俳優でタレントのなすびさんは、懸賞生活後に海外からの取材オファーが相次いだそうです。イギリスで制作された半生を追ったドキュメンタリーについて伺いました。(全3回中の3回)

「ここまで違う」海外の視点

── 今週末のトロント国際映画祭で、なすびさんのドキュメンタリー映画「The Contestant」が上映されると伺いました。どんな作品なのでしょうか。

 

なすびさん:僕の人生を追ったドキュメンタリーなのですが、懸賞生活の話から東日本大震災の復興支援まで、僕のインタビューをはじめ、「進ぬ!電波少年」の当時のプロデューサーの土屋さんやマネージャー、僕の家族や高校の同級生の話も盛り込まれています。

 

なすびさん
ジャンプ力凄すぎ!イギリスで飛んでみた写真

── 作品をご覧になっていかがですか。

 

なすびさん:自分の話なのでニュートラルに見られないこともあるんですが、僕の人生を振り返ったものなので、「これって大体、本人が死んだ後にやるやつじゃ?」って正直、思いました。「まだ生きてんだけどな」って(笑)。メインは懸賞生活の話なのですが、「なぜこの人はこの生活に耐えられて、そのあと人に尽くす道を選んだのか」という投げかけになっているのかなと思います。

 

── イギリスで制作された作品だそうですが、懸賞生活に出演されたことは海外メディアからずっと注目されていたそうですね。

 

なすびさん:懸賞生活が終わって記者会見をしたときに、すでに海外の大手メディアも取材に来ていました。そのときから、「あなたはどうして耐えられたのですか?」というようなネガティブな投げかけが多かったです。当時、日本の皆さんは、視聴率30%を超えたバラエティで面白い番組だという声が大多数だったのですが、海外の方の切り口は違っていて。

 

こうして25年経っても定期的に取材のオファーがあります。先日もデンマークのメディアから取材を受けました。海外メディアは、バラエティとして面白くみているというより、僕がなぜ1年3か月もの間、部屋に閉じ込められたリアリティ番組に出て、その後もなぜ普通に生きられているのか、信じられないという反応ですね。

 

なすびさん
都内近郊での移動は自転車を使うなすびさん

── 懸賞生活の後は、人間不信に陥ったというお話を伺いました。

 

なすびさん:生き抜くことで必死だった姿をおもしろおかしく捉えられたので、その後、トラウマを抱えたり人間不信になったりしたこともありました。でも日本では海外メディアのような質問は聞かれませんでしたね。海外メディアからは「なんであの生活ができたのか」とそこばかり聞かれて。同じものを見てもまったく違う見方があるんだなとずっと感じています。今回のドキュメンタリーもそういった海外の視点で制作されています。

懸賞生活を違った見方で

── 今はコンプライアンスが重視されていますが、当時の日本のバラエティはさまざまなものが放送されていましたよね。

 

なすびさん:日本ではあくまでもバラエティ番組として捉えられていて、面白かったらなにしてもいいという流れがありました。日本人にはそれが刷り込まれていたのですが、海外の方がいきなりあれだけを観たら、「日本はなんでテレビで流せているの?」という疑問がまず来るみたいですね。

 

当時は個人がSNSで発信する時代でもないですし、多様性を大事にすることも叫ばれていませんでした。バラエティ番組という大前提だったら観る方も疑問には思わないし、視聴率も取れている。僕だけに限らず、今でこそ問題視されるような内容も、当時は普通に放送されていましたし、誰もそれを止めるような動きはありませんでした。

 

なすびさん
被災地で木の伐採作業のボランティアに勤しむなすびさん

── 作品を皆さんにどのようにご覧になってほしいですか。

 

なすびさん:海外の作品なので日本の方が思っている僕のイメージと違った切り口になっていると思います。エンターテイメントとして笑いで楽しめるものではないけれど、懸賞生活を違った目で見返して、海外の方はこういう見方でなすびを捉えているというのがわかるかと思います。

 

こういった経験をした人間がどうなるか、僕の生き方と皆さんの生き方を照らし合わせて、興味を持ってもらえたらなと思います。いろんな生き方があって、皆さんの生き方のエッセンスのひとつとして捉えてもらえたら良いですね。いろんな人の生き方を見ることで自分の人生に彩を与えるというふうに観てもらえたらと思います。

 

PROFILE なすびさん

なすびさん

俳優・タレント。「進ぬ!電波少年」の「電波少年的懸賞生活」にて、懸賞のみで生活しブレイク。その後、元々志していた喜劇俳優を目指し俳優としての活動本格化。福島や東北への復興応援や自然環境保護活動、コロナ災禍の地元産業応援や未来に残す啓蒙活動を模索し続ける。半生を追ったドキュメンタリー作品「The Contestant」がトロント国際映画祭を皮切りに、世界公開。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/なすび