2018年4月、強風で倒れた看板の下敷きになり脊髄損傷を負った猪狩ともかさん。事故の状況から当時思ったこと。どのように心と体と向き合っていったのか伺いました。(全2回中の1回)
「怪我で全治何か月」って聞くじゃないですか
── 2018年4月に歩道を歩いているとき、強風で倒れた看板の下敷きに遭い脊髄を損傷。当時の状況について覚えていますか?
猪狩さん:「何が起こってるの?」って思いながら、一瞬にしてマズい状況なのはわかりました。近くを歩いていた方々が看板を退けてくれましたが、この世のものとは思えない激痛が走り、すぐに救急車で運ばれました。意識は途中まであって、翌日大阪に仕事に行く予定だったので気になっていたことは覚えています。
── 病院に運ばれて緊急手術へ。翌日からリハビリが始まったそうですが、体の状態はいかがでしたか?
猪狩さん:頭を起こすのも大変でしたし、足もその時点で麻痺してるんですけど、足云々よりも気持ち悪さがの方が強かったですね。術後もしばらくは一人で座っていることもできなかったし、車椅子からベッドの乗り移りは医療従事者が4人がかりで体を支えてくれました。入院してしばらくは夜も眠れなくて、睡眠薬をもらっていたと思います。
── 体の状態について、医師からどのように説明を受けましたか?
猪狩さん:脊髄損傷と言われて、今は足の感覚が無くなっています。でも個人差があるのでこれから感覚が戻ってくるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。なんとも言えないと説明されました。脊髄損傷という名前は聞いたことはありましたが、まだ予後についてはよく理解していなかったですね。よくニュースを観ていると、「怪我で全治何か月」とか聞いたりするじゃないですか。だから同じように自分もいずれ治っていくと思っていたんです。
ただ、事故から1週間くらい経った頃かな。家族と話していると、私は「怪我が治ったらこういうことしたい」といった未来の話をするのに対して、家族は「車椅子に乗っていてもこういうことができるね」と車椅子に乗っている前提で話が返ってくるんですよ。違和感を抱えながら、事故で壊れてしまった携帯電話が修理から戻ってきたんです。そこで自分で「脊髄損傷」で検索してみたら、なんとなく自分の予後がわかったというか。
ある日、母と兄が面会に来てくれたときに「私の怪我は治らないの?」と聞くと、母が静かに「うん。そうかもしれないしまだわからない。先生も個人差があると言ってたし、まずはリハビリ頑張ろうね」と言いました。
── すぐに状況を受け入れられましたか?
猪狩さん:何も知らない状態から突然事実を告げられたわけではなく、もしかしたらそうなのかなって覚悟の上で聞いたので。話を聞いて1週間くらいで受容したような…というか、受容する、しないというよりも向き合って生きていくしかないなって感じですね。その後もなんで私がこんな思いをしないといけないんだ!って思うこともたしかにありましたよ。でも、そうした感情は一時的に湧き出るだけで、ずっと引きずる感じではなかったと思いますね。あとはマイナスな感情が出たらノートに書き出して気持ちを保っていたと思います。
山ピーみたいなドクターいる?
── 入院中は特にどんなことが不安でしたか?
猪狩さん:仮面女子として活動が続けられるのかどうかです。続けられたとしても、車椅子に乗った状態で仮面女子のライブに出たら、仮面女子のカッコよさを崩してしまう、私がマイナス要素になってしまうんじゃないかって考えたときはすごく不安でした。
あとはブログで自分の体の状態を発表するときですね。周りの方からどんな反応をされるのか想像もつかなかったので、何度も書き直して世間に公表しました。ファンの方たちに、私は前を向いているので心配しないでと伝えたくて。
── 入院中は家族や会社の方々、仮面女子のメンバーもお見舞いに来てくれたそうですね。
猪狩さん:すごく励みになりました。私の家族は明るいんですよ。ちょうど山下智久さん出演の『コード・ブルー』を観ていた時期で、姉が「山ピーみたいなドクターいる?」と言ってきたときは笑いました。父は当時、救急救命士として働いていたので、私のレントゲンを見てすぐに予後がわかったようで事故直後は大泣きしていましたが、全力でサポートすると言ってくれました。
また、会社の人やメンバーが来てくれたことは大きな励みです。会社の人は車椅子に乗っていても仕事はいくらでもあるし、ライブは上半身で踊るだけでもいいから出てほしい。みんな待ってるよ、事務所は猪狩を支えていくからって言ってくれたんです。病院を出ても自分には居場所があることが何よりありがたかったし、リハビリも頑張ろうと思える原動力になりました。たまにファンの方から、今の事務所じゃなかったら、そのままアイドルは続けられなかったかもしれないねと言われることはありますが、本当に感謝しています。