気温が下がり、空気が乾燥する季節は、かぜをひきやすい時期でもあります。この秋冬は、ウイルスの流行に例年と異なる傾向も…。どんな対策をすればいいのか、小児科医の渋谷紀子先生にお話を聞きました。

インフルエンザやアデノウイルスの流行時期が例年と異なる

── 今年の感染症流行の傾向について教えてください。

 

渋谷先生:ウイルスの流行には季節性があり、今まで夏に流行する主要な感染症は、アデノウイルス、手足口病、ヘルパンギーナなど、冬に流行するのは、インフルエンザ、RSウイルス、ロタやノロなどとされてきました。

 

それが、今年はインフルエンザが夏に流行したり、秋になってからアデノウイルスが流行したりと、例年とは異なる動きが見られます。11月現在、アデノウイルスの流行は拡大中で、感染者数は例年の約3倍。薬や検査キットなどが品薄になっている状況です。アデノウイルスには多くの種類がありますが、今流行しているのは、のどの痛みや結膜炎の症状が出る咽頭結膜熱(別名・プール熱)です。

 

感染症の流行は例年とは違う傾向が…
感染症の流行は例年とは違う傾向が…

気候の変動と相まって、数年前からRSウイルス感染症の流行時期が早まるなどの変化はありましたが、2020年からの新型コロナウイルスの大流行によって、ウイルスが流行する季節が大きく変化しました。

 

本来は、ウイルスに感染することで私たちの体の免疫力は強まるのですが、ここ数年、行動制限やマスクの着用といった感染症対策が徹底されたことで、ウイルスに感染する機会が減り、免疫力が弱くなっていることが大きく作用していると考えられます。実際に、昨年はインフルエンザの流行がほとんど見られませんでした。

 

今年5月、新型コロナウイルス感染症の位置づけが「5類感染症」に移行し、厳しい対策が緩んだために、さまざまなウイルスが大流行していると考えられます。

 

── ウイルスの感染を予防するにはどのような対策が必要でしょうか。

 

渋谷先生:まずは睡眠や栄養を十分に取り、基礎的な体力をつけて抵抗力を高めることが大切です。

 

さらに、インフルエンザや新型コロナウイルスについては、ワクチンを接種して免疫をつけることも効果があります。インフルエンザにはいろいろな型があり、一度かかった人も別の型にかかる可能性があります。ワクチンは、A型2種類、B型2種類の4種類の型に対応していますので、すでにかかった人も接種することをおすすめします。

 

新型コロナウイルスも型の変容が激しいです。現状では重症化する人が減っていますが、かかる人が増えれば重症化する人が増えますから、感染を広めないことが大切です。ワクチンは新しい型に対応しています。

 

多くのウイルスは飛沫感染しますので、うがいや手洗いを徹底させましょう。アデノウイルスは目ヤニからも感染します。家族でタオルを共有しないようにしてください。せきなどの症状がある人は、マスクをして感染を広げないようにしましょう。

 

また、これからの季節は、ノロやロタといった胃腸症状を引き起こすウイルスが流行しやすくなります。ノロやロタは、飛沫ではなくて、吐しゃ物や排泄物から感染します。特に感染したお子さんのおむつ替えをした後は、よく手を洗うようにしてください。空気が乾燥しやすくもなるので、手洗いの後に保湿を心がけるといいですね。

 

ちなみに、ノロやロタのウイルスにはアルコール消毒は効果がありません。吐いたものを拭き取るときは、塩素消毒液などで消毒をしましょう。

症状に合わせた薬やイオン水、ゼリー飲料を常備すると安心

── 急な発熱などの症状に備えて、自宅に常備するといいものはありますか。

 

渋谷先生:熱は夜に出ることが比較的多いので、解熱薬は用意しておくとよいと思います。市販のかぜ薬や整腸剤も心配なら備えておくと安心でしょう。

 

多くのウイルスに特効薬はないので、薬で病気が治るわけではありませんが、熱が高くて食事がとれないとか、せきがひどくて眠れないというときには、症状を和らげるために薬を使ってもいいと思います。

 

かぜの症状があったらまずは病院で受診を
かぜの症状があったらまずは病院で受診を

ただ、インフルエンザも新型コロナウイルスも、症状だけでは判断がつきません。インフルエンザには治療薬がありますので、発熱などの症状があるときは、病院を受診しましょう。

 

特に熱が高いときは、水分補給はこまめにする必要があります。食事がのどを通らない場合、水だけでは糖分や塩分がとれないので、イオン水も常備しておくと安心です。のどごしのいいゼリー飲料なども便利ですね。

 

熱があるときは胃腸の働きも弱くなります。食事は、うどんやおかゆなど消化のよいものにしましょう。

 

PROFILE 渋谷紀子さん

「総合母子保健センター愛育クリニック」院長。日本小児科学会専門医・認定指導医。日本アレルギー学会専門医。監修書籍に『はじめてママ&パパの病気とホームケア』(主婦の友社)、『0-5歳児 病気とケガの救急&予防カンペキマニュアル』(学研教育みらい)ほか。プライベートでは四女の母。

取材・文/林優子 イラスト/児島衣里

 

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