2015年に設立された株式会社ICHIGO。「Tokyo Treat」など、月単位の定額料金で商品が届く海外向け日本のお菓子のサブスクサービスが、コロナ禍を経ても成長著しいと注目を集めています。起業から現在至るまで中心で支えてきた代表取締役 CEOの近本あゆみさんに急成長した経緯を伺いました。

 

現在、世界に向けて配達中!サブスクBOX「tokyotreat」のハロウィーン限定パッケージ
現在、世界に向けて配達中!サブスクBOX「tokyotreat」のハロウィーン限定パッケージ

海外向け通販にビジネスチャンスを感じた会社員時代

── 珍しい事業を展開されていますが、起業のきっかけは何かあったのでしょうか?

 

近本さん:最初に「起業したい!」と思ったのは大学生のときですね。同級生がやっていた学生で立ち上げた企業に誘われ一緒に仕事をしていたときに「ゼロから1をつくり出すこと」に興味を持ちました。

 

大学卒業後はリクルートに入社。営業の仕事を無我夢中でやっていたのですが、2年目に営業から企画に異動となり、新規事業で国内通販企画に関わることになりました。そのときにサブスクサービスを知り、これは面白いビジネスだなと。

 

──その後、2015年に今の会社を立ち上げられました。

 

近本さん:はい。ちょうど海外からの旅行客が爆買いするという現象が話題となり「インバウンド」という言葉を耳にするようになったころでした。通販ビジネスを考えたとき、国内だと競合他社がひしめき新たに参入するのは無謀なイメージでしたが、海外向け通販はまだ競争も少なくチャンスがあるのかなと思ったんです。

 

そこから、ビジネスを展開するなら、大きな市場である中国とアメリカの2択だと考えリサーチを始めました。中国では一部日本のサイトが見られなかったり、独自の税金などもあり障壁が高く、厳しいとわかり断念。アメリカを主軸にビジネスを展開することにしました。

 

株式会社ICHIGOを立ち上げた近本さん
株式会社ICHIGOを立ち上げた近本さん

日本から発信することに意味がある

── 海外に向けて「お菓子をサブスクで」というスタイルになったのにはどのような経緯があったのですか?

 

近本さん:もともとアメリカには「生鮮食品&レシピ」とか「靴下」「カミソリ」などのサブスクがあり、日本にないビジネスモデルに興味があったんです。サブスクが浸透しているアメリカなら、商機があると考えました。

 

商材にお菓子を選んだ理由は差別化です。日本のお菓子は「抹茶」や「ゆず」など、日本ならではの味があります。秋は「栗」、冬なら「いちご」など、季節によっても違う味が限定発売される。海外からすると珍しいものが多く、毎月届いても飽きない、種類の豊富さがあります。日本から、日本らしいものを発信するのにはぴったりだと思いました。

 

会社を立ち上げた頃。自宅で梱包作業に追われていた
会社を立ち上げたころ。自宅で梱包作業に追われていた

──たしかに、日本のお菓子はバラエティに富んでいます。約20種のお菓子の詰め合わせが届くサブスクBOX「Tokyo Treat」は、お菓子をセレクトするにあたり基準などもあるのですか?

 

近本さん:社内でチェックするリストが20項目ぐらいあります。味のバランス、箱に入れたときのボリューム感、賞味期限などなど、バイヤーがリストをチェックしながら毎月でも楽しめるものを選んでいます。

 

── 和菓子が詰め合わせになったサブスクBOX「Sakuraco」も人気のようですね!ご当地コラボの和菓子も好評と伺いました。

 

近本さん:最初に始めた「Tokyo Treat」のユーザーさんから、「和菓子も食べたい」というリクエストをもらうようになったんです。そこで、顧客を対象にしたアンケートを実施しました。その要望に応えてできたのが「Sakuraco」です。生菓子は難しいのですが、ようかんなど、日持ちのするものを中心に和菓子をセレクトしていました。

 

次第に、和菓子には地方ごとに特色があり、それが魅力になるのではと気づきました。沖縄だったら紅芋とか黒糖を使用したものだったり、その土地ならではの素材のお菓子も楽しめますよね。そこで「これって地方自治体と一緒にやったほうがいいのでは?」と、ご当地コラボをスタートさせました。現在20自治体くらいとコラボが実現。全国的には知られていない地元の菓子メーカーや特産物を世界に紹介できる機会にもなりましたね。

 

日本の伝統文化が詰まったサブスクBOX「Sakuraco」
日本の伝統文化が詰まったサブスクBOX「Sakuraco」

コロナ禍で海外の人たちから注文が殺到

── 昨年は分野・地域が連携し、日本の魅力を深めて発信する取り組みを応援する「クールジャパン・マッチングアワード2022」で、地方自治体との連携や日本文化の発信を評価したリーディングエクスポート特別賞を受賞されたそうですね。

 

近本さん:自分たちとしては、ただコツコツと取り組んできただけなのですが、このような賞をいただき、成果を認めていただいたと思うと本当にありがたいです。コロナ禍で、日本に来られない外国の方たちから注目を集め、日本のお菓子のサブスクBOXの注文が増えました。新型コロナウイルスの影響で売り上げに大きなダメージを受けていた地方の菓子メーカーさんにとっても経営の助けとなり、経済活性化に貢献できたというのも嬉しかったですね。

 

サブスクを一緒に盛り上げてくれているメンバーと。中央の黄色い服を着てピースをしているのが近本さん。
サブスクを一緒に盛り上げてくれているメンバーと。中央の黄色い服を着てピースをしているのが近本さん

会社設立から今年で9年目となり、これまでに300万個以上のBOXを届けてきました。SNSで検索すると、欧米以外にも、中東やアフリカの国々の方が箱を持っている写真をあげてくださっているのを見つけて「世界中に本当に届いているんだ」と不思議な気持ちになると同時に、嬉しさがこみ上げます。

 

会社のミッションとして「世界中の日本が好きな人たちにICHIGOを通じて日本の文化やプロダクトを届けたい」を掲げているので、お菓子だけにとどまらずこれからも邁進していきたいです。

 

PROFILE 近本あゆみさん

株式会社ICHIGO代表取締役 CEO。2児の母。日本の文化を世界へ発信するべく起業した、海外向けサブスクサービス「Tokyo Treat」「Sakuraco」等を運営。日本で話題のお菓子や和菓子をセレクトしBOXに詰め込んで、現在184か国の人々に届けている。

取材・文/加藤文惠 画像提供/近本あゆみ