「食料は?」「防寒具は…」と、新年早々に能登半島での大地震があったことで、改めて防災について意識や準備をした人もいるでしょう。そうしたなか、「じつはスマホも防災では重宝するアイテム」と、現役の防災士はいいます。

 

スマホでできる防災テクニック その1(家庭ごとの備蓄量がわかる)

家族に必要な食料や日常品の備蓄量を教えてくれる

ゲリラ豪雨など、最近は突発的な水災害が多く発生しています。また、首都直下型地震も今後30年以内に、70%の確率で起こると予想されており、災害への備えは欠かせません。

 

そんな災害時に役立つのがスマートフォン。じつは家族の安否確認や災害時や生活再建に必要になるお金の心配もケアできるんです。

「何をいくつ用意しておくか」細かい備蓄量までを計算

「防災」と聞くと、水や食料を備蓄したり、持ち出し袋を用意したりすることをイメージする人がいます。ただ、まずは自宅の災害リスクを把握し、予想される災害に適した準備が何かを知ることが大切です。

 

災害リスクは各市町村が制作した「地震被害想定地図」、「風水害ハザードマップ」などで確認できます。そのほかに、以下のような便利なウェブサービスもあります。

 

【地震10秒診断】

一般社団法人・日本損害保険協会と国立研究開発法人・防災科学技術研究所が提供する自宅の被害想定サービス。基本はスマホの位置情報で、震度別の発生可能性、震度や想定される復旧スピードに応じた電気・ガス・水道の停止期間、家の構造別の火災・倒壊確率などをシュミレーションして診断結果を提示。郵便番号や自宅住所でも診断は可能。

 

【東京備蓄ナビ】

家族構成にあわせた備蓄品目と数量を計算してくれる、東京都が提供するサービス。子どもの年齢別、世帯における高齢者の有無、性別などを考慮した計算結果が出る。    

災害通知アプリを自分向けにカスタマイズできる

一般的に災害通知アプリは、地震速報やゲリラ豪雨予想、自治体からの避難情報を知らせてくれます。自分に必要な情報をタイムリーに入手できる設定しましょう。たとえば、災害レベルとしては低い「1時間に10ミリの雨」を通知する設定にしてしまうと、ひんぱんに通知されてしまうことがあります。

 

そこで、「1時間に30ミリの雨」以上で通知する設定にしておくなどが考えられます(その地域の1日の降水量が年間降水量の5〜10%を超えると災害が発生しやすくなります。たとえば、東京都世田谷区では1時間に30ミリ以上の雨が3時間続くと災害が起きやすい状態に)。

 

また、いざというときのためにも「現在地」にあわせた通知が来る設定にしておくことも重要。外出先や旅先でいつ地震や大雨にあうかもしれません。GPS機能をオンにして、自分のいる場所で通知を受け取りたいですね。

ふだんからスマホでしておくと災害時に役立つこと

これまでの災害では、免許証や通帳をとりに帰って逃げ遅れるような事例がありました。原本を紛失しても、災害が理由であればなんらかの手段でカバーできることが多いのですが、不便を少しでもさけるために、重要書類は撮影・保存しておきましょう。

 

また、スマートフォン自体が使えなかったり、紛失する可能性もあるため、撮影したデータをメールに添付して家族に送る、クラウドに保存するなど、バックアップをとると安心です。基本的には、写真付き本人確認書類、健康保険証、銀行関連で重宝します。扱う内容が個人情報のため、リスクと利便性を検討したうえで行ってください。

通帳やカードをなくてもスマホ保存で預金を引き出せる

災害時、キャッシュカードや預金通帳、印鑑がなくても、本人であることを確認できる資料(運転免許証、健康保険証、パスポート、自治体の発行する罹災証明書)があれば、預金を引き出せます。

 

これらの重要書類を災害により持ち出せなかったり、すぐ入手できなかったりした場合は、氏名と住所の申告で金融機関は払い戻し可能とされています。払戻金額には上限があり、これまでゆうちょ銀行では20万円まで、銀行では10万円程度まで実施されたことがあります。

 

結論としては本人確認書類がなくても引き出せますが、速やかな手続きのためにも、キャッシュカードや上記の本人確認書類をスマホで撮影保存しておくとよいでしょう。

病気の情報を平時にスマホで撮影・保存しておく

持病のある人はお薬手帳の撮影保存も忘れずに。災害時も、ふだんのお薬を飲み続けられれば安心ですね。乳幼児の場合は体重別に薬の処方量が変化するため、最新のページを撮影。母子手帳はその後も長く必要になるため、出生の記録・予防接種の記録の撮影保存をおすすめします。

スマホで簡単に「安否確認」できる2つの方法

総務省によると、大規模災害時は救助や復旧に関わる通話を優先させるため、被災地では90%以上の回線で規制が行われることがあります。インターネット回線も制限を受ける可能性はありますが、通話アプリやSNSが使えれば、通話回線だけよりもつながる可能性が広がります。

電話がつながらないときに役立つ「災害伝言ダイヤル171」

災害伝言ダイヤル171は、災害により被災地への通信が増加し、つながりにくい状況になった場合に提供が開始される声の伝言板です(NTTが管理)。私はいままで100回以上、防災講座を開いて皆さんにたずねてきましたが、171の機能をくわしく知る人は毎回1割以下でした。

 

災害伝言ダイヤル171は、基本になる電話番号1回線(実家の固定電話番号や、母親の携帯電話番号など)を皆で決めておいて、その電話番号に「自分から他人へのメッセージを録音」や「他人からのメッセージをきく」ことができる仕組みです。

 

仕組みはシンプルですが、私が離れて暮らす母・弟と3人で訓練したときは、全員がお互いの録音を聞くまでに2日間かかりました。理由は「どの電話番号がもとになるかわからなかった。実家の固定電話番号なのか?それとも母の携帯電話番号なのか?」でした。

 

災害伝言ダイヤルはいつもはサービス提供されていません。訓練日が設けられているので、家族や親せきと一度体験してみてください。同様のサービスでは、災害時に各通信会社の公式ページトップに設置される災害伝言版を使うのもおすすめです。

LINEで自分の安否を「多くの人」に知らせる方法

災害時でも通信手段としてLINEが使える場合は、自分のアカウント表示名を「田中家・全員無事」などに変更しましょう。個別に連絡しなくても相手がLINEのトーク画面を見ればこちらの安否が伝わります。    

 

LINEでは災害時に該当地域に住んでいる場合、自分の安否(無事、または被害あり)を友だちに知らせる機能が提供されます。もちろん友だちに知らせたくないときは、非通知も選べます。同様の機能は、Facebookの「災害支援ハブ」としてこれまで使われてきました(これらの機能は、各事業者の方針により今後変化する可能性もあります)。

 

東日本大震災のときはLINEが存在せず、スマートフォンも現在ほど広く普及していませんでした。2011年6月にLINEがリリースされましたが、その「既読」確認機能は東日本大震災の安否確認の教訓を経て開発されたものです。

災害時のSNS「フォローしておきたい」4つのアカウント

近年、災害時の情報収集などにSNSを使うケースが増加しています。特にX(旧Twitter)などではリアルタイムで最新の情報を得やすいでしょう。各SNSでは「#(ハッシュタグ)」をつけたキーワードで情報を検索できるため、「#(地名)災害」「#減災レポート」で検索すれば、最新情報を収集できます。

 

また、以下のXアカウントでは災害・災害活動情報を入手できます。さらに各自治体や該当地域の報道機関のアカウントをフォローすれば地域情報を集めやすくなります。

 

  • 首相官邸(災害・危機管理情報)(@Kantei_Saigai)
  • 総務省消防庁(@FDMA_JAPAN)
  • 防衛省・自衛隊(@ModJapan_jp)
  • Twitterライフライン(@TwitterLifeline)

 

なお各通信事業者の取り組みとしては、これまでの災害で被災者等がインターネットに接続できるよう、通信事業者等が公衆無線LANのアクセスポイントを無料で開放する「00000JAPAN」が実施されました。

「被害写真」を撮っておくと保険金はおりやすい

発災から数日たつと、被害状況が判明します。この時期に考えるべきは、いかに元通りの生活を取り戻すか。被害状況に応じて、労力やお金が必要になります。

 

そこで、災害による保険金の申請のために必要なのが、自治体が発行する罹災証明書。住宅(市区町村により農業用施設・設備などの被害も対象)がどのくらいの被害にあったかを証明するために、保険会社などに提出します。ほかにも、見舞金が出る場合は勤務先へ、住宅ローンの減免では銀行など借入先への提出が必要になります。

 

これまでは自治体窓口に申し出て、調査員が現地を見に来て被害を認定してから、罹災証明書が発行されていました。そのため、広域災害ではなかなか職員が訪れることができず、証明書の発行まで時間がかかりました。保険金申請も進まず、自宅の修理にあてる現金が手に入らないなど、復興が進まない一因にもなっていました。

 

しかし、2019年、内閣府の通知により、全国的に「自己判定方式」が取り入れられました。被災者が撮影した写真から「一部損壊(損害割合10%未満)」と判定されれば、調査員による現地調査をせずに、写真をもとに自治体が罹災証明書を発行するケースも増えています。「自己判定方式」では、最短1~2日で罹災証明書が発行されます。「一部損壊(損害割合10%未満)」は一部の瓦の落下や外壁の崩れ、大雨ならば床下浸水が目安です。

 

私の大阪の実家は、2018年の台風21号に襲われたとき、複数の瓦が飛び、車も破損しました。母は被害写真を撮り、市役所に持ち込み、早い段階で罹災証明書が発行されました。当時は、内閣府からの自己判定方式の通知前でしたが、被害写真のおかげでスムーズな修理ができたと母が喜んでいました。

 

台風により飛んだ瓦が車を直撃

撮影する場合、片づけや仮修理する前の一番ひどい状態を、いろんな角度から撮りましょう。被害箇所の写真に加えて、家の外面を4方向から撮影した写真と表札の写真が必要になります。浸水した場合は、水の高さがわかるメジャーなどを添えて撮影しておくとよいでしょう。仮にプリンターが壊れて写真を印刷できなくても、スマートフォンの画面で「画像を見せればOK」な自治体も増えています。

 

「自己判定方式」に該当する「一部損壊(損害割合10%未満)」の判断がつかない場合も、被害写真をとっておいたほうがよい、と内閣府は考えています。

「熱中症」を防ぐためにもスマホが大事な訳

前半でふれた「地震10秒診断」を参考にすると、震度6強の地震では一般的な家屋では4~7日間ほど停電すると予想されています。

 

ふだんからモバイルバッテリーを満充電して停電に備える、災害時はスマートフォンを機内モードや節電モードにして省エネ化するなどの対策が考えられます。しかし、停電が長期間に及ぶと、それではとてもたりません。

 

そこで重宝するのが、太陽光発電・蓄電できるモバイルソーラーバッテリー。バッテリーにソーラパネルがついているタイプです。パネルの大きさに応じて、発電スピードが変わります。太陽光発電は天候次第で時間がかかる可能性もあり、ふだんから自宅などの電源でモバイルソーラーバッテリー本体を満充電しておきましょう。

 

モバイルソーラーバッテリーは「PSEマーク」のついている製品を選ぶ

一般的にモバイルバッテリーは、電気機器とUSB接続して給電します。ランプ、ヘッドライト、そして卓上型扇風機などはUSB接続タイプを選んでおけば、モバイルソーラーバッテリーで充電できます。卓上型扇風機を充電できれば真夏の停電時、熱中症対策に役立ちます。

 

モバイルソーラーバッテリーは、USB接続可能な卓上型扇風機も充電できる

注意したいのは、電気製品が電気用品安全法で定められた安全規格を満たしていると証明するPSEマークがついているモバイルソーラーバッテリを選ぶこと。バッテリー不良品による事故を避けるために、通販や外国製でもPSEマークの有無を必ず確認してください。

 

いつも身近にあるからこそ、いざというときにあなたを助けてくれるスマートフォン。いまこそ防災のパートナーとして見直しませんか。

 

PROFILE 上沢聡子さん

小学生の子どもがいる防災士。「赤ちゃんとママの防災講座」主宰。大阪で阪神淡路大震災を経験。「第9回健康寿命をのばそう!アワード」母子保健分野団体部門厚生労働大臣賞優秀賞を受賞。   

 

文・写真/上沢聡子