「人に頼るのはダメ」と家事や子育てと仕事の両立をしてきたモデルの畑野ひろ子さん。その考えを変えるきっかけは、今年の春に経験した初めてのひとり旅だったそうです。(全4回中の4回)
「夫は選手だから」とひとりで抱え込んで
── 夫で元サッカー選手の鈴木啓太さんは6歳年下だそうですね。結婚後に年齢のギャップを感じることはありますか。
畑野さん:出会ったときから、むしろ「この人、年上?」と思うくらいでした。強いて言えば、学生時代に聞いていた曲の話になるとまったく合わないので、それは年齢差を感じますね。私が大人になって聞いていた曲を小学生の頃に聞いていたとか(笑)。逆にそれ以外にギャップを感じることはないです。夫は物事の考え方が昔からしっかりしていました。
── ご主人が現役のサッカー選手だった頃はお子さんも小さかったと思いますが、子育てや家事はどうされていましたか。
畑野さん:夫が選手の頃は、家事にしても子育てにしても「これ、してくれるかな」と思うと、してもらえない時にイライラしてしまうので、「夫は選手だから」と期待せずに割りきっていました。大変でしたけど、揉めることはなかったです。そのほうが家の中がうまく回る気がしました。アスリートは体も酷使しますけど、精神的にも大変だなというのは見ていて感じていました。
夫は仕事を家に持ち込むタイプではないのですが、試合で勝った日と負けた日の落差はすごかったと思います。家では、余計な負担はかけずに家事は気が向いたらしてもらえばいいと思うほうが私も気がラクでした。
── 仕事をしながら子育てと家事の両立は大変かと思いますが、どなたかのサポートはあったんですか。
畑野さん:当時は変なプライドがあって、「自分で育てたい」という思いが強くて。シッターさんに依頼したこともありませんでした。義理の母も「頼っていいよ」と言ってくれていたんですけど、「自分が望んで好きな仕事をしているのに、その間に人に頼むってどうなんだろう」と変に考えるタイプだったんです。
娘たちは保育園に通っていて、遅くなる仕事がある時には、義理の母や私の母にお願いすることはありました。でも基本的にはお迎えの時間までに仕事を終わらせてもらうように調整していました。自分がそうしたかったのが大きいと思います。その時にしか、その年齢の娘の姿は見られないと思ったので、できるだけ一緒に過ごしたいなと思っていました。子育てにおけるこの気持ちは今も変わらないですね。
── お話を伺っていると、仕事も家事も子育てにも全力で取り組まれているのが伝わってきます。
畑野さん:なんでも自分でしようと思っていましたね。でも、それでパンクして1人でぷりぷりして。そんな私が変わるきっかけが、今年の3月に生まれて初めてのひとり旅で、リトリートを経験したことでした。
リトリートというのは、心身のリフレッシュのために日常から離れた環境で色々な体験を楽しむことなのですが、私は、自然に触れながら育児や家事などの日常からいったん離れたんです。自分だけに向き合う時間ができたことで、「ひとりで頑張りすぎずに、もっと周りに甘えていいのかもしれない」と思えました。
それまでの私は、人に甘えるのは絶対ダメだと思っていたんです。でも、よくよく考えてみると結局、自分で全部しようとして何かが抜けてしまったりイライラしたりしてしまうと、周りに迷惑がかかってしまっていたんです。これからは夫にも子どもにも、マネージャーにも母親にも、近くにいる頼れる方には頼ろうと思いました。
── どうやって頼むようにしているのですか。
畑野さん:リトリートの旅から帰ってきた時に家族に宣言したんです。「みんなで一緒に住んでいるんだから、これからはみんなで助け合いましょう」って。「ママももちろん頑張るけど、頑張りきれない時は助け合おうね」って。
突然の宣言に夫は、「お、おう」みたいな反応でした(笑)。まだすべては難しいんですが、そこからは「ママ、これ間に合わないからやってね」と娘には今まで頼まなかったことも言うようにしています。夫にも、「ちょっと食器洗ってもらっていい?」というようにお願いしています。前は自分で完璧に終わらせようとして、絶対に人には頼みたくなかったんですけどね。
実際、娘は気が向いた時にしかしないのですが、私も実家にいた頃はそうだったのでそれでもいいかなと。私の心がけひとつで、こんなにも気持ちが楽になるということを知りました。
娘たちの将来は「本人が思うように」
── 家族の仲を保つ秘訣はなんでしょうか。
畑野さん:あんまり干渉しないことですかね。夫も忙しいので、家族でずっと一緒にいる時間というのは少ないのですが、それに対して不満はないです。普段はそれぞれが置かれた環境で頑張って、どこかでたまに一緒に出かけられたらいいね、くらいの気持ちでいます。子どももそのときどきの年齢で違ってくると思うんですが、今は長女が中2で、下は小4になったので、それぞれの時間をそれぞれが持つという今の状態がうまくいっているのかなと思います。
── 娘さんの性格はそれぞれどう違いますか。
畑野さん:お姉ちゃんはいわゆる長女気質で慎重派。下の子は、天真爛漫という言葉がまさに当てはまって、一度会ったらみんなお友達という感じです。2人とも負けず嫌いなのは共通していると思います。
お姉ちゃんは思春期ということもあるので、何かを言う際は言葉を選びます。ひとりの女性として接して、注意するときも怒るというより話す。周りの友達のことも知っているので、友達のことを話すときは、同世代のように話すときもありますよ。
下の子は、お姉ちゃんとはまた違って要領がいいタイプではないので、私からするとできるだけ手をかけて見てあげなきゃとは思うんですが、夫は「もっと個性を伸ばしてあげる方がいい」と言っていて。きっと下の子は知らないうちに「目指せ、お姉ちゃん」というのは常にあるんじゃないかなと思います。でも、下の子にしかないものを伸ばして、自信をつけさせてあげたいと思います。
── ご家族の中で旦那さんが唯一の男性ですね。
畑野さん:娘はふたりともパパが大好きで。私からすると、仲もいいと思うのですが、どうでしょう?夫からしたら、もしかすると居心地が悪いかもしれません(笑)。
── 娘さんにはどのような大人になって欲しいですか。
畑野さん:本人たちが思うように、というのはよく夫婦で言います。親がどうして欲しいというより、本人たちが「こうなりたい」と言うことを応援しようと。でも私は、そうは言ってもどこかで口は出してしまいそうですけどね(笑)。
── 畑野さんのように芸能界を目指したいと言い出したらどうでしょう。
畑野さん:今のところ、そんな素ぶりはないのですが、もし本当に相談してきたら「なりたいものが見つかった」ときだと思うんですね。自分のなかで熱中するものを見つけてほしいと思うので、そのときはもちろん、全力で応援したいと思います。
PROFILE 畑野ひろ子さん
ファッション誌『JJ』の専属モデルを経て、テレビドラマ、映画、CMなどに出演。その後ファッション誌『CLASSY』のレギュラーモデルを努め、結婚、出産。二児の母となり、ファッション誌『VERY』、『STORY』にて活動しながら、お花の魅力を伝えるフラワーライフスタイルプロデューサーとして「WILL GARDEN」を設立。レッスンを行うほか、イベントやECサイトでの販売のサポートを手がける。
取材・文/内橋明日香 写真提供/畑野ひろ子