子どものころの唯一の特技は朗読、と話す元TBSアナウンサーの竹内香苗さん。それがアナウンサーを目指すきっかけになりましたが、入社したTBSでは同期の中でも「落ちこぼれ」だったとか。キャリアスタートからの充実感、葛藤、すべて話してもらいました。(全4回中の3回)

 

「昔から美しい!」局アナ時代の竹内さん「朝ズバッ!」の名物・新聞コーナーの1コマ

「朗読をほめられて」アナウンサーを目指すように

── 2001年にTBSに入社し、アナウンサーとして、報道からバラエティー番組まで幅広く活躍されました。そもそもアナウンサーを目指したきっかけは何だったのですか?

 

竹内さん:「伝える」という仕事に興味がありました。小学生のとき、国語の時間で朗読をすると褒めてもらえることが多く、それがすごく嬉しくて。以来、朗読は私にとって、唯一の特技なんじゃないかと思うようになりました。

 

その後、父親の仕事の関係で、小5から中3の夏休みまでアメリカのオハイオ州で暮らしていたのですが、帰国したころ、クイズ番組が盛り上がっていて、テレビ全体がすごく活気に溢れていたんです。

 

そうした影響もあり、テレビ業界や番組づくりに興味を持つように。昔から好きだった「読む」という特技を活かしてナレーションをしたり、情報番組やニュースを通じて「伝える仕事」がしてみたいという思いが募っていきました。

 

── 新人のころから落ち着いた雰囲気と安定感のあるアナウンス力には定評があったイメージがあります。

 

竹内さん:いえいえ!まったくそんなことはなく、むしろ同期3人のなかで、私ひとり落ちこぼれという感じで、順調なスタートを切ることができませんでした。

 

アナウンサーは技術職なので、トレーニングを積んで技術を身につけなくてはいけないのですが、私はといえば、何をやってもうまくできず、スキルがなかなか身につかない。そんな自分をもどかしく感じていました。活躍している先輩たちを見ては、「私もいずれあんなふうになれるのだろうか」と不安でいっぱいでした。

 

ようやく自分の役割を果たせるようになってきたかもしれないと感じたのは、3年目くらい。そこから徐々に幅広く番組を担当させてもらえるようになりました。

 

── なにか自信につながるようなきっかけがあったのですか?

 

竹内さん:2年目から「王様のブランチ」を担当したのですが、当初、生放送で緊張しすぎてガチガチになり、うまく対応できずに、周りの空気を壊してしまうほどでした。あまりの惨事に、「私はアナウンサーに向いていない。練習を重ねても全然うまくならないし、辞めたほうがいいのでは?」と落ち込み、悩んだ時期がありました。

 

そんな時に声をかけてくださったのが、先輩アナウンサーの吉川美代子さんでした。「竹内さんは、“何段飛び”の成長はないけれど、“亀の歩み”のように着実に一歩ずつ進んでいるから、このままで大丈夫よ」。その言葉に励まされ、もう少し頑張ってみようと踏ん張ることができました。

 

吉川さんには、その後もプライベートでジャズバーに連れて行ってくださったり、プロとしての姿勢を学ばせていただくなど、とてもお世話になりました。アナウンス技術に関しては、ご自身にも周りにも厳しい方ですが、人としてすごく温かい方。他にもいろんな方たちの支えが今につながっています。

アナウンス技術が十分に備わっていると思ったことはない

── その後、報道や経済番組などにもどんどん起用され、2012年に退社するまで看板アナウンサーとして活躍されました。

 

竹内さん: 1歩ずつゆっくり進むうちに、できることが増えていき、完璧とはいえないまでも、少なくとも合格点が出せたのではと思うことが増え、制作の方からも「進行に助けられたよ」と声をかけていただけるように。それに伴い、任される役割も大きくなっていきました。

 

ただ、自分のアナウンス技術が十分だと思ったことは、いまだ一度もありません。改良しなくてはいけないところがまだまだたくさんあります。まさに、吉川さんがおっしゃっていた通り、「ちょっとずつ」の歩みをいまも重ねているという感じです。

 

竹内さんの数少ない特技がローラースケートだとか

──「ちょっとずつの歩みを重ねていく」キャリアの積み方は、とても参考になります。息切れせずに自分らしく働き続けることができそうですね。「伝える仕事」のプロとして、大切にしていることはなんでしょう?

 

竹内さん:どんな事柄においても、自分なりの見解をあらかじめ持ってのぞむように心掛けています。コメントを求められることがない番組でも、つねにそうした姿勢で向き合うことが、自分の考えをまとめ、深めていくことにもつながっていると思います。

 

もうひとつ大切にしているのは、いろいろな意味で「放送で嘘をつかない」ということ。ムリに背伸びをしたり、気持ちがこもっていない表現はしないようにしようと決めています。

「安住さんから教わった」仕事への情熱や準備

── それはなぜでしょうか?

 

竹内さん:繕った姿は画面や声から伝わるものだと思うんです。ですから、言葉や表現に責任を持って真摯に向き合うことを意識しています。

 

もちろん技術職なので、スキルを磨き続けることは大切ですよね。上達したい、成長したいという気持ちを持って、空いた時間に教えていただいたり、他の方の仕事を見たりして、学ぶようにしてきました。

 

── 例えば、どんな方の仕事ぶりに刺激を受けていたのでしょう?

 

竹内さん:私の5つ上の先輩に、安住(紳一郎)アナウンサーがいるのですが、安住さんは、番組づくりに対する熱量がとにかく高く、つねに周到な準備をしたうえで放送にのぞまれています。その姿を観察しては、「私の準備はまだまだ足りない…」と背筋の伸びる思いでしたね。

 

どんな番組においてもとにかく準備が大事なので、“10備えたうちの1が放送に活きるかどうか”くらいの気持ちでのぞむようにしています。

 

朝の情報番組「朝ズバッ!」では、新聞コーナーを担当していたのですが、毎朝、会社に到着したら新聞全紙に目を通し、気になるところはさらに掘り下げて調べたり、詳しい方に意見を聞いたり。アナウンサーは、皆さんそうしていらっしゃると思います。

 

── 印象に残っている失敗談はありますか?

 

竹内さん:日常の失敗談は数知れないほどあります。言うべきことを忘れて頭が真っ白になったり、緊張のあまりしどろもどろになったり、段取りを間違えたり。番組の進行で、時間管理もアナウンサーの重要な仕事です。

 

とくに生放送では、出演者のお話をまとめて進行を先へ進めたり、場合によっては途中で介入して次の話題に移らなくてはいけないのですが、なかなか会話に割って入れず、時間が足りなくなってしまうこともありました。

 

それでも、キャリアを重ねるうちにいろんな方法が身につき、先輩に教えていただきながら徐々にスムーズにできるように。退社するころには、私の中で時間管理が一番得意になっていました!

 

── 会社員の場合でも、会議などで話が白熱して遮ることが難しい場面がよくあります。なにかコツはあるのでしょうか?

 

竹内さん:これはあくまで番組進行上どうしても遮る必要があるときの場合ではありますが、話している人をよく観察しながら、話の切れ目や呼吸の間をみつけてスッと入ったり、あるいは、あいづちの言葉を挟みながら、そのまま次の進行に移る言葉に直接つなげる方法などもあります。

 

いずれにしても話している人をよく見ることが大切だと思います。最初は難しいかもしれませんが、経験を積むうちに、呼吸の切れ目や「ここだ!」という間が見えてくるような感覚になります!

 

PROFILE 竹内香苗さん

1978年、愛知県生まれ。東京外国語大学卒業。2001年にTBS入社後、テレビでは「王様のブランチ」「サンデージャポン」「みのもんたの朝ズバッ!」「はなまるマーケット」、ラジオでは「伊集院光 日曜日の秘密基地」など、様々なジャンルを担当。2012年にTBSを退社後、ブラジル、アルゼンチンを経て帰国。現在、ホリプロに所属し、フリーアナウンサーとして活躍中。テレビ東京「週刊ビジネス新書」レギュラー出演中。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/ホリプロ