トレードマークだった太い眉毛を細くして、ますますテレビ番組で活躍中の井上咲楽さん。最近では山奥にある実家や、発酵食品好き、得意のマラソンなど、その素顔にも注目が集まります。どんな子ども時代を過ごしたのか、話を伺いました。(全4回中の1回)

 

井上咲楽さん

田舎暮らしはイヤだった

── 栃木県・益子町出身の井上さん。山の中にあるご実家での、自然な暮らしがテレビ番組でも取り上げられていましたね。

 

井上さん:私が小学1年生のときに、家族で益子に越してきました。もともと両親は自然に囲まれた環境で手作り生活をしたいとか、周りを気にせず誰にも邪魔されないところで自由に暮らしたいという夢があったようです。

 

それまでは益子の隣町に住んでいて、街なかでの賃貸暮らし。幼かった私は、益子の中でも山のエリアに越すと決まったときはすごく残念で。便利な家のほうがいいのにな、と思っていました。

 

益子の家は近くにスーパーやコンビニもないし、駅も遠い。山なので上り下りが大変で、小・中学校は片道2キロを歩いて通います。周りの人からは「いいよね」と言われることもありましたが、何がいいのかちっともわからなくて。高校生ぐらいまではそんなふうに思っていました。

 

自然に囲まれた井上咲楽さんの実家
自然に囲まれた益子の実家

── 家はお父さんが自作で建てられた、と何かで拝見したのですが…。

 

井上さん:それ、けっこうよく言われるのですが、毎回訂正しているんです(笑)。家は設計士さんに建ててもらって、室内の家具の造作や、壁を塗るとかそういうところを父がやったという感じです。

 

父は木型職人で、何かを造作することは得意な人。趣味に深くハマるタイプで、釣りだったり、サッカーだったり、一時は担々麺にハマっていました。母と一緒にバイクで旅行していたこともあったそうです。

 

母は手仕事全般が好きで、とくに食生活においては何でも手作りする人です。庭で採れた柚子でポン酢をこしらえたり、味噌や豆板醤、塩麹などの調味料を作ったり。梅干しやらっきょう漬け、納豆なども作っていました。

 

井上咲楽さんの実家のウッドデッキ

── 自給自足のような暮らしでしょうか?

 

井上さん:調味料や保存食を作っているくらいで、あとは家庭菜園を少し。家は山の中に建っているのですが、あまり農業に向いてない土なんです。だから一部の土を入れ替えて、最近ようやくちゃんと家庭菜園ができるぐらいになってきました。その小さな畑で野菜をいろいろ育てていますが、食材すべてをまかなえるほどではありません。

 

井上咲楽さんの実家の家族
ウッドデッキで食事をすることも。釣ってきたイカを娘たちに焼く父

炊飯器よりも土鍋を先に覚えた

── 幼少期に、ご両親から教えられたことで覚えていることはありますか?

 

井上さん:母からは、「割れる器を使いなさい」とよく言われていました。雑に扱ったり落としたりしたら割れるんだよということを学ぶためだと思うんですけど。私はかわいいプラスチックのコップが使いたいのに、うちは重くて地味なコップだなぁと残念で。

 

あとは、ごはん粒は1粒も残さないようにとか。食べ終わった器はふき取ってから、洗いやすくするために水に浸けおきするように、ともよく言われました。

 

家が山の上だったので、お皿についた油をそのまま流してしまうと、排水管が汚れて詰まってしまうことがあるんですよ。そうなると業者の人を呼ばなければならず自分たちも困るから、ちゃんとふいてから流しに入れてね、と。

 

料理上手な井上咲楽さんの母が用意した食卓
料理上手な母が用意した食卓。6人分の食事が並ぶ

── SNSで自炊の様子も発信されていますね。子どものころから、お母さんのお手伝いはしていましたか?

 

井上さん:近くにお店やコンビニがなかったこともあり、姉妹4人とも幼いころから土鍋でご飯を炊けるよう教えられました。うちは炊飯器がなかったので。

 

覚えているのは、学校で炊飯器を使った日のこと。同級生に「お米炊いたことないの?」って聞かれて、「うちは土鍋だから…」と返すと「土鍋!?」と驚かれて。それがすごく恥ずかしかったんです(笑)。いまは「土鍋で炊けるのすごいね」なんて言ってもらえますけど、変な感じです。

 

広大な井上家の庭。もはや山の風景

── 幼いながらに生活力が身についていたんですね。井上さんは環境問題にも関心を持たれていますよね。家庭の影響はありましたか?

 

井上さん:SDGsという言葉が流行り、実家での暮らしに注目していただくことも増えました。うちの地域はゴミ袋が有料なので、家族6人で何袋も出すとお金がかかります。そのせいもあって、生ゴミはコンポスト入れて、乾燥させて肥料に。紙ゴミは分別するなど、そういう習慣は自然と身につきました。

 

冬は薪ストーブのために薪割りをする必要がありますし、春夏は草刈りもしないといけない。木の家なので管理も大変だったりして、でもそういう不便な生活をしながらも学んだことは多いです。

 

暖房器具でもあり調理台にもなる薪ストーブ

── 現在は東京でひとり暮らしをされていますね。実家を離れて感じることは?

 

井上さん:休みができるとすぐ益子へ帰るぐらい、いまは実家が大好きです。仕事終わりの午後に帰省して、夜ご飯を食べて、翌日朝に帰ることもあるのですが、やっぱりすごく落ち着くんですよね。

 

益子には東京にないものがあるし、不便なことも多いけれど、そこにあるのは確実に価値のあるもの。大人になるにつれて、そう感じます。実家に帰ると、自分の中の何かが「整っている」という感覚になれるんです。

 

PROFILE 井上咲楽さん

1999年、栃木県生まれ。2015年、第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン特別賞でデビュー。現在は多数のバラエティ番組に出演し、テレビ朝日系の長寿番組「新婚さんいらっしゃい!」では8代目アシスタントを務める。

 

取材・文/大野麻里 写真提供/井上咲楽