知的障がいを伴う重度自閉スペクトラム症の娘、ゆいなさんとの日常をユーモアたっぷりに発信し、Instagramフォロワー数が3.2万人を超える蓬郷(とまごう)由希絵さん。ゆいなさんの姉、ここなさんが小学5年生のときに描いた絵本を公開したところ、障害のある子の兄弟・姉妹を指す「きょうだい児」の本音に大きな反響がありました。

「バスケをしているときはわたしだけを見てくれる」独り占めできない母への想い

きょうだい児は外出や旅行などが日常的に制限されたり、人目が気になってしまったりすることはあっても、障害を抱える当事者ではありません。不満や寂しさを抱えていても、きょうだいのケアをする親の大変さをそばで実感しているため、自分の気持ちをオープンにできずにいることが多いと言われています。

 

顔を寄せ合い笑顔で自撮りをするここなさん(左)と知的障がいを伴う重度自閉スペクトラム症児のゆいなさん(右)
自由研究で絵本を描いた理由

話題となった絵本『私の気持ちについて』は現在中学3年生のここなさんが小学5年生のときに、知的障がいを伴う重度自閉スペクトラム症の3歳下の妹、ゆいなさんへの気持ちを自由研究の課題で描いたものでした。

 

「私の妹は自閉症というこせいを持っています。さいきんゆいながいていやだなと思うときやめんどくさいなと思うことがあります。それをみんなにわかってほしくて、このことを書きました。」(原文ママ)

 

小学生らしい”マッチ棒人間”のイラストが添えられた絵本には、外出先で妹に大きな声を出されて恥ずかしかったこと、何度も同じことを聞いてくることなど、日常で妹をいやだと感じた瞬間が綴られています。

 

恥ずかしさを感じたとき

この絵本を読んだ人からは「涙が止まらなくなりました」「素敵な絵本」「気持ちが伝わった」と多くのコメントが寄せられました。

 

母の由希絵さんに当時のことを聞くと「自由研究で自分の気持ちを描きたい」と、ここなさんから事前に言われたそうです。

 

「いいんじゃない、やってみなと言いました。普段、気持ちをぶつけてくることがない子だったので、実際にでき上がったものを読んだときはハッとしましたし、涙で前が見えなくなりました」

 

絵本の中でここなさんは、バスケットボールを始め、一生懸命になれたこととともに「バスケをしているときだけは私だけの時間 お母さんも私だけをみてくれている」と普段独り占めすることができない母親への気持ちを滲ませていました。

 

「ここなに我慢させていることはわかってはいました。もちろん二人だけの時間をつくっていましたが、それだけでは娘の気持ちを埋められない。自分だけを見てくれている時間に幸せを感じているんだなと、あらためて痛感しました」

 

自分だけを見てほしいという気持ちが伝わる1ページ
バスケットボールを楽しむ笑顔のここなさん

物心がつく前には「自分の妹が他の子とは違う」ということに気づいていたというここなさん。頼りたいことがあっても、母・由希絵さんが妹に関わっているときには、お父さんのほうに行くようになったと言います。

 

「妹のことを気にして我慢しなくていい。言いたいことは言いなさいと伝えていました。でも、自分で我慢をしていることに気づいていないんですよね。自覚がなく自然とできてしまうんです、子どもながらに空気を読むというか」

 

今でもここなさんに我慢をさせないことを心がけているという由希絵さん。妹に叩かれても我慢してしまうここなさんには、「やり返せ!」「普通の姉妹と同じでいいの!」と声をかけるそうです。

 

「うちではゆいな(妹)中心の生活にならないようにしています。ゆいながいるからここなの行きたいところには行けないと思ってほしくないですし、二人とも同じようにわが家の中心です。外食やお出かけも行きたいところがないか、ここなに先に聞いています」

「お前の妹、変だな」同級生の言葉に姉は…

きょうだい児として、いやな気持ちを隠さずに綴ったここなさんですが、絵本では妹に頼ってもらえたときの喜びや個性的な妹の存在を誇らしく思っていることも描いています。

 

「ゆいなのことは小さなころからかわいがっていました。小学校のときに同級生に『お前の妹、変だな』と言われたことがあるんです。それにすごく怒って、ほうきを振り上げて相手の子を追いかけたそうで、学校から連絡がきました(笑)。普段どちらかというと温厚で感情をぶつけるタイプではないので驚きましたよ!妹が否定されたように感じて許せなかったみたいです」

 

と、母の由希絵さんが当時のエピソードを教えてくれました。

 

妹に頼ってもらえたときの喜び

私と同じ気持ちの人がいたら…

ここなさんはバスケを通して同じような境遇の友だちに出会い嬉しかったことを「私といっしょの気持ちの子がいるとしった」と描いており、”自分だけ”という孤独感から抜け出せたことも描いています。

 

「きょうだい児も障がいのある子の親も、なんで自分だけ、と思ってしまうことがあります。でも、ここなはバスケットチームで自分と同じように、きょうだいに障害があるというお友だちと知り合い気持ちが楽になったようです。

 

私のインスタグラムのフォロワーさんは障がい児や自閉症児を育てている方が多くいます。いま当時のここなと同じように悩んでいる人には、SNSを通じて繋がることで“自分だけ”という気持ちから少しでも抜け出すきっかけになってもらえたら嬉しいです!」

 

家族で出かけた際の写真からも伝わる由希絵さんの明るさ

ここなさんは絵本の終わりに自分が強く思うこととして、

  1. がまんしたくない。(ゆいなのことで)
  2. しっかりしないといけないと思うこと。
  3. みんなで見守ってほしい。(ゆいなを)
  4. 毎日楽しく過ごしたい。
  5. ゆいなも笑っていてほしい。


の5つを挙げ、「私と同じ気持ちの人がいたら、これをよんで元気になってほしい」と締めくくっています。

 

PROFILE 蓬郷由希絵さん

とまごうゆきえ。岡山県出身。2児の母。次女のゆいなさんが2歳の時に知的障害を伴う重度自閉スペクトラム症の診断を受ける。自身のインスタグラム(@tomagou.don)でゆいなさんの成長記録や家族の日常の様子を発信しフォロワー数は3.2万人を超える。人を笑わせるのが好きな、歌って踊って家事するBBA。

 

取材・文/村上順子 画像提供/蓬郷由希絵