フジテレビのアナウンサーとして活動の幅を広げ、現在は報道局で仕事をする阿部知代さん。偶然の出会いがきっかけだったというLGBTQ+の支援活動を始めた理由について伺いました。(全3回中の3回)

ニュースを読みたくて

── どんな仕事をしたくてフジテレビに入社されたんですか。

 

阿部さん:報道志望でした。でも入社2年目からほとんど仕事がありませんでした。当時のフジテレビではワンショットのニュースは男性の仕事で、私は今でいうフィールドキャスターのような仕事や天気予報を週に2日くらい担当し、あとはずっとアナウンス室にいました。

 

阿部知代さんと東ちづるさん
今年の東京レインボープライドで東ちづるさんとの2ショット

30代になっても仕事がなくて、その頃、男性アナウンサーがみんな多忙で土曜日の朝のニュースを担当する人がいない、ということになって、先輩アナウンサーが上の方に「阿部知代がニュースを読みたがっている」と話してくれたんです。そこから報道局長に直接、話に行きました。「ニュースを読みたいんです、女じゃダメですか」って。

 

── 今では考えられない話ですね。

 

阿部さん:当時のニュース番組は、男性がメインで女性がアシスタントというのがほとんどでした。

 

── 直談判の結果はいかがでしたか。

 

阿部さん:局長は、「俺もさ、実は変だと思ってたんだよね」とすんなりOK。そこから、週末の朝のワンショットのニュースを担当することになりました。まだフジテレビが河田町にあった頃で、アナウンサーも今ほど多くいませんでした。週末のニュースは長く続けましたね。

 

私の入社する前年に男女雇用機会均等法が成立したのですが、それまでフジテレビの女性アナウンサーは契約で、女性で長く勤める方は多くいませんでした。でもそれ以前から田丸美寿々さんや三雲孝江さんが女性アナウンサーとしてクローズアップされて、自分の言葉で仕事をするとのことで注目されました。その後にいわゆる女子アナブームが起こります。

 

── アナウンサーは基本的に依頼を受けて仕事をするんですよね。

 

阿部さん:仕事は特定のアナウンサーに集中しがちなので、売れっ子はフルブックです。「この子ではどうですか」とか、仕事の割り振りをするデスクの仕事も経験しました。

 

── フジテレビのアナウンサーは仲がいいことで有名ですね。

 

阿部さん:今もそうだと思いますが、うちはすごく仲がよくて。「先輩アナウンサーとご飯に行った」と言うと、他局の友人から「仕事が終わってからも先輩と一緒に過ごすなんて!」と言われたこともありました。私は先輩たちからすごくよくしてもらえたので、後輩にもそうしようと務めましたし、今も後輩たちがそうしてくれていると思います。先日、60歳になった時にも後輩たちが「阿部知代さんの還暦をお祝いしたい!」と集まってくれてすごく嬉しかったのですよ。

大切な友達たちのために

── 現在は報道の仕事のかたわら、LGBTQ+の方の支援活動も積極的に行っているそうですね。きっかけはなんでしたか。

 

阿部さん:15年ほど前、現在はLGBTQ+をはじめとするセクシュアルマイノリティの存在を社会に広めるイベント「東京レインボープライド」共同代表理事の杉山文野さんとご家族に、小さな中華料理店で偶然出会ったんです。

 

阿部知代さん
2018年の東京レインボープライドでステージの司会をする阿部さん/(C)TRP

彼が性同一性障害をテーマに書いた卒論を書籍にしたものを読み、衝撃を受けました。私はファッションやアートも好きなので、その業界の友達の中にはゲイやレズビアンはいたのですが、トランスジェンダーに出会ったのは杉山さんが初めてでした。そこから仲良くなってたまに会うようになりました。当時はセクシュアルマイノリティについてまだあまり知られていなかったので、社内では「阿部知代がどうやら政治活動を始めたらしい」なんて言われたこともあったんです。

 

── 本当に偶然の出会いから始まったんですね。

 

阿部さん:50代になるときにNY支局に勤務し、8年前に帰国してからイベントに参加するようになりました。担当番組でLGBT(当時)のコーナーを作ったり、アライ(支援者)として取材を受けたりするようにもなって。LGBTという言葉が世間に認知され始めた頃でした。

 

イベントなどに参加して知り合いが増えるといろいろな声を聞きますし、自分なりに勉強しています。知れば知るほど「これはおかしいぞ」と思うんです。生きにくさから自殺の道を選んでしまう方も少なくありません。

 

同性で結婚できないとか就職で差別されるとか、マジョリティが当たり前に享受できていることを享受できずに不利益を受けているのは理不尽だと思います。みんなが平等に暮らせるように、発言したり発信したり、自分のできることをしようと思っています。

 

── 阿部さんが活動を続ける理由はなんですか。

 

阿部さん:たまたま私の周りにセクシュアルマイノリティの友達がいて、友達がつらい思いをしたり悲しんだりするのが嫌だと言うのが根底にありますね。おかしいことはおかしいし、なんで変えられないのかなという思いがあります。

 

「なんで当事者でもないのに活動しているの?」と聞かれることもあります。それに、声が大きくなるにつれてバックラッシュもあって。「女子トイレにトランスジェンダー女性を入れるな」とか、変えていこうとする声が大きくなるほど反対の声も大きくなっているのが現状です。でも、私としてはこういう段階を経ていかないと変わっていかないので、声を上げ続けること、伝え続けることが大事だと思っています。

 

PROFILE 阿部知代さん

群馬県生まれ。上智大学卒業後にフジテレビジョンにアナウンサーとして入社、ニュースからバラエティまで幅広く担当する。パリに1年、NYに3年駐在し、NYでは全米最大規模の日米交流団体ジャパン・ソサエティで朗読講座を立ち上げ、帰国まで講師を務める。現在は報道局勤務。古典芸能からオペラ、バレエ等まで年間150本を鑑賞する舞台愛好家。河東節浄瑠璃名取。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/阿部知代