雑誌『non-no』のモデルとしてデビューした森貴美子さんは現在、モデルの仕事を続けながら日本語教師として外国人学生に日本語を教えています。2つの職業を両立する理由を伺いました。(全3回中の2回)
モデルと日本語教師の二足の草鞋を
── モデルの仕事を続けながら、日本語教師の資格を取得したそうですね。
森さん:ドラマやK-POPにハマって韓国語を勉強していたときに、韓国人の先生に韓国語で習っていたんです。文法の説明も全部、韓国語。そのときに「そういえば、日本語を教える日本語の先生っているのかな」とふと思い立って調べたら、日本語教師という職業がありました。
最初は、仕事にしたいというよりも、「日本語をどんなふうに日本語で外国の方に教えるのだろう」ということに興味を持ちました。韓国語を学ぶなかで海外の友達が増えたのですが、「日本語を教えて」と言われても教え方がわからないことも多くて。
「だってこうだから」とか、「これが一番自然だから」としか答えられず、日本人なのに説明ができない。どうしたらわかりやすく教えられるのかなと思って、3年前に学校探しから始め、これまで感覚で使っていた日本語を文法的にどう説明したらいいのかを学びました。
── 日本語の教え方を学んでみていかがですか。
森さん:改めて日本語は奥が深いなと思いました。これは学ばないと教えられないですし、日本語教師という職業があることも納得しました。日本人なら理解はできると思いますが、日本語に対して興味がないとできない仕事だと思います。「好きこそ物の上手なれ」のことわざにもあるとおり、私は小学校の頃からいちばん国語の授業が好きでしたし、本を読んだり書いたりすることも好きでした。小さい頃の経験が、今ここに繋がっているなと思いましたね。
── 現在、外国人の学生に日本語を教えているそうですね。
森さん:私が働いている日本語学校は中国の学生が多いですね。私が担当しているクラスはほとんどが18〜19歳です。ベトナム、ミャンマー、スリランカの学生もいますし、皆さんすごく熱心なので尊敬することばかりです。日本で仕事をしたいとか、大学院に進みたいという目標がある学生が多いのですが、文法に関する質問や、語彙の違い、日本の生活様式に関する質問も多いです。
── 具体的にどんなことを聞かれますか。
森さん:例えば、友人のお宅に招待された時に伺うタイミングですね。伺うときは予定の時間より早く着きすぎないようにした方がいいとか。手土産を渡したり、開けたりするタイミングについても教えます。一方で、就職活動などで会社に伺う際は絶対に遅刻しないように、余裕をもって到着するようにと伝えます。日本社会には暗黙の了解とされていることが結構多いですよね。
仕事の共通点は
── 日本語教師のやりがいや難しさはどんなことですか。
森さん:私が教えた文法や言葉を使って学生が文章を言えたときは成長を感じます。「文字も読めなかったのに、もうこんなに話せるようになったの!?」って、まるでお母さんの気持ちになりますね(笑)。どんどん言葉が増えて成長していく姿を見るのは嬉しいです。
クラスが離れても遊びに来てくれたり、連絡をくれたり、慕ってくれる子もいて、それはとても嬉しいです。そして、人に物を教える責任は重大だなと改めて思います。授業で準備しているもの以外の質問が来て、答えに戸惑うこともあり、本当に冷や汗をかきます。例えば、日本人ならわかってくれるようなことってありますよね。それを外国の方にわかりやすく噛み砕いて説明するのですが、どうしても伝わらないこともあって…。教壇に立つ今も、常に学ぶことが多いです。私は、授業の準備に時間がかかるので、休日はひたすら家で教材の準備をしています。
── どちらかに絞るのではなく、モデルと日本語教師の仕事を両立しようと思ったのはなぜですか。
森さん:モデルは、私のアイデンティティでもあるので続けていきたいと思っています。欲張りなんです、きっと。モデルがあるからこそ今の私がいると思っているので、この仕事をすべて辞めて他に何かをするというのは考えられません。マネージャーさんにも「いつか介護用のオムツのCMに出たい」と今から伝えているくらい、年齢を重ねても続けられる限り、モデルの仕事を続けたいと思っています。
それに、全然違う仕事に見えますが、共通するところがあります。それは、人の前で話して表現すること。どれだけ人の注目を集めて説得できるか。説得の心理学というものも学びましたが、それぞれの仕事が、それぞれの仕事に活きることが多く、今、とてもやりがいを感じています。
PROFILE 森貴美子さん
雑誌『non-no』モデルとして、17歳でモデルデビューし、12年間レギュラー出演。『mina』『LEE』『nina’s』『HugMug』『サンキュ!』『リンネル』など数々のファッション誌に出演。「森きみ」の愛称で親しまれ、アパレルやジュエリーブランドのデザインにも携わり、書籍も6冊執筆、出版している。
取材・文/内橋明日香 写真提供/森貴美子