秀一・沼津市長に表敬訪問も

「もっと優しい世の中になるように」母校で講演も

── 「夢授業」ではどんなお話をされましたか?

 

鈴木さん:流産を経験したことで、自分が無事に産まれてきて、今まで健康に生きて好きなサッカーをやってこられたことは、本当に幸せで奇跡なんだと思ったんです。もし僕の1人目の子が産まれてたら、もう5歳。その子はきっとやりたいことをやっていたはずなのに、できなかった。こういうことは世の中にたくさんあるはずです。仮に今やりたいことができていなかったとしても「生きていることは奇跡なんだ」と伝えたいし、流産や死産、不妊などがあるということも知っておいてほしい。

 

現実を知っている人が子どもがいない人に「子ども、どうなの?」って聞くことと、知らずに聞くことは全然違うと思うんです。いろんなことがあるなかで、自分たちは無事に産まれてきたんだと子どもたちが気づいてくれれば、彼らが成長したときに、もっと優しくて、もっと配慮のあるあったかい世の中になるんじゃないかなと。

 

同時に、無事に産まれてきたからこそ夢を持てる権利があるっていうことも、僕の選手人生で感じてきたことを含めて話しています。

 

── 理想の社長像やキャプテンシーがあれば聞かせてください。

 

鈴木さん:僕はあんまり口数が多くないので、基本的には背中と態度で示すタイプかもしれないです。

 

でも、大学の部活でキャプテンをしたときに、ミーティングで指摘されたことがあって。約80人の部員のうち、僕がいたAチームには20人ぐらいいたんですけど、「Aチームだけじゃなくて、もっと全員とコミュニケーションを取ったほうがいい。じゃないと話が響かないよ」や「BチームやCチームの練習にも出て、後輩たちへ早稲田のサッカーを伝えた方がいいんじゃないか」って言われたんです。

 

当時の僕はAチームでの活動に精一杯で余裕がなかったんですけど、でもそのスタンスだと、今後会社で働いてくれる人が例えば100人とかになったときには難しいと思うので。背中で示すという形は変わらずとも、最後はすべての責任を自分が取ることが理想だし、かっこいいなと思いますね。

 

PROFILE 鈴木準弥さん

1996年1月生まれ。早稲田大学卒業後、ドイツ3部VfRアーレンに入団し、藤枝MYFC、ブラウブリッツ秋田、FC東京を経て2023年7月、FC町田ゼルビアに完全移籍した。妻、3歳と1歳の女の子、愛犬と暮らしている。地元・静岡県沼津市に「株式会社 準弥」を設立し、社長としても活動中。

 

取材・文/長田莉沙 写真提供/鈴木準弥、株式会社ゼルビア