モード系雑誌からタレントのスタイリングまで幅広く手がける人気スタイリスト・木津明子さん。シングルマザーとしてふたりのお子さんを育てながら、2021年8月に「こども食堂レインボー」を設立しました。自身も多忙な身でありながらも立ち上げに至った経緯や込められた思いについて伺います。
離婚して初めて気づく、ひとり親家庭の厳しい現実
──「 こども食堂レインボー」について教えてください。
木津さん:横浜市の洋光台で毎月2回開催しており、昼ごはんと夜ごはんを提供しています。子どもは無料、大人は1食500円で食べることができます。
── 木津さんはスタイリストであり、ふたりのお子さんのシングルマザーでもあります。お忙しい日々だと思いますが、なぜ子ども食堂を立ち上げようと思ったのでしょうか。
木津さん:きっかけは、「ひとり親家庭だともらえる手当がありますよ」と税理士さんに勧められて手続きに役所へ行ったときのこと。手続きを進めていくと、手当をいただくための条件は想像以上に厳しく、私は手当の対象から外れることがわかりました。私が住む自治体では受給の条件が月収19万円以下だったんです。
その条件の厳しさにすごく驚きました。子育てには生活費だけではなく教育費などお金がかかりますよね。収入を抑えても、手当が出るとはいえこの収入でどうやって暮らしていくことができるのだろう。それなら手当から外れても働くことを選び、子どもにお留守番をお願いして後ろ髪を引かれるような思いで仕事へ出ている親も多いのでは。そんなとき、子どもはどんな思いでお留守番をしているんだろう…。
役所からの帰り道はそんなひとり親家庭のことが気がかりになり、彼らのために私に何かできることを探し始めていました。
── ご自身もシングルマザーとして大変な時期だったのでは?
木津さん:私の場合は両親の近所に越してきていたので、仕事で多忙なときなどは両親に子どもを見てもらうなど協力を得られていたことや、友人や仕事仲間の理解が大きな支えになっていました。
もちろんシングルマザーとしての生活がすべて順調だったわけではありません。朝から晩まで働いてヘトヘトになって仕事から帰ってきて、そこからご飯を作って家事をしてとなると、手一杯でつい子どもに対して余裕のない態度を見せてしまって後悔したことも。
でも、そんなときに周りにたくさん支えてもらったからこそ「今度は私が何かできることをしたい!」という強い思いに結びついていったのだと思います。
── そのなかで、子ども食堂を選んだ理由はなんでしょうか。
木津さん:もともと、街なかで「子ども食堂やってます」という看板を目にすることがあり、この活動について興味はあったんです。また、元々食事を作って人に振る舞うことが大好きだったということもあり、私ができることは「これだ!」と。
── 子ども食堂を立ち上げることについて、二人のお子さんの反応はいかがでしたか?
木津さん:特に長女は「ママは忙しい」というイメージが強かったので、「倒れちゃったりしない?」とすごく心配してくれたんです。そういうわが子を見るたびに、子ども食堂への思いや、私自身も子どもとの時間を大切にしていきたいという思いがさらに強くなりましたね。
ボランティアだけではいつか限界がくるのでは
──「 こども食堂レインボー」では、子どもは無料でご飯が食べられますね。
木津さん:子どもたちに無料でご飯を提供できている理由は、「子どもたちを応援したい」と言ってくださる方が、「寄付」という形で子どもたちのために「食事チケット」を購入してくださっているからです。
その他にも、企業や仕事の関係者が食材などを提供してくださっています。もちろんたりない分は買いたしていますが、さまざまなご支援のおかげで子どもたちに無料で食事を提供することができています。
── また、全国的に子ども食堂のスタッフはボランティアが多いようですが、「こども食堂レインボー」ではお給料が支払われているそうですね。
木津さん:そうなんです。この子ども食堂を一時的なものではなく、長く続けたいと考えたときに、ボランティアではいつか限界がきてしまうのではと思ったんです。
スタッフにもそれぞれ生活がありますよね。そのなかで、子ども食堂で働くことを家族にも理解してもらいながら、ゆとりをもって気持ちよく働いてもらいたいと考え、一般社団法人としてお給料をお出しすることにしました。
後ろめたい気持ちを払拭したい
── ほかにユニークな取り組みとして、SNSの発信も積極的におこなっていますね。美味しそうなご飯のほか、子どもや大人が満面の笑顔で映る写真がたくさんあります!
木津さん:SNSでの発信は、支援してくださっている方への感謝の気持ちを込めたご報告のほか、私たちの子ども食堂が「明るくて楽しいオープンな場所」であることをSNSで発信することが、この場所を本当に必要としている子どもや家庭に届くと考えています。
── そのように考えるきっかけがあったのでしょうか?
木津さん:立ち上げ当初は「困っている家庭のための子ども食堂」と考えていました。でも、それが逆にその方たちが来店するためのハードルを上げているのでは、と気づいたんです。
きっかけは、駅前で子ども食堂のチラシ配りをしていたときのこと。私たちのチラシを「ありがとうございます、わが家は大丈夫です」と言って丁寧に断る人もいる一方で、渡されることを不快に感じていた方もいました。
それはもしかしたら、子ども食堂が一般的に“困っている家庭が利用するもの”というイメージが定着しているがために、「チラシを渡される=困っている家庭だと思われた」という気持ちにさせてしまったからでは、と思ったんです。
でも、そのなかに利用したいけれど“後ろめたさのようなもの”を感じている家庭がいたら?そんな家庭にも気軽に利用してもらうためにはどうしたらいいのだろう。悩んだ結果、辿り着いた答えが、誰でも利用できるオープンな場所にすることだったんです。
── SNSを見ると、子ども食堂というより「楽しそうな場所」という印象を受けます。
木津さん:「あの子、子ども食堂行ってるらしいよ」って区別されるような場所ではなく、「なんかすごく楽しそうだから、今度一緒に行ってみようよ」なんて、学校でお友だち同士で誘い合って自然に来られるような場所になっていってほしいなと。
── 立ち上げから3年目になりますが、とても順調そうですね。
木津さん:親と来てくれる子もいれば、お友だち同士で誘ってきてくれる子、ひとりで来る子、一日中ここで過ごしてくれる子、さまざまいます。でも、ここに来たらみんな一緒。美味しいご飯を食べて遊んで、友だちになっていく。着実にその輪は広がっているかなと感じます。ただ、その一方で現実的な面では資金集めという点で苦労しています。
── 具体的に教えてください。
木津さん:いつもたくさんのご支援をいただいていますが、たりない食材は買いたしていますし、場所代に光熱費、人件費なども発生しています。
そのような活動資金を皆さんにご協力いただくためには、「明るくて楽しいオープンな場所」という側面だけではなく、必要な支援についてもSNSで伝える必要があるのかも、そんなふうに考えることがあるんです。
とは言え、困っていることを伝えれば子どもたちに影響して本当に来てほしい子が来にくい場所になってしまう可能性も。だけど、資金調達は私たちの運営にとって欠かせないこと。現実と理想でどう折り合いをつけるべきか、すごく悩んでいます。
関わる人すべてが幸せになれる場所へ
── 「こども食堂レインボー」の今後の目標はありますか?
木津さん:今も、さまざまな方からのご協力のもと、季節に合わせたイベントなども同時に開催しているのですが、今後はその分野も広げていき、教育面でも充実させて「寺子屋」のような場にしていきたいなと考えています。
そして、子ども食堂からもっと安定的に雇用を生み出せるようにして、例えば私が引退することになっても次の代、またその次の代と受け継がれるようにしていきたいですね。
リーダーである私の目前の課題は、資金調達。それもクリアさせて、ここに関わった子どもも大人もそして企業も、誰もが幸せを感じられるような子ども食堂を運営していきたいです。
PROFILE 木津明子さん
ファッションスタイリスト。2007年独立後、雑誌、広告などで活躍中。プライベートでは、中学生と小学生の2児の母。2021年8月から横浜市磯子区洋光台で「こども食堂レインボー」をスタート。月に2回、子どもには無料でバランスのいい食事を提供している。
取材・文/ひらおか ましお 画像提供/木津明子、こども食堂レインボー