歌手の倉木麻衣さんは2016年からカンボジアで寺子屋を建設するプロジェクトを行っています。教育の大切さを実感したという現地の子どもたちとのエピソードについて伺いました。（全2回中の2回）
電気がない環境で音楽の授業を
── 2016年からカンボジアで寺子屋を建設するプロジェクトをされていますが、活動を始めるきっかけはなんでしたか。
倉木さん：2006年にケニア出身の女性環境保護活動家でノーベル賞を受賞したワンガリマータイさんと対談させていただく機会がありました。マータイさんは「もったいない」という言葉と3R（Reduce＝ゴミの削減 Reuse＝再利用 Recycle＝再資源化）を世界に提唱された方なのですが、一緒にお話をさせていただくうちに、社会貢献や環境問題は難しそうなことだと思わずに、自分の身近でできることから始めること、そしてなによりも“気づき”が大事なことだと思いました。そこから音楽を通して自分にできることを発信してきました。
2014年に日本ユネスコ協会連盟の皆さんとカンボジアにある寺小屋を訪れる機会をいただきました。寺小屋は生活に必要な読み書きを学ぶ場で、音楽の授業がないと聞いたので、自分にできることとして寺小屋で初めて音楽の授業を行ったんです。
電気がないので、電源がいらない楽器として日本から持参したカスタネットを使うなどして授業を行ったのですが、子どもたちのキラキラ輝く目がとても印象的でした。労働力として働き手となる子どもたちが多く、まだまだ学ぶことができない子もたくさんいると伺ったので、少しでも多くの子どもたちを通わせてあげたいと思いました。日本に帰国後、皆さんの協力のもと寺小屋を建設するプロジェクトを立ちあげ、現在までに22軒の寺子屋が完成しています。
教育は豊かな夢や未来に繋がる
── 日本では中学までの義務教育がありますが、現地を訪れて感じることはなんですか。
倉木さん：日本にいると当たり前なことは実は当たり前ではない世界がまだあります。カンボジアでは子どもたちに将来の夢を聞くとエンジニアか、先生という答えだけが返ってくるんです。その理由を現地の方に伺うと、それ以外の職業を知らないからだそうで…。教育を受けることで世界が広がって、より豊かな夢や未来に繋がるということにあらためて気づきました。
── 現地の子どもたちとのやりとりで印象に残っていることはありますか。
倉木さん：「chance for you」という私の曲をクメール語に訳して子どもたちと一緒に歌ったのですが、みなさんとひとつになれたような感じがして、とても感動しました。最後に、みんなに将来の夢を書いてもらったのですが、「歌手」と書いてくれた子どもがいて。少しでも子どもたちの未来が広がったことが嬉しかったですね。
── 寺子屋は子どもだけではなく大人の方の職業訓練の場でもあるそうですが、今冬のシンフォニックコンサートツアーでは現地の方が制作したグッズを販売する予定だと伺いました。
倉木さん：今冬のグッズはまだ未定なのですが、これまでにも寺小屋で学んだスキルを利用して制作した、湖に生えるホテイアオイという水草で作られたコースターやバッグ、フォトフレームを販売してきました。寺子屋は建てることも大事ですが、そこで実際に未来に向けて運営されていくことがさらに大切だと思っています。
学べる環境があって、それを手助けする人たちがいて、そこで学ぶ子どもたちがいる。未来に向けてのステップを、音楽を通じて支えていけたらと思います。引き続き、自分にできることを続けていきたいと思っていますし、皆さんも自分にできることからぜひ取り組んでいただけたらと思います。
PROFILE 倉木麻衣さん
1999年「Love, Day After Tomorrow」で日本デビュー。ミリオンヒットを立て続けに記録し、1stアルバム「delicious way」では400万枚を突破。名探偵コナンとの長年にわたる強いタッグにより、2017年にはコラボ21作品で 「同じアーティストにより歌われたアニメシリーズのテーマソング最多数」としてギネスワールドレコーズ™に正式認定。近年では「渡月橋 〜君 想ふ〜」が大ヒットを記録。今冬、デビュー25周年イヤーへ向かうヒット曲満載のシンフォニックコンサートを全国4箇所で開催。
取材・文／内橋明日香 写真提供／倉木麻衣
