共働きで子どもを育てていこうとするなら、協力者がいたほうが心強いものです。妻にしてみれば、それは自分の両親がいちばん最適なケースも少なくありません。ただ、実際には夫と自分の両親との関係に悩む女性もいるようです。
仕事と子育ての両立に限界「母親からありがたい提案が」
結婚して6年たつサヤカさん(39歳、仮名=以下同)は、昨年、2歳年上の夫と5歳、3歳の子とともに、彼女の実家近くに引っ越しました。
「共働きでこの年齢の子どもをふたり育てるのは限界でした。保育園はもちろん、地域の保育ママを頼ったり、ベビーシッターを雇ったりしましたが、精神的にも気ばかりつかって心配が抜けない。そんなとき『近くに越してくることはできないの?』と、母が声をかけてくれたんです」
近所の人が経営する賃貸マンションに空き部屋が出て、「あなたたちになら貸してもいいと言ってる」とのこと。渡りに船とサヤカさんはすぐに「お願い」と頼みました。
「その地域の保育園を探すと、すぐに空きはないけど、ちょうど拡充をはかっている最中なので数か月以内には入れると。ラッキーなことばかり続いて、うれしくなりました。いちばんのネックは夫でしたが…」
実家近くに越せば、サヤカさんも夫も出勤時間が短縮できます。ただ、夫はどことなくサヤカさんの実家と距離を置きたがっているのがわかっていただけに、彼女も言いづらかったそう。
「“こんな話があるんだけど…”と、相談の形で持ちかけましたが、夫は気が進まない様子。『オレたちも大人なんだから、親に頼るのはやめよう』と。“だったら、定時で帰ってきて家事育児を分担してほしい。そうでなければ私が倒れるのは時間の問題”と、はっきり言うと、夫はしばらく考えてから、『会社が近くなるのは魅力だけど』と折れてきた。それでようやく引っ越しが決まったんです」
両親の誕生日会に理由をつけて参加しない夫
徒歩10分ほどの距離に住むようになり、保育園のお迎えや残業時に母が子どもを預かってくれることでサヤカさんの日常は、格段にラクになりました。夫もそれまでの生活を変えることなく、適度に飲みに行ったりしてストレス発散。最低限の家事分担をして「やってる感」を保つことができたのです。
「夫と争ってもろくなことにはならない。だから夫のやるべき負担を少し母に担ってもらった。その分、おこづかいとして母には支払っていました」
母がサヤカさんの家に来ることはほとんどありませんでしたが、一度、子どもたちを自宅まで送ってくれたとき、帰宅したばかりの夫と鉢合わせしました。そのとき夫があからさまに嫌な顔をしたのをサヤカさんは見てしまったのです。
「その日、私は体調が悪くて、実家まで子どもたちを迎えに行けなかったんです。それなのに夫は母を見るなり嫌な顔をした。すぐに取り繕っていましたが、母も気づいていたと思います」
両親の誕生日を実家で祝うことにしましたが、夫はあれこれ理由をつけて来ませんでした。両親が「私たちがお金を出すから、みんなで近場に一泊旅行しない?」と言ってくれたときも、夫だけは「仕事があるから」と参加しませんでした。連休中で、仕事などないのはわかっていたのに。
「あまりに夫が私の親を避けるので、私は親に言い訳をし、夫にも両親の状況を伝えないよう配慮しています。でも元をたどれば、どうして夫がそこまで両親を避けるのかわからない。このまま生活するのも疲れてきました」
夫の言動に変わったところはありません。ただ、彼はサヤカさんの両親を避けているだけ。このまま何もなかったように生活を続けるのか、あるいは一度、みんなで話し合ったほうがいいのか、サヤカさんは迷っているといいます。
「義理の両親とはいえ、最低限の礼儀というものがあるはず。私の親なのだからもう少し大切にしてくれてもいいはずなんですけどね。夫にはもう両親がいないので、私と親が仲良くしているのが嫌なのかもしれない。ただ、そのあたりを突くと夫を傷つけてしまう気もするし…」
子どもの誕生日に両親を呼ぶのを嫌がる夫ですが、今年は呼んでみようと思うと、サヤカさんは言います。どこかでことを起こさないと、問題は解決しないから。誰にも頼れない、自分でやるしかないと、彼女はきっぱりと言いました。
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里