いじめで苦しんでいる人や、いじめられている友だちを助けられずに悩んでいる人が、気軽に相談できる場所をつくりたい──。そう語るのは、現在33の自治体と約1300の学校 に採用されているいじめ通報アプリ「STANDBY」の開発者・谷山大三郎さん。誕生の背景には、ご自身が受けたいじめの経験がありました。(全2回目の1回)

「谷山に対するいじめはひどいぞ」気づいてもらえたことが嬉しかった

──「STANDBY」のサービスを始めたきっかけを教えていただけますか。

 

谷山さん:私自身が、過去にいじめられた経験から、同じように苦しんでいる子どもたちを救いたいと考えたときに、匿名でいじめや悩みを伝えられる方法がベストだと信じてサービスを立ち上げました。

 

私は、富山県滑川市の小さな町で生まれて、小学校、中学校は公立の学校に進学しました。子どもの頃は、猫背でおしゃべりもそんなに得意ではなかったので、周りからよくからかわれていたんです。

 

それが段々とエスカレートしていって、5年生の頃から本格的にいじめを受けるようになりました。廊下を歩いていると、急にクラスの男子から背中を蹴られることもあって。「学校に行くのが嫌だな、怖いな…」とびくびくしながら過ごしていました。

 

小学生時代の谷山さん
小学生時代の谷山さん

ただ、いじめられているとき、自分から助けを求めることは難しいんです。私は、両親が好きだったので、二人に打ち明けて困らせたくなかったし、話がおおごとになるのも避けたかった。だから、自分が我慢すればいいと考えていました。

 

転機は突然、訪れました。当時、いじめを苦に小学生が自殺したというニュースが話題になって。担任の先生が、クラスのみんなに向かって「谷山に対するいじめはひどいぞ。このクラスでは、いじめを絶対になくす」と強く言ってくれたのです。

 

内心では「このあと、もっといじめがひどくなったらどうしよう」という思いもありましたが、それ以上に、私がSOSを出せない状況でも、先生が気づいてくれて、助けてくれたことが嬉しかった。その経験が私の中に深く残りました。

 

── その後、クラスの様子に変化はありましたか。

 

谷山さん:学校でのいじめはなくなり、気持ち的にもずいぶん楽になりました。しかし、中学校では3つの小学校が集まるため、同じ小学校から来た同級生もおり、完全にいじめがなくなることはありませんでした。

 

中学生になっても完全にいじめがなくなることはなかった
中学生になっても完全にいじめがなくなることはなかった

ただ、自分がいじめられないように気にかけてくれた先生がいたので、前を向いて生きていこうと思えましたね。

 

たとえば、クラスでいじめを受けている友人がいた場合、これまで「助けたい」と思っても、やり返されることが怖くて傍観するしかできなかった人も多いと思います。その気持ちもよくわかるんです。

 

ただ、「友人を助けてあげたい」という気持ちがあれば、それを後押しする環境をつくりたいと思い、匿名でいじめの報告や相談ができるプラットフォームを立ち上げたのです。

「いじめを止める」から「すべての子どもたちに寄り添う」へ

── それでアプリを開発されたのですね。

 

谷山さん:実は、最初に取り組んだのは、アメリカで生まれた「STOPit」というアプリの日本版の代理店事業からなんです。

 

「STOPit」とは、私が2015年にリクルートを退社して、千葉大学発のNPO法人で働いていたとき、海外の教育システムを調べているなかで出会いました。

 

匿名でいじめを通報できるという画期的な機能に感銘を受けて、「これなら、いじめで悩んでいる子どもたちを救えるかもしれない」と。

 

そこで英語が得意な友人の協力を得て、アメリカの開発者とコンタクトを取り、その後、日本語版の「STOPit」を開発する機会を得たのです。

 

そして、2022年4月、「STOPit」から「STANDBY」へとブランドを一新し、「STOPit」の「いじめを止める」というコンセプトから、「STANDBY」では、いじめに限らず、すべての子どもたちに寄り添いたいというコンセプトを掲げました。

 

それを機に、見た目も柔らかなデザインと色合いに変更したんです。

 

「STANDBY」のメイン画面
「STANDBY」のメイン画面

── 実際、こちらのアプリはどのように使うのですか?

 

谷山さん:「STANDBY」は、子どもたちがスマホやタブレットから匿名のまま教育委員会や相談員、自治体に相談内容を送信できるようになっています。その際、画像や動画の添付も可能です。

 

基本的には、相談員と子どもがチャット形式でやり取りをしますが、子どもが「学校に情報を伝えてほしい」という意思表示があれば、学校と連携して対応していきます。

 

当アプリは、いじめの相談に限らずに、家庭の問題や虐待なども相談でき、すぐにでも支援が必要な場合は、児童相談所と連携して速やかに対応していく仕組みになっています。

子どもの悩みを社会全体で解決していきたい

── こうした活動は、谷山さん自身の過去のつらい経験が活かされているわけですね。

 

谷山さん:そうですね。ただし、自治体の方から「子どもたちからこのようないじめの相談が寄せられています」と聞くと、とても心が痛みますし、昔を思い出して落ち込むこともあります。私自身、「過去にいじめの経験があったからよかった」とは決して思いません。

 

それでも、月並みの言葉ですが、私が今行っている活動によって、救われている子どもがいる。そう信じることが、私が活動を続けるうえで力になっています。

 

いじめ通報アプリ「STANDBY」の開発者・谷山大三郎さん
いじめ通報アプリ「STANDBY」の開発者・谷山大三郎さん

── 現在の活動を通じて、どのような社会をつくっていきたいと思いますか。

 

谷山さん:子どもたちに寄り添う社会を目指していきたいです。学校も教育委員会も自治体も、子どもたちが深刻な問題に直面する前に、早めに対応したいと思っているんです。そのため、私たちは子どもたちに対し、「どこに相談してもいいから、とにかくひとりで悩みを抱え込まないで」と、そう願っています。

 

これまで学校で起きたいじめは、多くの場合、学校の先生が対応してきました。しかし、深刻ないじめや家庭の問題、虐待のようなケースは、専門家による対応のほうが、子どもにとっても、先生にとってもいいはず。

 

このように役割を分担することで、学校の先生は子どもたちとの時間を増やしたり、面白くて学びのある授業に専念できますよね。

 

私たちは、それぞれの専門性を活かしながら、子どもたちの悩みを共に解決し、サポートしていける社会を築いていけたらと思います。

 

PROFILE 谷山大三郎さん

1982年生まれ。株式会社リクルートを経て、NPO法人企業教育研究会の職員として教育の現場に携わる。自身の経験からいじめ対策に本腰を入れたいという願いのもと、NPO在職中にスタンドバイ株式会社を起業。千葉大学教育学部附属教員養成開発センター特別研究員、一般社団法人standbyyou代表理事。

画像提供/スタンドバイ