補装具をつけた息子に履かせる靴は、黒や白ばかりで形も均一。「カラフルでオシャレな靴はないの?」。そんな思いをきっかけに、主婦だった川添泰世さんはあらたな人生を歩むことになりました。(全2回中の1回)
小5のときに次男が歩行困難な生活に
次男のアンリさん(14歳)が生後間もなく、国指定の難病・先天性の結節性硬化症をわずらっていると診断された川添泰世さん。皮膚や神経系、肺などに良性の腫瘍ができ、てんかんや知的障がいをともなうことも多く、歩行にも影響があるそう。
そこで、小学5年生のころから日常生活に必要な身体機能を補足する足の補装具を使用することに。補装具は歩行をサポートするほか、足の変形を防ぐ役割があります。ただ、補装具を使用するためには、専用の“オーバーシューズ”が必要になります。
「ただ、補装具をつけると足形が幅広になり、市販の靴は入りません。専用のオーバーシューズが必要になるのですが、市販のものはカラー展開が限定されたものが多く、形もマジックテープで開閉するタイプのみ。デザイン性はありませんでした」
もともとおしゃれ好きの川添さんは、アンリさんと幼少期からカッコいいスニーカーを選んで楽しんでいました。
「補装具をつけるころまでは、息子にどんな色やデザインの靴が似合うかなと、子どもとの靴選びを楽しみにしていたんです。病気を発症して、それが突然できなくなるとは考えてもいませんでした。オーソドックスなオーバーシューズを買ったものの、たくさんある中から選んだり、いままでのようにおしゃれをどうして楽しめないんだろうって、疑問を感じたんです」
上の子同様、3人目の次男にもいろんな色を選ばせて、色とりどりの靴を履かせてあげたかったそうです。
「それなのに服に合う靴が選べないなんて…。おしゃれってトータルで考えるものだから、好きな靴を選べないのはショックでした」
川添さんが靴店で経験したように、当時、補装具の上に履くオーバーシューズは色も形も決まった種類のみで、購入者の多くがネット通販を利用していたそう。
「障がい者がいろんな製品を手にとって選ぶ機会は少ないでしょうね。でも、ふつうの靴店にオーバーシューズがあってもおかしくないと思います。一般用の靴店、障がい者専用の靴店とわける必要ないですよね?障がいとまではいかなくても、ちょっと足が不自由、少し耳が不自由という人もたくさんいますから、同じ店で全部そろえば便利ですよね」
オーダーメイドで作った靴を息子に履かせてみると
大学では家政学を専攻していたこともあり、デザインに興味があり、カラフルでおしゃれなものが好きな川添さん。市販のオーバーシューズのラインナップに納得できず、息子さんのためにオーダーメイドすることを考え、職人探しから始めたそうです。
「息子のために補装具を作っている事業者さんに、靴職人の方を紹介してもらいました。話をしながら好きな色を選び、デザインの希望も伝えて、オーバーシューズに適した基本の靴型をまず作りました。
バリエーションを増やしたかったので、ひも部分を模したカバーを作ってマジックテープの上にかぶせたスニーカー風のものを作ってみたり…。できあがった靴を息子に履かせて、『かっこええやん、いい靴履いてるやん!』と言うと嬉しそう。私の気持ちもぱぁーっと明るくなったんです!」
このとき、川添さんは決意します。オーバーシューズの世界を変えるための一歩を踏み出したのです。
「職人さんと相談して作っているとき、『補装具をつける子どもを持つ他の親御さんも、私と同じ悩みや思いを抱えている人もいるだろう』と感じました。そこで、もっと靴選びを楽しみたいと考える人たちのために、靴屋になろうと思い立ったんです」
その後、川添さんはオーバーシューズ向けオーダー製作靴屋を開業し、京都の町家に工房兼店舗をかまえました。一人ひとり違う障がいや足の状態に応じた補装具にあうオーバーシューズの型を求め、職人たちと試行錯誤を重ねています。ゆっくり時間をかけ、ニーズを聞きながら、川添さんは今日もお客さんが靴を選ぶ楽しみに寄り添っています。
PROFILE 川添泰世さん
高知県出身。Trade Earth Japan代表。2020年、補装具の上に履くオーバーシューズのセミオーダーブランド「MAKEMAKE IPPAI(マケマケイッパイ)」を立ち上げた。夫、3人の子どもと京都市在住。
取材・文/岡本聡子 写真提供/川添泰世